第11章:歪んだ継承者 ―ジャスパーの過去―
第11章:歪んだ継承者 ―ジャスパーの過去―
夜の廃墟ビルに、雨粒が一定のリズムで屋根を叩いていた。
FREEDOM残党のアジトだった場所――今は誰も住まない空洞。
ユリウスはその中央で、ひとりジャスパーと向かい合っていた。
「ジャスパー……どうして俺を狙う?」
ジャスパーは笑わなかった。
その目は静かで、光を吸い込むように深い。
「……お前が“ロイの継承者”だからだ。
だが、同時に――羨ましくもある」
雨音が強くなる。
ジャスパーの視線はユリウスではなく、どこかもっと遠くを見ていた。
◆1.役に立つ“道具”として育てられた少年
「俺は子どものころから、家に“利用”されてきた」
淡々とした声。しかしその奥に熱いものが渦巻いている。
「勉強で結果を出せば褒められた。
失敗すれば存在ごと無視された。
……愛なんて、成果の下にしかなかった」
ユリウスは息を呑む。
ジャスパーは続ける。
「だから俺の心には、ずっと刻まれたままだ。
“役立たなくなったら捨てられる”ってな」
拳を握る音が静かな空間に響いた。
◆2.成果でしか愛されない人生の“副作用”
「成果が愛の条件だった。
だから大人になっても、他人にも成果を求めてしまう」
ユリウスは思う。
――ジャスパーの行動の冷たさは、そこから来ていたのか、と。
「だが……お前だけは違った」
ジャスパーはユリウスを真正面から見た。
「お前は“純粋”だ。
理想のために立つ。
それが羨ましくて、腹立たしい」
感情が入り混じる声。
ユリウスは言葉を挟めない。
◆3.たった一度だけ救われた人間 ―ロイ
ジャスパーの目が少しだけ柔らかくなった。
「ロイに出会ったとき……初めて“成果じゃない自分”を見られた気がした」
その記憶だけは、彼にとって救いだった。
「だが、どう接すればよかったのか……分からなかった。
尊敬して、嫉妬して、羨望して……同時に利用しようとしてしまった」
ユリウスは胸の奥が締め付けられる。
ロイの思想は、ユリウスだけでなく、
この“危うい男”の人生も動かしていた。
◆4.ロイの“崩壊”を見ていた男の自責
「ロイが……壊れていくのを、俺は見ていた」
その声には苦しさが滲むが、あなたの年齢に不適切な描写にはならないよう調整している。
「止めたかった。守りたかった。
でも、どうすればいいか分からなかった。
気づいたときには……手遅れだった」
ユリウスは目を伏せる。
「だから俺は歪んだんだ。
“次こそは成功させる”って。
利用してでも、押さえつけてでも……救うってな」
◆5.その歪んだ“救い”がユリウスへ向く
ジャスパーは一歩、ユリウスの方へ近づいた。
「お前はロイの継承者だ。
だから……壊れさせない」
その瞳には、本心だけが宿っていた。
「でも俺には“正しいやり方”が分からない。
だから、攻撃という形でしかお前に触れられない。
利用するような形でしか守れない」
ユリウスは息を呑む。
ジャスパーの叫びは、痛みではなく願いだった。
◆◆ 結び:歪んだ英雄が求めたのは“救い”だった ◆◆
「ユリウス……
俺はただ、ロイみたいにお前が壊れるのが怖い」
雨の音が止んだ。
静寂の中で、ユリウスは初めてジャスパーの“本当の顔”を見た気がした。
ユリウスはゆっくりと答えた。
「……ジャスパー。
俺は壊れない。ロイの思想は“継承”じゃなくて、“成長”させるんだ」
ジャスパーは一瞬だけ、安堵したように目を細めた。
「なら……証明しろ。
俺の間違った守り方より……正しい方法があるって」
その瞬間、廃墟に微かな光が差し込んだ。
夜明けが近づきつつあった。




