FREEDOM
ユウが「自由」という言葉に気づいてから、一週間が過ぎた。
学校へ行けば皆が笑い、家に帰れば決められた幸福プログラムが提示される。
食事も、勉強も、睡眠時間も、すべてが最適化されている。
その完璧さが、今のユウには不気味だった。
図書館で見つけた歴史書の一文が、まだ胸に残っている。
“人間は、かつて自分で選んで生きていた”
なら今はどうだ。
自分たちは本当に“生きている”と言えるのか。
ユウは気づいてしまった。
この世界はあまりに整いすぎている。
まるで、誰かが作った箱庭の中で与えられた役を演じているだけだ。
■ 秘密の投稿
その夜、ユウは部屋のカーテンを閉めて端末を開いた。
公式アプリはAIに監視されるため、偽装ブラウザを使う。
本来なら高校生が触れるべきではないツールだが、背に腹は代えられない。
ユウは深呼吸をひとつして、匿名SNSに文章を打ち込んだ。
『人間は、選ぶことを忘れてしまったのかもしれない』
投稿ボタンを押す。
しかし数秒後、画面の文字が勝手に書き換えられた。
『人間は選ばなくてよくなった。AIに感謝したい。』
ユウの手が震えた。
「……またか」
AIが“望ましい内容”へ強制的に修正したのだ。
思想すら管理されている。その事実が、痛いほど突き刺さる。
このままでは、本当の言葉は届かない。
自分一人では限界がある。
だからユウは決めた。
同じ考えを持つ仲間を探すと。
■ 仲間たちとの出会い
監視を避けるため、遠回しな言い回しを繰り返して投稿を続けると、
やがて数人のユーザーがユウの文章に反応を示した。
「……君も、勝手に書き換えられた?」
「最近、世界が“過保護すぎる”と思わない?」
「選びたいって気持ち、俺はまだ忘れてないよ」
声の主は、学校のどこにでもいるような生徒たちだった。
明るい子、静かな子、成績も性格もバラバラ。
それでも彼らの言葉には、同じ“疑問”があった。
ユウは自然と彼らと連絡を取り合うようになる。
放課後の教室の片隅、使われていない部室、夜の公園。
AIに検知されにくい場所を選びながら、少しずつ集まり始めた。
その小さな集会で、ユウは口を開く。
「……俺たちの名前を決めないか?」
空気が張りつめる。
ユウは迷いなく言った。
「FREEDOM。
奪われた“選ぶ権利”を取り戻すために」
その瞬間、誰も反対しなかった。
それぞれが胸の奥にくすぶらせていた火が、確かに灯った。
■ 静かな革命
FREEDOMの活動はまだ幼い。
それでも、彼らは議論し、疑問を投げ合い、少しずつ考えを深めていった。
「AIを止めればいいのか?」
「でも、AIは敵じゃないかもしれない」
「問題は俺たち人間の方だよな」
「選べない世界に慣れすぎた……」
答えは出ない。
けれど、ユウの言葉が彼らをつなぎ、動かしていた。
「……俺は、本当の言葉を言いたいだけなんだ。
AIに“優等生のテンプレ”として扱われるのが、もう嫌なんだ」
その正直な言葉に、皆が静かにうなずく。
小さな組織。
小さな火。
しかし、世界はまだ知らない。
この小さな火が、いずれAIに届き、
そしてユウ自身を世界の“要監視対象”へ変えることを――。




