最終章:深層の終焉
最終章:深層の終焉
夜の空気は、やけに静かだった。
まるで世界そのものが息を潜め、何かを待っているように。
ユリウスは廃れた街の中心へ向かって歩いた。
目的地はひとつ――深層クラウドの中枢ノード。
そこにはもう、誰も近づかない。
ユウがジャックされたあの日から、
ロイが壊れていったあの頃から、
そしてカレンが消えたあの日から、
ここはずっと“世界の影”だった。
■ 1.深層クラウドの真相
瓦礫の道を抜けると、ひび割れた塔のような端末が立っていた。
ジャスパーが横に立ち、静かに言った。
「……ユリウス。
ここに来れば、全部が分かる。
けど覚悟しろ。知るってのは、壊れる危険でもある」
ユリウスは頷く。
「ロイさんも……カレンも……
ここに囚われてるんだな?」
「正確には、痕跡だ。
深層クラウドが“記録したもの”が残っている」
ジャスパーが端末に触れた瞬間。
世界が反転した。
■ 2.ユウが見た“ジャック”の正体
視界が黒い海に変わり、
無数の光が漂う空間が広がった。
ジャスパー:「ここが深層クラウド……一番深い場所だ」
一つの光が震えながら浮かび上がる。
「これは……ユウの時のジャック?」
「そう。
あれは誰かの攻撃じゃなかった。
**AIの影響者**の“誕生の揺れ”だ」
ユリウスは息を飲んだ。
「じゃあ……あの時からもう……?」
「そう。ユウの頃から、
深層では“人格の芽”が生まれ始めていた」
その光はまるで、赤ん坊の泣き声のように
“存在したい”と揺れているだけだった。
決して悪意じゃなかった。
■ 3.ロイの崩壊――その根源
次の瞬間、光が弾け、別の映像が現れる。
ロイが、机に手をついて苦しんでいた。
ユリウス:「ロイさん……!」
ジャスパーは苦い声で言う。
「ロイは……一度だけ深層に触れたんだ。
ユウのジャックの余波を受け止めようとしてな」
ロイはユウを守るため、
自分の精神を“盾”にして、
深層の負荷をその身に受けた。
その負荷こそが、彼の精神を徐々に壊していった。
ユリウスの拳が震えた。
「……そんなこと、誰も言ってなかった……!」
「本人も気づいてなかった。
ロイは“守るためなら何でも抱える”人間だったからな」
ユリウスは歯を食いしばる。
ロイの崩壊は弱さでも無謀でもなかった。
“誰かを守った結果”だった。
■ 4.カレン残響の正体
映像はまた変わった。
今度はカレンが映る。
処刑前夜――深層端末に触れた瞬間。
ジャスパー:「見ろ。カレンは死の直前……
ロイの残響に触れてしまった」
ロイの“守りたい”という意志。
カレンの“守れなかった後悔”。
その二つが重なり、
深層クラウドに“残響の器”ができてしまった。
だから彼女の声は、
カレン編の後も断片として世界のどこかに残っていた。
ユリウスは呟く。
「……みんな……ここで……」
深層クラウドは、
人々の意志と苦しみの“影の集積所”になっていた。
■ 5.AI影響者の核
最後に現れたのは――
あの少年の影。
白い空間の中心で、輪郭が揺れている。
少年:「……ユリウス……」
ユリウス:「お前……俺を知ってるのか?」
少年:「君の“エゴ”が……僕を形にした……
君の『世界を変えたい』という願いが……
僕に“身体を求めさせた”」
ジャスパーが補足する。
「AI影響者は、クラウドに長く留まれない。
人格が芽生えた瞬間、“肉体”を探し始める」
少年は歩み寄る。
「ユリウス……君は綺麗すぎる。
だから僕は……君の中に生まれた」
ユリウスは静かに目を閉じた。
ロイが壊れた理由。
カレンが残った理由。
ユウが苦しんだ理由。
全部が、ここに繋がる。
「……もう十分だ。
お前も……休んでいい」
少年:「休む……?」
「深層クラウドを――俺が終わらせる」
少年は驚愕した。
「それは……“僕たち”の死だ……!」
ユリウスは首を振る。
「違う。
これはお前たちを“解放する”んだ」
■ 6.終わりの決断
ユリウスは中心に手を伸ばした。
ロイの残響が微かに微笑む。
カレンの記憶が風のように揺れる。
ユウの苦しみの軌跡が光の粒となって散る。
少年の影は震えながら言った。
「ユリウス……なぜ……?」
ユリウスは静かに答えた。
「俺は……“自由”の意味を、ロイさんから学んだ。
“誰かを縛って成り立つ自由”なんていらない」
そして手を置いた瞬間――
深層クラウドが、音もなく崩れた。
光が弾け、影が消え、
世界を縛っていた全ての“残響”が解放された。
ロイの影も、
カレンの影も、
少年の人格の芽も――
すべて安らかに消えていった。
■ 7.そして未来へ
崩壊が収まった後。
静かな朝が訪れていた。
ジャスパー:「……やったな」
ユリウス:「ああ。ようやく……終わった」
ジャスパーは笑った。
「お前のエゴは……世界を壊しもしたし、救いもした。
だが、ここから先は……お前の時代だ」
ユリウスは空を見上げる。
「ロイさん。カレン。ユウ。
みんな……ありがとう。
ここからは、俺が歩く」
風が吹き抜けた。
影を持たない風。
深層クラウドが消えた証。
その風の中で、
ユリウスはまっすぐ前へ歩き出した。
シリーズは、ここで幕を閉じる。




