カスピ海-2
カスピ海 4月19日 2226時
ミラージュは相変わらず哨戒艇の上空を飛び回っていた。しかしアゼルバイジャンの警備艇の方は自国領海にいるので、立ち退きを迫られる謂れは無いとしてその場に留まり続けた。
「一体どういう事だ?こっちは1センチたりともイラン側に進入していないぞ」
ウルモフは益々混乱してきた。
「わかりません大尉。もう一度呼びかけてみましょう」
しかし、何度呼びかけても戦闘機のパイロットからの回答は無かった。
ミラージュが急降下しながら哨戒艇に向かってきた。1番機は20ミリ機関砲の照準を哨戒艇から15メートル程離れた場所に定め、発射した。
「撃ってきました!」
外で見張っていた一等兵が叫んだ。
「待て、慌てるな!今のは警告だ!仕方がない。本部に連絡、帰投しよう」
ウルモフは部下に命じた。
「了解しました!面舵いっぱい、回頭する」操舵員はエンジンを動かして、その場から離れようとした。
ミラージュは再び哨戒艇に向かって急降下した。今度はロケットポッドから2.75インチロケットを全弾発射した。哨戒艇は攻撃されたことを本国に知らせる間もなく沈没した。
実は、ウルモフたちを攻撃してきたミラージュは、イラン空軍のものでは無く、なんと、遥か北、グルジアから越境してきた機体であった。しかも、グルジアは、このタイプの戦闘機を保有している国では無い。ウルモフらを殺したのは、そもそも、グルジア空軍に所属している人間では無いのだ。しかし、その事が明るみに出るのは、ずっと後になるのであった。




