第9章:揺らぐ正義
第9章:揺らぐ正義
制御特課の重装兵が四方からユリウスを囲んだ。
夜の空気が微かに震え、銃口が一斉に赤いレーザーを放つ。
(囲まれた……だが関係ない。後ろには仲間がいる。)
ユリウスは地面を蹴り、真横へ飛び込む。
直後、床が弾丸で砕け、破片が彼の頬を切った。
細い血が頬を伝って滴り落ちる。
「包囲網を縮めろ。対象は高機動だ。」
「やれるもんならやれよ!」
ユリウスは倒れた仲間の横に滑り込み、
至近距離まで迫った兵士の膝へ銃床を叩き込んだ。
「ぐッ——!」
兵士が姿勢を崩す。その隙を見逃さず、ユリウスは腕を掴んで地面に叩きつける。
だが——背後から衝撃。
別の兵士の蹴りが脇腹に入る。
「……ッが!」
ユリウスの口から血が飛び散った。
視界が白く弾け、肺が焼けるように痛む。
(まだ……倒れねぇ……!)
◆ 制御特課の異様な強さ
重装兵は四人。
ユリウスの動きを読み切り、隊列を瞬時に組み直す。
「対象の出血量増大。戦闘継続は難しくなる。」
「……なら、早めに終わらせてみろよ。」
ユリウスは血で濡れた拳を握りしめる。
その姿勢はロイに似ている。
だが、目は違った。
——ロイのように壊れない。
折れそうになっても、“立ち戻る場所”を持っている目だ。
「行くぞ……!」
ユリウスが踏み込んだ瞬間、
二機のドローンが天井から降下し、援護射撃を開始した。
銃弾が壁に穴を空け、ガラス片が雨のように降る。
「援護まで呼んだか……上等だ。」
◆ 仲間が倒れていく
「ユリウス! 無茶だ、お前じゃ——」
「下がってろ! 俺がやる!」
仲間の一人が、ドローンの弾丸を肩に受けて倒れ込んだ。
鮮やかな血が路地に飛び散り、ユリウスの胸がずきりと痛む。
(守れなきゃ……意味がねぇだろ!)
怒りで身体が熱くなる。
だが同時に、痛みで膝が揺れる。
制御特課の兵士たちは着実に距離を詰めてくる。
「ユリウス=ライナー。これ以上の抵抗は無意味だ。」
「無意味かどうかは……俺が決める!」
◆ シグルドの影
ビルの屋上から、シグルドが二人の戦いを見下ろしていた。
(ユリウス……どうしてそこまで“自由”にこだわる。)
安全派の副長としての責務が彼を縛る。
だが、その胸の奥底では揺れが生まれていた。
(ロイ……俺は、お前の意志を守っているはずなのに。
なぜだ……なぜ、ユリウスに止めを刺せない。)
拳が震える。
胸の奥の“何か”が軋む。
ユリウスはロイの意思を継いでいる。
シグルドはロイの意志を守っている。
二人とも“ロイに忠実”なのに、
辿り着いた場所は真逆だった。
◆ 戦場が決壊する
制御特課がいっせいに突撃を開始した。
「終わりだ、ユリウス。」
「終わらせる気なら……俺を壊す覚悟で来いッ!」
ユリウスは叫び、最後の力で前へ踏み込む。
胸から血が流れ、脇腹は痺れ、腕は震える。
(それでも……まだ立てる。
俺はロイじゃねぇ。壊れねぇんだ。)
一瞬、ユリウスの姿が消えたように見えた。
次の瞬間、兵士一人のヘルメットに拳がめり込み、火花が散る。
「——ッ!」
「こいつ、速度が……!」
仲間たちも立ち直り、後ろから声を上げる。
「ユリウス!! 後ろだ!!」
振り返ると、ドローンが至近距離で銃口を光らせている。
(間に合わない——)
◆ パァン!!
銃声が響いた。
しかし撃ち抜かれたのはユリウスではなく、ドローンのセンサーだった。
屋上から狙撃したライフルの弾だ。
「……シグルド……?」
ユリウスと制御特課の全員が一瞬動きを止めた。
屋上にいるシグルドの手には、まだ煙を上げる長銃が握られていた。
「——続けろ。」
それだけ言い、彼は再び姿を消した。
◆ その行動が意味するもの
制御特課の兵士たちがざわつく。
「なぜ……? なぜ狙撃した?」
「敵を……助けたのか?」
兵士たちの隊列が乱れ、ユリウスは立ち上がる。
(シグルド……お前、何を迷ってんだよ。)
ユリウスの目は、涙ではなく“怒り”に濡れていた。
ロイの意志は、もう一つの正義を生んでしまった。
自由派と安全派——その分断がいま、深まる。
◆ 終幕前の静寂
戦場の空気がわずかに止まる。
ユリウスは血だらけの身体で、制御特課を睨みつけた。
「……続けるか? それとも……“考え直す”か?」
兵士たちは動けない。
だが、戦いが終わったわけではなかった。
ロイの遺した思想が、いま日本全土を揺らし始めている。
ユリウスの戦いも、シグルドの迷いも、
自由派の崩壊も、安全派の硬直も——
すべてが、この先の“最大の衝突”へ向かっていく。




