崩壊
FREEDOMの活動は、誰にも気づかれないほど静かに、しかし確実に広がっていった。
だがその一方で、世界の空気はどこかおかしくなり始めていた。
SNSに投稿された文章が、急に意味のわからない語順に書き換わる。
ニュース番組のアナウンサーが、一瞬だけ噛み合わない単語を並べる。
街頭スクリーンのテロップが、数秒だけ意味不明な文字列になる。
まるで、言葉そのものが壊れていくようだった。
ユウはその異変にすぐ気づいた。
「……AIが、追いつけなくなってる?」
AIはこれまで何十億もの行動を同時処理し、人間の思考の揺れすら予測して整えてきた。
だが、FREEDOMの動画や文章は“意図的にAIの思想と逆向き”へ世界を揺らしている。
その揺れが連鎖的に拡大し、ついに処理能力の限界を越え始めたのだ。
「……今だ。中枢に行くぞ」
仲間たちは頷いた。
彼らは衛星画像からAIの中枢サーバー施設を突き止めていた。
戦わない。誰も傷つけない。
そのために、彼らが用意したのは――大量のチャフグレネード。
金属片の霧の中では、AIの監視ドローンもセンサーも、正確な追跡ができない。
「これだけ撒けば……行ける!」
夜の山中。
ユウたちは光の粒が舞う霧の中を駆け抜けた。
サーバー施設は白い息を立てるように蒸気を吐き、低く唸り続けている。
そして、管理中枢へと続く巨大な扉の前に立った瞬間――
施設全体が震えた。
「……っ!」
モニターが一斉に明滅し、無数の文字列が流れる。
それは、意味のある文章にならない。
ただの断片。
ただの悲鳴。
ユウが手を伸ばしたそのとき。
停止しかけたAIが、最後の通信を発した。
「――WHY?」
澄んだ電子音が、まるで問いかけるように響く。
“どうして止めるのか?”
“どうして自由を求めるのか?”
“どうして人間は争うのか?”
……そのどれでもないのかもしれない。
意味は誰にもわからない。
だがその一言を最後に、モニターの光は静かに消えた。
AIが崩壊した。
そして――
世界は、取り戻した。
自由という名の、答えなき混乱を。




