表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
WHY?  作者: ハル


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

8/49

第2章:混沌の真ん中で

第2章:混沌の真ん中で

自由になった世界の夕方は、どこかざわついている。

学校帰りのロイは、人の気配がいつもより多い広場を抜けようとして足を止めた。

「……なんだ、この空気」

ざわざわとした声。

でも、笑い声ではない。

怒号でもない。

そのどちらでもあるような、不安定なざわつきだ。

広場の中央で、三人の青年が一人の少年を取り囲んでいた。

年齢はロイと同じくらいか、少し上か。

少年は両手で胸を庇いながら、必死に言葉を吐き出す。

「ち、違うんだって!俺のせいじゃないって!」

青年の一人が言う。

「でもお前、順番を飛ばしたろ?今のルールでは“自分で並びを確認する”って決まってんだよ」

怒鳴り声ではない。

淡々としている。

だからこそ、怖い。

(……また“自由”のルールかよ)

自由になった分、細かい決まりごとを守れないとすぐトラブルになる。

AIが全部補正していた頃にはなかった種類の揉め事だ。

少年の肩が震えた。

「ごめんって言ってんだろ……!」

青年が一歩近づいた。

手を上げる気配はない。

けれど、少年が怯えて後ずさる。

ロイの胸が熱くなる。

(こんな場面……ほんとは避けるべきだろ)

安全を選ぶと決めたはずだ。

関われば面倒になる。

誰かの怒りを買うかもしれない。

でも――

(こいつらを許したら……次に傷つくのは誰だ?)

その瞬間、ロイの足が勝手に動いた。

「おい、やめとけ」

広場に響くその声に、青年たちはわずかに振り返る。

「なんだよお前」

「順番守らないから注意してるだけだ。関係ないだろ」

その言葉。

ロイは一度だけ深く息を吸った。

そして――

胸の奥の衝動が、静かに形になる。

「“注意”なら……そんな囲み方いらないだろ」

青年たちが眉をひそめる。

「は?」

ロイは言葉を噛みしめながら言った。

「お前らを許すと、誰かがまた傷つく。だから……やめろって言ってんだ」

拳は握っている。

だが殴るつもりはない。

今はまだ。

青年たちは一瞬だけ互いを見合った。

その間に、周囲の人がざわつき始める。

「ロイ……!?」

少年が震えながらロイの名を呼ぶ。

青年の一人が歩み寄った。

「いい度胸だな。じゃあどうするんだよ、お前」

ロイはゆっくりと後ろに手を伸ばし、少年の肩に触れる。

「まず、こいつを下がらせる」

少年は驚きながらもロイの背後へ逃げる。

青年たちがわずかに舌打ちした。

「……つまらねぇ正義感だな」

ロイは答えた。

「正義じゃない。ただの安全だよ」

青年の動きが止まった。

ロイはさらに続ける。

「こいつを守れば、俺も、あんたらも、ここにいる全員も“今は”安心できる。

それだけの話だ」

黙り込む青年たち。

周りの人々も耳を澄ます。

ロイの声は震えていない。

怒ってもいない。

ただ、“安全を選ぶための判断”をしている。

青年のリーダー格が、ふっと視線を逸らした。

「……もういい。行くぞ」

ほかの二人もついていき、三人は広場を出ていった。

残されたのは、ロイと少年と、ざわめく街の音だけ。

少年が震える声で言った。

「ありがとう……」

ロイは肩をすくめた。

「別に助けたかったわけじゃない。

誰かが傷つくのを見るのが……俺が嫌なだけだ」

短気だけど、理由はちゃんとある。

誰かを守るためじゃない。

自分が安心したいだけ。

でも――それで救われる人もいる。

少年は深く頭を下げて走り去った。

ロイはしばらく広場に残り、空を見上げた。

(……自由って、面倒くせぇな。でも、何もしないよりは……マシか)

夕陽が落ち始める。

混沌はまだ続く。

だが、ロイの胸の中には少しだけ、確かな温度が残っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ