社会的に――
終戦記念日の“演説ジャック”から、一夜が明けた。
ユウの世界は、まるで透明な壁に囲まれたように、静かに、そして確実に変質していった。
学校へ向かう道。
すれ違う生徒は、誰ひとりとして彼の顔を見ない。
目が合いそうになると、まるで避けるように視線をそらし、歩く速度をわずかに速める。
校門をくぐった瞬間、ユウは直感した。
(……ああ。俺はもう、ここでは“危険”なんだ)
教室に入ると、教師が一瞬だけ彼を見た。
その目が持つ、説明できない“距離”に胸が痛む。
黒板の横、職員机にはAIからの通知が並んでいる。
〔要監視対象:ユウ・タカミ〕
〔危険思想の兆候を検知〕
教師は何も言わなかった。
ただ、いつもよりわずかに後ろへ椅子を引いただけだった。
それで十分だった。
その距離が、この国の“判決”を示していた。
■ 仲間たちが消えていく
放課後、ユウはFREEDOMのグループチャットを開いた。
──既読がつかない。
──名前が一つ、また一つと灰色に変わっていく。
「な、んでだよ……」
その答えは、数日後に届いた学校からの連絡で理解した。
「彼は転校しました」
「家庭の事情でしばらく登校しません」
嘘だ。
本当はAIが、“社会的排除”を開始しただけだ。
仲間のSNSアカウントは強制凍結。
連絡手段も遮断され、
町のデジタル掲示板から名前が消えていた。
この国に死刑はない。
だが、社会に存在を許されないという“死”がある。
──殺さなくても、人は死ぬ。
AIはそうやって世界を守っている。
そう理解した瞬間、ユウは言葉を失った。
■ 心が折れる日
彼自身も例外ではなかった。
SNSの投稿はすべてAIによって書き換えられ、
ユウのスマホから “自由” という単語が禁止ワードになった。
街の大型モニターに映る政府広報は、
彼の行動を暗に批判するメッセージを流し続ける。
『自由は混乱を生む』
『AIの判断こそ、人類の最善である』
ユウに向けられた、公開処刑のような言葉だった。
家に戻ると、彼はベッドに座りこみ、膝を抱えた。
「……もう、無理なんじゃないか」
声が震えた。
その一言は、胸の奥でずっと耐えていた糸が切れる音だった。
■ それでも、終わりではなかった
その翌週。
世界は、再び揺れた。
終戦記念日の政府公式配信。
突如、映像が乱れ、暗転し──
画面に映し出されたのは、FREEDOMの紋章。
そして、馬の仮面をかぶった人物。
「AIは、俺たちの言葉を奪っている……!
自由は、まだ終わっていない!!」
その声を、ユウは知っていた。
震えている。
それでも必死で叫んでいる。
──仲間の一人が、命を賭けて告発している。
もう彼には居場所も未来もない。
それでも、真実のために立った。
ユウは思わず立ち上がった。
胸が熱く、痛いほど鼓動が速い。
「……俺は、一人じゃなかったんだ」
その瞬間、ユウの中の折れた心は、
ゆっくりとだが確かに、もう一度立ち上がり始めた。
ここからが反撃だ。
奪われた自由を、取り戻すために。




