初陣 SKY WAR
国立競技場と同じくらいある大きな第1闘技場は吹き抜けになっている。
空軍の施設なのだから当たり前と言えば当たり前なのだが。
ところで、飛行パワード・スーツは生身の人間が身に付けるモノだ。
当然、受けるべき加速Gは生身の身体に受けることになってしまう。
そこで発明されたのが<グラビティキャンセラー>という技術である。
300km/hという高速で飛ぶこともある軍用機は基本的に金属装甲に覆われている。
民間機は私服で飛べる、というのを売りに60km/hを限度にしているのだが、軍用機はリミッターなどない。
顔面は基本的にはなにもつけないのが主流だが、身体には西洋甲冑をより曲線的にした(空気抵抗を減らした)デザインの金属装甲をつけることが多い。
着色は様々であり、デザインもオーダーメイドならではの独自性があるが、その点はほぼ一致する。
とは言え、機動特化は鎧はとても薄く、銃撃特化はとても厚いなど多少の変化はある。
そんな装甲の内側の重力を一定に保つシステムを確立することで、地上で走るのと変わらない環境を提供している。
―閑話休題―
「おい訓練兵遅れるな。始めるぞ」
椿指導官の命のまま、25/200人の精鋭が五チームに別れて整列する。
「様子見に模擬戦闘訓練を行う。5班はシード。1vs2、3vs4だ。5班は3班vs4班の勝利チームとやること。では、まず、1班と2版!!」
佐上のチームは1班。
初戦である。
「なんや、トップバッターか。しゃーないのう。桜はん援護頼むで」
「私は遊撃。最初はサークル・ロンドで様子を見る。佐上、池上、遠山。お前たちがオフェンダーだ」
「ふん。言われなくてもそのつもりだ。俺の武器は手数勝負だ、速度には一歩劣る。佐上、お前の機体はかなり早かったな。最大火力で攻撃しろ」
「ほんなら、わいが1番手引き受けるわ。わいのは根っからのスピード勝負や。ブラスターソードで陽動するから2撃目で落としてえな」
「分かった。そのまま後衛の狙撃主を最初に潰そう。たしか、2班は二人狙撃主がいたはずだよ」
「りょ、りょうかいです」
佐上は唇を興奮に緩め、機体の装着を始めた。
「では、模擬戦闘訓練、開始!」
掛け声と共に、エリアの端から十人の選手が飛び出す。
「セェェェェェェヤァァァァァァ!!」
国立競技場ほどある、と言ったが、護衛がある。
国立競技場よりデカイ、という方が正しいだろう。
時速220km/hで突っ込んだ遠山は開始2秒で敵前衛を捉えた。
ブラスターソードはその名の通り、ブースターで加速する剣である。
柄から、赤い炎を散らしながら、加速した剣はほぼ同じ速度で突っ込んできた相手の日本刀を吹き飛ばした。
大きく上体を反らした敵に構わず横をすり抜ける遠山に驚いている敵は次の瞬間大きく息を飲んだ。
真っ黒の機体は鋭い印象を受ける機体だが、装甲が極端に薄い。
ところどころ光ってるところを見ると、電圧で強度を増しているらしい。
そしてなにより、真横から振られている剣。
<エターナル・インフィニティ>と呼ばれる、先月出たばかりの最新兵器である。
高圧電流が4本の柱を作っており、それが中心の伝導体である長い剣身を覆っているのだ。
切れ味は最高ランク。
「ウオオオオオオオ!!」
佐上は雄叫びを上げながら敵の胴を浅く薙いだ。
装甲が削れる。
非伝導体であったらしく、感電はしていない。
剣を薙ぐ運動モーションを残したまま、回転回し蹴りで戦闘不能にした。
「なにをモタモタしてるんだ」
無線通信で池上から叱責を受け、横を向いた瞬間。
大上段からの一閃。
回避行動は間に合わない。
剣は流れて引き戻せない。
殺られる…!!
ギィィンッ
「っ!?」
真上から迫っていたプラズマブレードは根本から何かに弾き飛ばされていた。
そこに、池上が飛び込み、一騎討ちを開始する。
「大丈夫ですか?佐上くん」
戦闘前とは別人のように落ち着いた声の桜さん。
つまりは、遠距離狙撃によってサポートされたのだ。
「あ、ああ、ありがとう」
「いえ。…池上さん!実弾来ます!1メートル下がって!」
声の直後、俺の鼻先を掠めて青いレーザーが通りすぎ、相手の狙撃主を牽制する。
あ、あぶねえよ…。
「なにをしている、佐上。はやくいけ!」
池上の相手は短剣と盾で上手くいなしてるらしく、グルグル回りながら乱戦模様だったが、手助けは要らないということだろう。
「OK」
短く答えてフルスロットル。
右手の大剣を中段刺突の構え。
「やっときおったな、このノロマめ」
ニヤニヤとしながらも、AR機能による仮想キーボードで物理盾を操作している遠山の後ろに付いて状況の不利を悟る。
「残りは狙撃主二人とミドルレンジで弾ァばら蒔くビビリどもやで」
そうなのだ。
プラズマレーザーこそないが、実弾狙撃とアサルトライフル4丁。
一人が恐らく、池上を狙い撃った狙撃主。
もう一人の狙撃主と戦術特化の機体は一人2丁のアサルトライフルを構え弾を無造作に撃ちまくっている。
これは、確かに突っ込めない。
「ルイ!!支援銃撃頼むぞ」
「なに馴れ馴れしく名前で読んでるのよ」
「苗字が長いッ!」
理不尽な物言いで返答すると、最高速度で世界最高峰のスペックを誇る<スカイ=アクセラver.6V>は限界高度―積乱雲より少しした―まで急上昇した。
一転。
ドルフィンキックのように空中で宙返り。
これには機体の重力安定装置も悲鳴を上げたのか頭に血が上る。
「ッウ、ウォォオオオオオオオ!!」
雄叫びをあげると顔の前にAR技術による空中投影ディスプレイを操作して、光学遠距離視認用カメラを起動させる。
タイムラグほぼゼロで敵狙撃主の頭を視認。
画面を見ながら機体の角度を微調整するとグングン加速していく。
―速く…もっと速く!
高度はみるみる下がり、相手の絶対半径に突入する。
この速度で狙撃を受ければ間違いなく墜ちる。
だが…ルイならなんとかするだろう。
期待に(?)答えたのか、ルイは対地歩兵用ミサイルランチャーを敵に撃ち込んでいた。
ルイさん、下手すると訓練で死ぬんですが。
とは言え、敵に銃撃の暇を与えずにミドルレンジを通過し、最後方の狙撃主に大上段切り捨て。
電気を通さず、ただの青っぽい大剣した愛刀の峰で肩口を打ち、真下に落下させる。
ルイが敵の武器を撃ち抜くのを確認して、次の敵に向かう。
多少の被弾は覚悟の上、二人まとめて、胴薙ぎで吹き飛ばす。
流石に、見え見えの一撃は当たりが浅い。
そのまま、攻め込むが大剣では大振りになってしまい、決定打が打てない。
わざと大振りに攻撃し、敵が下がった瞬間に、愛刀を背中の―ブースターと背中の間―鞘にしまうと、腰から太刀2本を抜き放ち手数勝負に持ち込む。
お互いに雄叫びを上げながら、火花を散らし、剣と盾がぶつかり合う。
2本の太刀をクロスさせて突き刺すように打ち出し足で蹴って距離をとる。
「桜!」
答えは狙撃で返ってきた。
敵機はブースターを破壊され、戦闘不能に陥った。
「ソコマデ!」
試合終了の合図に俺らは地上に降り立った。