休暇
ディエゴガルシア島 4月21日 1031時
"ウォーバーズ"は休暇に入った。しかし、何もないこの島ですることと言ったら、ランニング、散歩、釣り、海水浴くらいのものだ。原田とリーは乗り気だったが、佐藤は正直言って海というのが好きではない。そこで、こっそり定期便で運んでもらったセスナ172Mでの遊覧飛行をしようとした。しかし、一人でこそこそ組み立てている最中に原田に発見されてしまい(コブラツイストの刑に処された)諦めてのんびり過ごすことにしたのだ。
「ようよう。こんなにいい場所なのに泳がないのか?」コルチャックが愛犬のハッセウインドを連れてやってきた。ハッセウインドは黒いラブラドル犬で、フィンランドのエースパイロットがそのまま名前になっている。
「泳ぎは嫌いな上に苦手だよ」
「おいおい、それで撃墜されて海に落ちたらどうする気だ」
「救命ボートがあるさ」
「食えん奴だ」
「一ついいか」
「何だ」
「どうして我々がここを使うことができた?」
「そりゃあ、アメリカはここを放棄したし、イギリスもここを使う気が無いから売りに出したからだろ?」
「ここを抑えれば、インド、中東、アフリカ、アジアに睨みを利かすことができる。なのにどうしてだ?」
「アメリカは中東をほぼ諦めて東アジアや東南アジアへの関与を重視してるし、ここを維持するだけの金も無い。そうなると、持っている意味も無い」「イギリスは?」
「さあな。俺は知らんよ。ただ、ここは押さえておいて損は無い。飛行場は大きいし、周りは開けているから、万が一空爆しようとする敵が現れても、すぐに気づく」
「おまけにこんな小さな飛行場、攻撃するメリットが無いし、周りにできる国も無い」
「そういうことだ」コルチャックはハッセ・ウインドを連れて立ち去ろうとした。
「あ、そうそう。原田がお前を探していたぞ。たまには遊び相手になてやれよ」コルチャックがニヤニヤしながら言う。「やなこった」佐藤はそう答えて本を顔に置いて、昼寝に入った。