第3章:揺らぐ日常と、世界の火種
第3章:揺らぐ日常と、世界の火種
翌朝。
ロイは学校へ向かう道を、眠そうな目をこすりながら歩いていた。
「昨日の件で、先生にまた説教されんだろうな……」
ため息をひとつ。
だが、昨日広場で助けた少年が「ありがとう」と言って走り去ったときの感触が、心に少し残っていた。
(……まあ、あれで良かったんだろ)
そんなことを考えていた、そのときだった。
校門前にある大きな街頭スクリーンが、急に切り替わった。
『速報。ナルイ連邦とロソルト国が、国境地帯で武力衝突――』
ざわ…っと、周りの生徒たちが騒ぎ始める。
「またかよ……最近どこも揉めてるな」
「仲裁するAIもいないし、そりゃこうなるって」
「てか、ロソルトってウチの国の交易国だろ?ヤバくね?」
誰もが不安げだ。
今の世界は、誰も管理していない。
国同士の衝突も、人間が自分で止めない限り続く。
ロイはスクリーンを見上げた。
映っているのは戦車でも銃撃でもない。
ただ、煙が上がる国境の映像と、逃げ惑う人々の遠景。
それだけで十分だった。
胸の奥がひりつく。
(……これが“自由の世界”かよ)
争いを止めるAIはいない。
判断の代行者もいない。
揉めたらそのまま衝突し、誰も止められない。
ロイは思わず声を漏らした。
「自由は……狂ってやがる」
隣を歩いていた友人のユナが驚いたように見上げる。
「ロイ? なに言ってんの」
ロイは感情を抑えず、そのままの言葉を続けた。
「人間に自由なんて渡したら、こうなるに決まってるだろ。
国同士で殴り合って、負けそうになったら言い訳して、関係ない奴らが巻き込まれる。
昨日みたいな小競り合いだって、世界レベルになればこうなるんだよ」
ユナは言葉を失った。
ロイの拳が震えているのは怒りではない。
“安全が壊れていく”ことへの恐怖に近い。
「AIがいた時代は……良かったってわけじゃないけど。
少なくとも、こんな戦争、起きなかったろ」
街頭スクリーンが別の映像に切り替わる。
難民キャンプ。
避難民が列をつくり、子どもを抱えた大人たちが疲れ切った顔で空を見ている。
ロイの胸がざわつく。
(……いつか、この国にも来るのか?
この混乱が、全部……)
ユナが不安そうに言う。
「ロイ……大丈夫?なんか怖い顔してるよ」
「怖ぇよ。
自由の世界は……安全じゃない」
ロイはポケットに手を突っ込み、校門へ歩き出した。
「だから俺は、選ぶ。
“自由”じゃなく――“安全”を」
その言葉は、誰に向けたものでもない。
ただ、自分の胸に刻みつけるための宣言だった。
世界は混乱し、隣国は戦争を始めた。
このままでは、自分の大切な場所も巻き込まれるかもしれない。
ロイは心の奥で、静かに火が灯るのを感じた。
「守らなきゃいけない。
間違った自由から、この国を」
そう決意するロイの姿を、街頭スクリーンの薄い光が照らしていた。




