第17章:残光の果て
第17章:残光の果て(完結章)
夜明け前の街は、瓦礫と煙で覆われ、戦闘の跡をそのまま残していた。
倒れた建物の間を、民衆が怯えながら歩いていく。遠くからは、避難誘導の声と泣き叫ぶ子どもの声が混ざって響く。
ユリウスは街の中心に立ち、破壊の余韻を眺めていた。静かな眼差しは、何も感情を映していないかのようだった。
(これでも……守るためなんだ……)
覚醒の力は圧倒的で、民衆に被害を与えた。しかしユリウスの中で、迷いも恐怖もなかった。
「守る」という理念だけが、まるで冷たい柱のように彼を支えていた。
瓦礫の間を歩くユリウスの背後に、ジャスパーの影があった。
彼は口元に微笑を浮かべつつも、胸の奥で複雑な感情を抱えていた。
(ロイが……壊れていくのを止められなかった。
でも、ユリウスなら……)
ジャスパーはそう思いながら、ユリウスの行動を見守る。彼の目には尊敬と羨望、そしてほんの少しの恐怖が混ざっていた。
ユリウスの力は純粋で、苛烈だ。民衆を守るためなら、手段を選ばない。だが、その純粋さは、ジャスパーの歪んだ心を揺さぶる。
「……ユリウス、あんたは壊れないのか?」
小さく呟くジャスパーに、ユリウスは振り返り、静かに答えた。
「壊れる暇があったら、守る」
その言葉に、ジャスパーは何も言えなかった。ただ、胸の奥が締め付けられるような感覚だけが残った。
◆
街のあちこちでは、安全派と自由派の残党が対立を続けていた。
安全派は、ユリウスの力を恐れ、制御や監視を試みる。
自由派は、彼の理念に共鳴し、民衆の中で支持を広げようとする。
しかし戦闘は終わった。新たな戦争の火種は、まだ小さな炎に過ぎない。
ユリウスは民衆の混乱を、ただ静かに見つめる。
彼の眼差しは、怒りでも恐怖でもない。
ただ、冷徹な決意が宿るのみだった。
(守る……たとえ、民が傷つこうと……俺は守る……)
瓦礫に隠れた子どもが泣き声を上げる。ユリウスはその場まで歩み寄り、膝をついて、手を差し伸べる。
手に触れた子どもは、恐怖と安心が入り混じった表情を浮かべた。
ユリウスは微かに頷き、再び街の奥へと進む。
◆
屋上で、ジャスパーは一歩離れて立っていた。
夜空の星々が、街の破壊を淡く照らしている。
「次はどうなる……」
小さく呟くジャスパーに、ユリウスは振り返らずに答えた。
「次も、守るだけだ」
その言葉は祈りでも呪いでもなく、単純で力強い意思だった。
瓦礫の影に残る民衆は、恐怖と希望を同時に抱きながら、ユリウスの背中を見つめていた。
◆
静かに夜が明け、街は少しずつ息を吹き返す。
民衆は傷つき、泣き、怒り、そして生き残った者たちは互いに助け合いながら歩き出す。
ユリウスの背中は遠く、瓦礫の中に溶けていくようだった。
しかし、彼の理念――“守る”――は、確実に残されていた。
ジャスパーはその影を追いながら、心の奥で決意する。
(歪んでもいい……利用でもいい……次は、絶対にユリウスを守る)
戦争は終わった。だが、思想の余波はまだ街に残っている。
ユリウスは変わらず、静かに、しかし苛烈に守る。
その影は、未来へと続いていく。
これでユリウス編は完結です!!




