第10章:ロイの影、揺れる刃
第10章:ロイの影、揺れる刃
街の地下深く。
かつてFREEDOMが隠れ家として使っていた旧通信基地——そこに、ユリウスは仲間とともに潜入していた。
頭上では断続的に爆音が響き、地面が細かく震える。
安全派と自由派の全面衝突が、すぐそこまで迫っていた。
「……ここに、ロイの記録データがあるって本当なんだな?」
「ああ。FREEDOMの残党が持っていた最後の情報源だ。」
ユリウスは喉の奥が乾くのを感じた。
身体には前章で負った傷が残り、腕にはまだ血の痕が乾いてこびりついている。
それでも——進まなければならない。
(ロイ。
あんたが何を背負って折れたのか……知らなきゃ、俺は進めない)
◆ 暗闇に潜む“裏切り者”
通路の奥から、鉄の靴音が響く。
カン……カン……カン……
「止まれ。……誰か来る。」
仲間の一人が銃を構えた瞬間——
通路の角から現れたのは、安全派の制服を着た数人の兵士だった。
だが、その中心に立つ男は違った。
黒い外套を羽織り、片目に深い傷跡。
自由派の一部を扇動していた噂の人物——
“ジャスパー”
元FREEDOM、現在は“自由派内部の異端”として恐れられている男。
「よォ、ユリウス=ライナー。」
喉を焼くような低い声。
その視線は、ユリウスの奥に潜む“ロイの影”を見透かしているようだった。
「……なんでお前が安全派と一緒なんだよ。」
「簡単だ。
“自由”なんて綺麗な思想じゃ、この国は変わらねぇ。
ロイの残した思想も、利用できる所だけ利用すりゃいい。」
ユリウスの拳が震えた。
「ロイを……利用だと……?」
「お前もだよ、ユリウス。
あの男の思想に酔った、危険な英雄。」
その瞬間、ユリウスの仲間が怒りで飛びかかろうとした——
「動くな。」
ジャスパーが軽く手を振る。
直後、通路の両側から銃弾が飛び、壁で火花が散った。
仲間の肩をかすめ、赤い血が線を描く。
「ぐっ……!」
ユリウスの胸が凍りつく。
(……仲間を、これ以上……!)
「ジャスパァァァアッ!!!」
ユリウスが前へ踏み出そうとした——その瞬間。
◆ シグルド、乱入
天井の通風口が破裂するように開いた。
ガシャン!!!
そこから落ちてきた人影が一人。
床の上で転がり立ち上がったのは——
シグルド。
ユリウスの目が見開かれ、ジャスパーの眉が僅かに動いた。
「ようやく見つけた……ユリウス。」
シグルドの声は疲れ切っていた。
ロイの亡霊と安全派の板挟みにされ、もはや精神の限界が近い。
「シグルド……なんでここに……?」
「言ったろ。“続けろ”と。……だから、お前を死なせねぇ。」
その目には迷いがある。
だが、ユリウスを撃てなかった時とは違う種類の“揺れ”だった。
◆ 三者、同時に刃を向け合う
ユリウス vs ジャスパー vs シグルド。
三人の視線が、通路の空気すら殺すような緊張を刻む。
「シグルドォ……安全派の犬が、ここで何する。」
「お前こそ、自由派を騙す裏切り者だ。」
「黙れ。お前はロイを守る“ふり”をして、ただ安全な場所に逃げ込んだ男だ。」
シグルドの目がわずかに揺れる。
(……ロイ……俺は……)
ユリウスは二人の間に立った。
「ロイを侮辱する奴は……どっちだ!」
叫びと同時に、心臓の鼓動が耳を打つ。
◆ 開戦
ジャスパーが斧を引き抜き、床に火花が散る。
「見せてもらうぜ……ロイの“後継”!」
兵士たちがいっせいに銃を構えた。
同時に、シグルドが剣を抜く。
「ユリウス、下がれ!」
「下がるかよッ!!」
ユリウスは踏み込む。
ジャスパーの斧が横薙ぎに振るわれ、壁が割れるほどの衝撃が走った。
避けきれず、ユリウスの腕に深い裂傷が走る。
「くッ……!!」
血が吹き出す。
だが、斧は骨を砕いてはいない。
(まだ動ける……まだだ!!)
ジャスパーが笑う。
「ロイに似てるなァ! 傷ついても歩みを止めねぇ!!」
「俺はロイじゃない!!
あんたみたいな“利用しようとする奴”を許さないだけだ!!」
ユリウスは拳を叩き込もうとするが、左肩に銃弾が浅く掠めた。
「うがッ……!」
背後の兵士だ。
次の弾がユリウスを狙う——
「させるか!!」
シグルドの剣が閃き、兵士の銃を叩き落とした。
火花が散り、その顔には苦悩と決意が――混ざっていた。
◆ ロイの記録データ、起動
戦闘の衝撃で、壁面の端末装置が起動した。
古い電子音——
『……ロイ・カイセル、記録開始。
もしこのデータを誰かが再生するなら……』
その声が通路全体に響く。
ユリウスの動きが止まる。
「ロイ……?」
ジャスパーもシグルドも、刃を向けたまま凍りつく。
『——俺は、守れなかった。
でも……守ることを諦めたわけじゃない。
ただ……やり方を間違えたんだ。』
呼吸を忘れるほどの静寂。
『俺の思想を継ぐなら……“壊れるな”。
俺みたいに、全部抱え込むな。
誰かと……共に進め。』
ユリウスの胸が焼けるように熱くなった。
(ロイ……あんた……)
◆ 三者の心が揺らぐ瞬間
ジャスパーの口元が歪む。
「……冗談だろ。ロイは……そんな……弱い言葉を……」
シグルドは目を閉じ、拳を震わせた。
(……ロイ……お前は……俺たちに何を託したんだ……)
ユリウスは涙でも怒りでもない、強烈な衝動に突き動かされた。
「俺は……ロイを超える!
あんたらの都合で使わせない!!!」
その叫びは、通路の空気を震わせた。
◆ “最大の衝突”への導火線
ジャスパーが斧を構え直す。
「よし、決めた。
ロイを継ぐのは……俺じゃなくて……お前を殺したやつだ。」
シグルドがユリウスの前に立つ。
「ユリウス、お前は……ロイの言葉を守れ。
お前は壊れるな……!」
ユリウスは血を拭い、真っ直ぐ前だけを見た。
「行くぞ……ジャスパー!!!」
斧がうなり、剣が光り、拳が飛ぶ。
ロイの声が、まだ通路に微かに響いていた。




