第9章:秩序の裏側
第9章:秩序の裏側
街は再建の兆しを見せつつあった。瓦礫は片付けられ、民は避難所から少しずつ戻ってきた。だが、表面の秩序の下では、腐敗と矛盾がうごめいている。
カレンは夜の路地を歩きながら、街灯に映る自分の影を見つめる。
(守る……だけじゃ、何も変わらない)
自由派も安全派も、民も、誰も気づかない。秩序の名の下で、人々は選択の自由を失い、無言で従う。昨夜守った民も、知らず知らずのうちに管理の枠の中に押し込まれている。
「……これじゃ、ユリウスと変わらない」
小さく呟く声は、自分に向けられた独り言のようだった。
その夜、カレンは隠された倉庫に足を運ぶ。
そこには、S計画の残骸と、かつてALが分析していた膨大なデータが眠っている。補助AIは衰えているが、まだ動く。
「……使おう。民を守るために、今度は私が秩序を揺さぶる」
カレンの手は冷たい。理性と感情の境界線が溶けるように、決断が頭の中で研ぎ澄まされる。
(恐怖を生まず、守る方法……いや、もう守るだけじゃ足りない。変えないと、誰も自由になれない)
翌日、都市の中心で混乱が始まる。
路地の暴徒は、今度は秩序を守る側の安全派兵士に向かって叫ぶ。
カレンは遠くから観察する。
瓦礫が跳ね、破片が飛び散る。火炎瓶や銃声の緊張感が、夜よりも濃く街を覆う。
だが、彼女の心は冷静だった。
「……ユリウスは力で守った。私は秩序を揺さぶる」
その瞬間、補助AIが警告を発する。
「カレン、被害拡大の可能性。民が巻き込まれる」
だが彼女は止まらない。
「……大丈夫、最小限にする」
攻撃は計算されていた。瓦礫で通路を封鎖し、兵士たちの進行を遅らせる。銃火が飛び交う中、民を巻き込まない角度や距離を瞬時に計算する。
自由派の残党が駆け寄る。
「……カレン、何をやってる!?」
「民を守るためよ。でも、今度は恐怖じゃなく、秩序を揺さぶる。彼らに選択を返す」
瓦礫の中で、カレンの影は長く、冷たく、そして孤独に伸びる。
彼女はもはや安全派でも自由派でもない。民の自由を取り戻すため、自ら秩序の壁を打ち壊す者――それが新しい“守り方”だった。




