第7章:静寂の代償
第7章:静寂の代償
路地の空気が重く、昨日の戦闘の残響をまだ引きずっていた。
瓦礫の隙間に残る血の跡、割れた窓ガラス、そして避難を続ける民。
カレンは屋上から全体を見渡す。ALが補助として情報を示す――残存暴徒、民の避難状況、危険区域。
(まだ終わらせられない……でも、やり方は変えない)
安全派と自由派が交錯する路地。
民を守るためにカレンは冷静に判断を下す。
「こっちの通路を使え……次は左に回して」
刃を弾き、パイプをかわし、瓦礫を盾にする――動きの一つ一つが計算され、民の安全を最優先にしていた。
だがその時、唐突に銃声が響いた。
民を避けるカレンの目の前で、自由派の若い兵士――名前も知らぬ少年――が、頭部に銃弾を受けて倒れる。
「……!」
カレンは声を上げた。
身体は動いた。刃で接近する暴徒を制しつつ、倒れた少年のもとへ駆け寄る。
だが、息はすでに止まっていた。血が路地の石畳に広がり、赤が光を反射する。
民の誰もが足を止め、凍りついたようにその光景を見つめる。
(こんな……こんな理不尽……)
カレンの胸を締め付ける感情は、怒りでも恐怖でもなく、深い悲しみだけだった。
ALの端末が解析を続ける。
「民避難率:98%、戦闘損耗率:32%」
数字は冷たく現状を示すが、赤い血の海を前に、意味は何もなかった。
カレンは立ち上がる。
拳に血がつき、服も赤く染まる。
それでも彼女は目の前の民を見据え、冷静に次の行動を決める。
「……守る。誰も、もう傷つけさせない」
その決意は、亡くなった少年の死を受けても揺るがなかった。
だが、街は静かに――そして重く――この代償を刻みつけた。
唐突に、理不尽に、命は消える。
それでも、守る者は立ち止まることを許されない。
夜の路地に、赤と灰の匂いが漂う。
ALが分析を続ける。カレンはその横で、次の判断を考える。
思想の衝突、理不尽な死、そして民の安全――全てを秤にかける。
(ユリウスのやり方も、間違いじゃない……でも、私は私のやり方で守る)
その瞳は揺るがず、冷静で、そして痛みを知る目だった。




