私は生きた蓄電池
「あっ……あぁ……!」
サラサラと音が聞こえそうな長めのプラチナブロンドに、ラピスラズリの瞳。
背は私より頭一つ半くらい高く、無駄というもののない細マッチョの体つき。
お顔は小さくシャープで、身長の半分は確実に足という抜群のスタイル。
侯爵令息であり、将来は個人的に友誼を結ぶ第三王子の腹心となる事が確実と言われるその優秀さゆえに王太子や第二王子も虎視眈々と彼を狙っているという噂をその身に纏わりつかせる男。
王族の皆様は別格としてもその地位・家柄・容貌はこれ以上ないほどの優良物件として国内に名を轟かせ、学園内では名だたる貴族令嬢はもとより独身の女性教師ですら彼とお近づきになろうと躍起になる超人。
……正直このスペック、どこのチート主人公かと思うとですよ。
「あぁ……なんて素敵なんだ……」
そんなぱーへくとな彼にも、唯一とも言える弱点があって。
それが、魔力過多症。
魔術で行使した魔力は時間経過によって少しずつ回復していくものなんだけれど、彼はそれが顕著だった。
普通の魔力持ちが一時間に回復できる量が十だとしたら、彼の場合は百五十くらい。
こんな所までオーバースペックとか、美形は大変デスネ。
いやそうでなくて……普通の魔力持ちなら自分の限界まで回復すれば止まるそれが、彼の場合は止まらない。
挙げ句に魔力が周囲へ溢れ出し、静電気がパチパチしているような状態になってしまう。
漏れ出る余分な魔力は親しい友人に分け与えるとか学園内で使用している夜間燈に充填するとか魔法にして空に解き放つとかして、今までは何とか処理してたらしいんだけど……そこに現れたのが私、だ。
「こんなにも心地いいなんて……ああ、もっと吸って欲しい……」
私のスペックは、さっぱり冴えない。
十六歳になってからは女子の平均身長となる百六十くらいから伸びも縮みもしないし、やや癖がついてふわふわの髪の毛はありふれた栗色。
向かって左が青で向かって右が碧のオッドアイは珍しいものだけど、私の能力を考えると特別目立つという事もない。
私と同じ能力を持つ人は、もっと奇抜になったりするらしいから。
スタイルも特別どこかが豊満だったり抉れたりもなく、ドレスを着る時に上げ底を検討すべきか悩む程度。
「お願いだ、令嬢……」
「っだあああ!」
おまいは現実逃避すら許してくれんのかっ!?
「離れろ変態っ!」
思わずこやつの腹にキックをぶちかますも、この美形変態に効いた様子は全くなく。
「駄目だよ、淑女らしくない」
むしろにっこり笑ってええええ!?
「ぎゃあああっ!?」
手足がっちりホールドして、体密着ううぅぅぅ!
近い、近い、顔近い!
うぁ、制服に焚き染めた香木のニホヒが!
ちょ、待っ……ひいいいぃぃ!?
スルって、スルって、腿撫でたっ!?
「あぁ、やっぱり……君の感情が揺れ動くと、吸収率が良くなるね」
綺麗な顔を美しく綻ばせ、奴は笑う。
そう、人に抱き着いて悶えて危ない台詞を吐いてたこの変態美形こそが、件の侯爵令息だったりする。
私の能力はモンスター召喚の魔術行使と、もう一つ。
私は召喚魔術の系統立った勉強のためにこの学園に入学したんだけど、今ではこっちの方が有名になってしまった。
モンスター召喚と微妙に関連づいてるとこが、割と腹が立つ。
魔力の無限吸収及び蓄積、そしてその行使。
この変態美形の魔力過多症と究極的に相性のいい能力が、私には生まれながらに備わっていた。
こやつから吸収した魔力を使ってモンスター召喚すると、従順で強力な子が呼べるんだよね……。
魔力吸収はこやつにとって身体的快感を伴うものらしく、悶えるのは仕方ないらしい。
ただね。
毎日毎日毎日、美形に抱き着かれて体クネクネされてクラスチェンジする股間を押しつけられる方の身になって欲しいんですよ。
毎日貞操の危機を感じるんですよ。
いや、こやつが必要としているのは私の貞操じゃなくて能力なのは分かりきってますけどね。
「……また現実逃避して」
「にょぎゃあああっ!?」
変態美形が顔を寄せ、人の首いいいぃぃぃ!?
ぺろって、ちゅって、ぎゃあああ!
「……ふふ」
変態美形は満足そうに笑って、私から離れた。
「今手出しするのは不味いからね……卒業後が楽しみだ」
この変態美形がとっくの昔に私を結婚相手にロックオンしている事なんて。
内々に事を運ばれ、サクッと両親に縁談を取りつけ済みだとかなんて。
学園卒業と同時に結婚式を挙げられ、その直後に食われてしまう事とか。
抱き着くより感情の触れ幅が大きい夫婦の営みはよりたっぷりの魔力吸収を実現するために、奴はそこらの絶倫もびっくりするようなタフネスを発揮する事とか。
おかげで私は妊娠しっぱなしと言えるほど孕ませられ、最終的には六男八女に恵まれる事とか。
この時の私は、まーったく知らなかったんだよおおお!