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5分小説

美少女倶楽部

作者: 弥生 祐

「ねぇ、カノジョ」

 ある日、学校帰りの道の真ん中で声をかけられた。

 今どき『カノジョ』だなんて、そう思ったけど、私はつい反応してしまった。だって、その後に続いた言葉が変だったから。

「カノジョ、くちびる売ってくれない?」

 えっ? 振り向いてみると、相手は少しくたびれた中年のおじさん。私は無視することにした。

「なあ、お高くとまんなよ。カノジョ、女子高生だろ? くちびる買ってやるからさぁ」

 私は一切知らん顔して足早におじさんから逃げ出した。わけが分からない。くちびるって、キスマークでも欲しいのかな。

 気味が悪かったけど、でも、おかしな話。だから次の日学校に行って、友達の成美にこの事を話した。


「ねえ聞いてよ、昨日さ」

 すると、

「ちょっ、愛子、声が大きいよ」

 成美ったら、驚いて私の口を塞いだ。

「ど、どうしたの?」

「もう、もし先生に聞こえたらどうすんの」

 成美はそう言うと辺りを伺い、安心したのか声のトーンを戻した。

「『くちびる』を売るなんて、バレたらまずいに決まってんじゃん」

「売るもなにも、そう声をかけられただけだって。よく意味分からなかったし」

「うん、正解だったよ。道ばたなんかで売ったら、後が大変だからね。やっぱちゃんとしたショップを通さないと」

「え、ごめん、よく意味が」

「だから、くちびるでしょ。今どき当たり前だよ。くちびる売るなんて」

 さも当たり前のように腰に手を置いて成美は言う。

「ええと……」

 私は自分のくちびるを指差して、

「キスマークとかじゃなくて?」

 そしたら成美は私を馬鹿にしたように大笑いした。

「あはは、そっか、愛子は真面目だから知らなかったかもね。あのね、この頃じゃ女子高生が売るものっていったら、くちびるそのものだよ。制服や下着を売るよりいい稼ぎになるの。だからお金が欲しい子はみんなやってるよ」

 

 私は呆然として成美の言葉を聞いていた。すぐ理解出来なかったのだ。確かに私は真面目な風かも知れないけど、でも、そんな話一度も聞いた事がなかった。

「くちびるを売るって、平気なの?」

「全然平気だよ。変なオヤジとつき合って小遣いもらうより楽だし。みんな結構やってるもん」

 成美はそこでちょっと自分のくちびるを軽くつまみ、右から左へ横に引っ張った。

 ――べりべりべり。

「ほら、私もこれ。この前売ったんだ、15万だよ」

「わ、わわ……」 

 なんと、絆創膏をはがすような音と共に、成美のくちびるが取れた。

 私は目を何度も瞬かせて、成美が手に持つくちびると、くちびるがあった顔の場所、少し凹んで上下の歯があらわになっている箇所を交互に見つめた。

「ちゃんとショップで売れば、こうやって代わりにダミーをつけてくれるのよ。ちょっと外したらグロいけど、まあ普段は外さないから平気だしね」

 成美の説明は聞こえてたけど、もちろん私はそれどころじゃなかった。成美が手に持ったその、あの、くちびるの『ダミー』から、目が放せなかったからだ。一体いつから成美のくちびるはダミーだったんだろう。ちっとも気がつかなかった。そのダミーはとてもよく出来ていて、本物そっくりの質感というか、成美の引き締まったくちびるそのものだった。


「愛子も欲しい物あるでしょ? ハンドバッグ欲しいって言ってたじゃん。愛子だったら可愛いから、いい値段で売れると思うよ」

 成美はそう言いながら、手にしたダミーをまた元あったところに戻した。そうして成美の顔についたくちびる、を見てても、それがダミーだなんて全然分からない。これだったら確かに問題無いかもしれない。

 私は、かなり気持ちがぐらついた。成美が言うように、私はこの間見つけたハンドバッグが欲しい。だけどお小遣いじゃ全然足りない。でも、これなら私にも出来そうだ。

 成美の話を聞いてると、とても簡単そうだし、誰もがやってるみたいで、別に私だけが特別な事をするわけじゃない。

 だから学校帰り、私は成美に聞いたショップに行く事にした。

 

 ショップは繁華街から外れた、雑居ビルの中にあった。階段で2階まで上がると、すぐにドアが見えた。

「……美少女倶楽部」

 すごく怪しそう。でも、私は意を決してドアを開いた。

 お店の中は、壁際に棚ばかりが並んでいる殺風景な部屋だった。私はゆっくりとお店の中に入って、棚に収められている物を眺めた。

 どれも私と同じ歳くらいの子の写真が貼ってある小箱だった。この小箱にくちびるが入ってるのかな。

「いらっしゃい」

 突然、背後から声をかけられて、びっくりする。振り返ると、お店の人らしい皺だらけのおじいさんが立っていた。

「お嬢さんは、何の御用かな?」

「あ、あの、売りたくて……」

 おじいさんは、皺の中からもはっきり分かるくらいに、にこりと笑った。

「それはそれは。ま、こちらへどうぞ」

 私は奥の小部屋へ案内された。そこはもっと殺風景な、机が一つだけの狭い部屋だった。

「その制服からすると、お嬢さんはS学園の生徒さんだね。人気のある学園だ」

 そして、おじいさんは身振りで私に椅子に座るように言った。

「で、くちびるを売ってくれると」

「はい……」

「ふむ、じゃあ、16万円で買い取らせてもらうけど、それでいいかな?」

「は、はい」

 予想してた金額より高くて、勢いよく返事が出た。

「じゃあ写真を撮らせてもらうよ。全身と、顔のアップを一枚づつ。それもいいかな?」

「はい」

「それじゃ、始めようか」

 おじいさんは私を促して、もっと奥の部屋に向った。それは棚と壁の間の狭い隙間を通って行かなくちゃいけない、隠し部屋のようだった。

「ところで、お嬢さんは誰に聞いてここに来たのかな?」

 奥の部屋へ向いながら、おじいさんがそう尋ねて来た。

「あの、友達から……」

「そうか、それは良かった。最近の子は簡単に道端で売っちまう。確かに裏で取引した方が値段は高いんだがね、うちみたいな良心的なショップでないと、衛生面や技術面で後始末が大変なんだよ」

「はぁ」

「たまに街角で売っちまった子が、ダミーだけを欲しがってうちの店にも来るんだ。本当に君は良かったよ」

 奥の部屋には手術台の様なベッドが一つ。手前にはカーテンで仕切られた写真を撮る為のスペースが用意してある。明りがついていない暗い周囲を見回して、そこで初めて私は怖くなった。

「痛くはないよ。そんなに緊張しないで、心配はいらないから」

 おじいさんが笑いながら私の腕を取ってベッドに誘う。私はベッドに横になって、それから…… 急に目の前が真っ暗になって、意識を失った。


 そんな訳で、私のくちびるはダミーになった。くちびる一つで16万円。お陰で目当てのハンドバッグも手に入った。

 最近では鼻や耳にも需要があるらしい。また欲しいものが出来たら、売ろうかな?


私は鼻を変えたいです。

でも、誰も買ってくれないだろうなあ(笑)

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― 新着の感想 ―
[一言] 女の子の安直な考え方が怖いですね……。 こういう話の場合、ラストで女の子が報いをうけるものですが、あっけらかんとしている所が、かえってその怖さを引き立てているように感じました。 しかし、大人…
[良い点] 想像できる文章 [一言] 想像してしまって、気味が悪かった(もちろんいい意味です)ですが、面白かったです。
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