第一幕 『今度のエルフはこいつに決めた!』
ブログにてだいぶ前に書いていたオリジナル小説です。方向性がな~んとなく決まってきたので、なろうさんにこっそり投稿させて頂きました。他の作品の方が優先度が上なので、執筆速度はかなり遅いです。
キーワードにもありますが、性転換ネタです。TSF支援図書館で小説を書いていた時のような気持ちに立ち戻って書いてます。ドキドキワクワクできるようなものを書けるように頑張ります。
2012 11/4挿絵を頂いたんだぜ!嬉しいんだぜ!!一番下にあるんだぜ!!!
『頑張ってね』
「……ほわい?」
通勤通学ラッシュでごった返しの駅のホームはいつも通りに見えて、いつも通りじゃなかった。席に座りたいがために早起きして最前列に立ったのもいつも通りでないと言えばそうなのだが、すぐ後ろから初対面の女に突然エールを送られたことの方がよっぽど非日常的だ。
唖然として振り返った俺に、透き通るような涼やかな声の女が微笑みを返してきた。スーツと学生服に囲まれた中、その女だけが見るからにファンタジーなひらひらした服を着ている。人種は白人っぽい。顔立ちは芸術的なまでに整っていて、美少女なんて言葉じゃ足りないほどだ。
だけど一番不思議なのは、こんな異常そのものの人間が混じっているのに、周りの人間は誰も驚いたり見つめたりしないことだ。それどころか、一人だけ反応を示している俺にばかり奇異の視線を向けてくる。
なんなんだ、この激しいアウェー感は!?もしかしてドッキリか何かか?
ちょっともーやめてくれよー!髪型とかボサボサなんだけど!ドッキリ仕掛けるのなら前に言ってもらわないと困るよ!!
目を白黒させてキョロキョロと慌てふためく俺に、唐突に女が「ごめんなさい」と頭を下げた。曇った表情もまた美麗で、思わずドキリと胸が震えた。
『私たちは、結局アイツに負けた。ううん、戦いを諦めた。やがて必ず訪れる災厄から顔を背け、目の前の幸せに飛びついた。だって、私はもうあの人から離れられなくなっていたから。あの人を失うくらいなら1000年も後のことなんてどうでもいいって思ってた。
でも、そのせいでまたたくさんの人たちが死んでしまう。悲しい思いをさせてしまう。だから、お願い。あなたはどうか、私の辿った過ちを繰り返さないで。アイツに負けないで』
「えっ?えっ?さっぱりワケワカメなんですけど!?いったいどういう―――」
――― くっくっくっ、君に決めた!
「こ、今度は頭の中で声が!?まさか俺はスタンド攻撃を受けているのか!?」
脳みその真ん中で風船がいきなり膨張したみたいに、低い声が頭蓋骨をぶわんと圧迫した。
衝撃で頭が揺さぶられて視界が右に左に激しくブレる。三半規管が機能を停止したせいで身体のバランスが一瞬で崩れて足元も覚束なくなる。
ま、間違いない!承太郎、気をつけろ!スタンド攻撃を受けているぞッ!!
『アイツに見つかった。もう時間がない。私が教えられることも少ない。アイツの言葉には気をつけて。絶対に信用してはダメ。アイツには悪意はない。だからこそ、とても恐ろしい。
それと……いつも近くにいてくれる人を大切に想ってあげて。最初は抵抗あるかも知れないけど、いつか必ず、あなたにとって大事な人になるから。俺はそうだった』
「なに、を、言って―――」
女が遠ざかる。駅のホームも、驚く群衆も、響く悲鳴も、全てが遠ざかる。
背中に冷たく硬い感触がぶつかるのを感じる。ぶっとい鉄と、ゴツゴツした石の感触。
ぷぁあん、と間抜けな音を引き連れて、塊のような風圧が真横から叩きつけられる。
巨大な何かがすぐ近くまで迫っている。これに当たれば死ぬ。きっともう避けられない。
避けるのを諦めて女を見上げる。悲しそうに、悔しそうに、唇を噛み締める女の銀髪が、風に舞ってキラキラと煌めく。浮き上がった長髪の下には、異常に尖った耳があった。
あれは、まるで―――
「エル
そこから次は紡ぐことが出来なかった。俺は電車に轢かれて、一秒にも満たない時間で木っ端微塵になって死んでしまったのだから。
運に恵まれていたわけでもなく、不幸だったわけでもない。金持ちでもなく、頭脳明晰でもなく、イケメンでもなく、スポーツ万能でもない。でも、貧乏でもなく、ド低脳でもなく、ブサ男でもなく、運動音痴でもなかった。生まれる時代が違ったとか豪語できるほどの才能も持っていない。
思い返してみれば、実に中途半端で平々凡々な人生だった。
だから……もしも次の人生があるのなら、その時は思いっきり贅沢に謳歌してみたいものだ。
「第29小隊隊長、カーク・アールハント。ご喚問に応じて参上仕りました」
「うむ」
首都西地区の騎士団を纏める中隊長は、こちらに目を向けることもせずに兜の飾りを磨いていた。希少な動物から採れる油を絹布に浸し、まるで子どもを慈しむように磨きこんでいる。これでは「中隊長は鎧の輝きで敵を倒す腹積もりだ」と噂されるのも致し方ないだろう。
溜め息を吐いて退出したかったが、こんな役立たずの小太り野郎でも上官であることに変わりはない。というより、貴族のボンボンで構成された騎士団ではこいつのような肩書きだけの似非騎士は珍しくない。いちいち憤慨していたらキリがないのだ。
直立不動のまましばらくじっと待っていると、兜を磨き終わって満足した中隊長がじろりと俺に目を向けた。意地の悪い、典型的なムカつく貴族の笑顔だ。
「おい、低級騎士。貴様に特別な探索任務を与えよう。今すぐに、『聖禁森』に出立しろ」
「『聖禁森』……ですか?しかし、あそこは聖地として封印されているはずでは……」
聖禁森とは、ある伝説の始まりの聖地として封印されている森のことだ。周囲を高い塀で覆った森は、騎士団の許しがなければ入ることは出来ない。探索もされていないため、広大な森の中がどうなっているかは誰にもわからない。首都の近くにありながら人智の侵入が許されない、特別な場所だ。
もちろん、幼い頃から伝説を子守唄がわりに聞いていた身としては実際に入ってみたいという興味はある。まだアールハント家が子爵の爵位を有していた頃は、亡き両親とともに近くを観光したものだ。
しかし、今は森の探索などしている場合ではない。騎士は全員が大遠征を間近に控えているのに、なぜいきなり探索など言い出すのか。
不審に眉を顰める俺に、中隊長は嘲笑うようにふんと鼻を鳴らす。
「如何にも。本来なら貴様のような貴族崩れの賤民が立ち入って良い場所ではない。しかし、皇帝府からの勅令なのだ。我ら騎士団の討伐軍に加わる名誉には遥かに劣るだろうが、正式な任務には違いない」
「こ、皇帝府から!?」
皇帝府とは、皇帝の御意を得てそれを下々に伝えるための皇帝直属の意思決定機関だ。そこが特定の低級騎士に命令を下すなど、本来ならありえないことだ。
「先日、御前会議が行われたのは知っているな?その場において、エルフ教徒のヌモス大臣らが、何をトチ狂ったのか与太話を陛下に上申したのだ。騎士団は名誉ある大遠征の準備に忙しく、どこの貴族家もそんなくだらぬ用事のために人出を出せん。陛下もそれを汲んで下さったのだろう。暇を持て余しているであろう平民の貴様が、その与太話の証明者に選ばれたというわけだ」
くつくつと低く喉を鳴らし、中隊長が机の引き出しから何かを取り出す。それは丸められた命令書だった。最上質の紙とドゥエロス皇家の紋章が、それが皇帝符が発布したものだと示している。
低級騎士が受け取るには恐れ多いそれを手渡され、思わず手が震える。
「まあ、読んでみるがいいさ。しっかり任務に励めよ、『使者』さん?」
言われるがままに封を開けて目を通す。次の瞬間、自分の目が信用できずに思わず瞬いた。目をこすってもう一度読んでみるが、内容が変わることはない。
そこに記してあったのは、信じられない命令だった。
「伝説のエルフを連れてこい、だって―――!?」
「あー、これは間違いなくエルフだな」
波一つない鏡のような湖面に映るのは、異常にでっかい銀色の月と、鬱蒼とした葉葉の影と、エルフ―――つまり俺の顔だった。
しかし、美少女になったもんだ。原型がどこにもないじゃないか。目と鼻と口のパーツの数と位置が同じなだけで、造形がまるで違う。前の俺の顔が、小学生が夏休み最終日に鼻くそほじりながら片手で作った粘土細工だとしたら、今の俺は国宝級の超一流造形師が絶命する間際に完成させた至高の芸術品、といったところか。
シミ一つない病的なまでに真っ白な肌、繊細な銀細工のような長髪、もはや手の加えようもない可憐な容貌、しなやかな体躯は完璧な黄金比を体現している。何分見続けても飽きることがない。
つーか、人種からしてまったく違う。俺は日本人そのものの平凡な顔立ちだったが、今ではすっかり白人っぽくなってしまった。唯一どちらとも違う点は、
「うっわ、耳すげー尖ってるし。本物だよこれ」
耳だ。耳輪の部分が後ろに向かってぴんと突き出している。意識を向けるとピクピクと動かせるから、特殊メイクではないらしい。ファンタジー映画やゲームで見たエルフそのまんまだ。その上、背中に流れる髪はうっすらと発光してる。「光ファイバーで出来てんのか?」と疑って調べてみたが、手触りがめっちゃ気持ちよかった以外は普通の髪の毛だった。
他にも身体中をできる限り調べてみたが、下の毛も銀色だったということ以外は人間と同じ作りをしていた。宇宙人とか妖怪とかその類ではなさそうだ。
よーするに、俺はエルフになったのだ!なんかもうそれでいいや!
「はて、俺はエルフに転生するようなイベントに遭遇したっけか?」
そういえば、何か大きくて速いものにぶつかった記憶がある。その時の記憶が霧がかったようにボヤけていて定かではないのだが、多分あの時に俺は死んだのだ。あれがキッカケになったのだろう。しかし、どうしてエルフになったのかはまったく検討もつかない。気付いたら森の湖のほとりにぼーっと突っ立っていたのだ。
あ、そういえば、声を聞いた気がするぞ。アンプがぶっ壊れそうなくらい低い声で、「くっくっくっ、君に決めた!」とかわけのわからん台詞が。
んー。ま、いくら考えても仕方がないか。死んじまったら死んじまったで、今はこの身体を楽しもうじゃないか!
ええじゃないかええじゃないかと身に纏っていたワンピースを脱ぐ。細かいところは気にしないのが俺のいいところなのだ。どんな状況も楽しんでみせるのが真の男の余裕ってもんだ。今は女だが気にしちゃダメ!
丈長のワンピースらしき純白の服は、ぺらっぺらに薄いくせにやけに生地がしっかりしてて脱ぎにくかった。ナイロンみたいに肌触りが良くて脆そうだが、多少力を込めても破れそうな気配はない。エルフ専用装備かなんかか?今気付いたが、この服も微妙に発光してるし。
服を脱ぎ捨て、同じく純白のブラジャーとパンツもその上に放る。人生で初めて女物の生下着をまじまじと見られることに興奮する反面、自分の下着にハァハァしているのが無性に気持ち悪くなったので視線を外す。難儀なものだ。
「さ、気を取り直して、水浴び水浴びっと!」
目の前には謀ったように美しく澄んだ湖が広がっている。これは水浴びフラグってことに違いない。真っ裸になって自分の美貌を再確認しなさい、という天の粋な謀らいだ。
一歩、湖に足を進める。湖水のひんやりとした突っ張るような感覚が、形のいい指先からふくら脛を伝って太ももをふるふると震わせる。おおう、すげーエロい。
身体を冷温に馴染ませながらゆっくりと水に身体を浸けていく。はぅ、と思わず唇から漏れた声が超絶的に色っぽい。
腰のあたりまで浸かったところで動きを止めて湖面を見る。
再び鏡に戻った湖面には、女神が映っていた。
きゅっと引き締まった腰のくびれ、水蜜桃のように瑞々しいおっぱい、柔らかそうな華奢な撫で肩、見るからにスベスベしてそうな鎖骨、柳のように細い首……。やばい、自分で自分に惚れそうになってきた。
……ん?なんか向こうから光が近づいてきたぞ。ホタルにしては強い光だな。しかもでけえ。よーく見たら、なんか人間みたいな形してやがる。リカちゃん人形くらいのサイズだ………うおっ!これティンカーベルじゃね!?妖精さんじゃねえか!透明な羽根も生えてるし!可愛いし!
妖精さんおっすおっす!初めまして!
『くっくっくっ……』
……アンプがぶっ壊れそうな低い笑い声。おい、まさか。
『私だ』
「お前だったのか」
じゃねーよ!!何言わせてんだよ!!
『君に決めて正解だったな。これからおもしろくなりそうだ』
「何一人でニヤニヤしてんだ!その声、お前だろ!俺をこんな姿にしてこんなとこに連れてきたのは!お前は誰だ!ここはどこだ!いったい何がどうなってんだ!!」
エメラルドグリーンの光を放つティンカーベルがひらひらと俺の目の前まで近づく。絵本とかに描かれる妖精そのまんまの可愛らしい顔つきなのに、浮かべてる笑顔は如何にも腹黒そうだ。
『君の言うとおり、全て私が行ったことだ。自己紹介が遅れたが、私は“神”だ。君の世界と、この世界―――“セシアーヌ界”を管理している。
今回君にこちらの世界に来てもらったのには重要な理由があるのだ。だが、まあ、』
「なんだよ?」
『その話は第一村人から聞くといい』
はあ?何言ってんだこの厨二神は。いいからさっさと説明汁――――
ガサッ
「ひょわっ!?」
尖った耳は伊達じゃないようだ。後方で茂みを揺らす生き物の気配を察知して飛び上がる。
生き物の大きさはちょうど人間くらいだ。そいつから、何やらぞわぞわとした嫌な感情が向けられている気がする。
覗きか!?ゆ、許さん……絶対に許さんぞ虫けらめ!じわじわとなぶり殺しにしてくれる!
不意を突かれた焦りと、無意識に掴んだ湖底の石ころが投擲にちょうどいい大きさだったため、音のした方向に振り返りざまに力いっぱいぶん投げる。
うおっ、すげえ豪速球!150は出たんじゃないか!?エルフの運動神経マジぱねえ!
「くッ!?」(キンッ!)
ぇえええええええええええええええええ!?なんか剣で弾かれたみたいなんですけど!?なにそれこわい!!どういう鍛え方したらそんなこと出来んの!?
察知されたことに気付いた人間(?)がざざざっと茂みをかき分けて見る見るこっちに近づいてくる。足疾っ!やばいまずい怖い!助けて神さま!あっ、神さま隣にいるじゃん!助けろよ役立たず!!
無駄だともわかりつつも再び湖底に手を突っ込んで石を掴み上げ、
「待て!待ってくれ!襲いに来たんじゃない!俺の話を聞いてくれ!俺には貴女が必要なんだ!」
飛び出してきた男の必死の叫びに動きを止めた。
――――え?告白?
実はせっかくバーサーカーよりも前に書いていたこの作品。荒削りですが、良い作品に仕上げたいと思います。一応、ファンタジー作品という体裁なので、長編になる予定です。
うーむ、描き上げられるか不安だなあ。気長に頑張ろう。
……わあ、朝焼けだぁ……。深夜のテンションでこんな作品うpして、昼間の自分に怒られそうだぜ。
※追記
昼間の僕はちっとも怒ってません!だってこんなにスンバラシイイラストを描いていただけたんだから!!ナコトさん、本当にありがとうございます!!!
※追記2
またもやイラストを頂いちゃいました!!幸せー!!