第7章:対立の火線(ひせん)
第7章:対立の火線
夜の街は、非常灯の青白い光だけが路面を照らしていた。
その静けさの中に、ドンッ——ッ! と衝撃音が響き、ガラスが砕け散った。
「ユリウス! 後退しろ、包囲されてる!」
無線越しにレオンの声。
だがユリウスは逆に一歩、闇の奥へ踏み込んだ。
(ここで下がったら、ロイは……ロイが見た未来は永遠に来ない。)
自由派と安全派の全面衝突は、ついに臨界点を超えていた。
その火種になったのは、ユリウスの演説。
自由を守るために戦うと宣言したその言葉は、多くの若者を動かし、
一方で、大人たちの恐怖と警戒心を最大限に刺激した。
――目の前に、装甲ドローンが三機、着地する。
「標的確認。拘束手順開始。」
平坦な機械音声。
だが、ドローンのスピーカーの奥に、もっと冷たい“意志”が潜んでいる気がした。
「……ロイの、やり方だな。」
ユリウスは低く呟いた。
安全派に属していたロイの思想——
「壊すな、守れ。だが必要なら、“最小限で”戦え。」
その優しさと厳しさの両方を受け継ぎ、ユリウスは武器を構える。
ドローンの銃口が閃き、火線が走る。
瞬間、壁が弾け飛び、破片が頬を掠めた。
熱いものが滴る。血だ。
(避けきれなかった……けど)
「まだだ!」
ユリウスは身を低くし、ドローンの足元に滑り込む。
拳銃を二発、関節部に撃ち込むと、火花が散り、機体が揺れる。
だがすぐに別のドローンが反応。
閃光弾が投げ込まれ、あたりが真っ白に染まる。
「——ッ!」
視界が焼かれ、耳鳴りが襲う。
膝が一瞬だけ折れた。
(まずい……身体が、悲鳴あげてる……)
ここ数週間、ずっと戦い詰めだった。
睡眠もろくに取れていない。
自由派の中でも最前線に立ちすぎた。
それでも。
(俺が止まったら……“安全派の力だけ”が未来を決めることになる。
それだけは、ロイの思想を受け継いだ俺が許せない。)
ユリウスはぐっと拳を握り直す。
銃声、叫び、火花、血の雨。
自由派の仲間たちが背後から突入してきた。
「ユリウス! ここは俺たちが押さえる! 前へ抜けろ!」
「助かる!」
ユリウスは瓦礫を飛び越えながら、次々と迫るドローンを撃ち抜く。
弾丸が頬を掠め、腕に刺さり、赤い軌跡が空中に散る。
だが、その痛みよりも心を刺したのは、
ドローンの背後に立つ“ある人物”の影だった。
影は煙の向こうでゆっくりと歩み出る。
「……久しぶりだな、ユリウス。」
その落ち着いた声。
冷静すぎる瞳。
安全派の象徴となった、ロイの弟子・シグルド。
「ロイの意志を継ぐなら、武力じゃなく“秩序”を選べ。
君のやっていることは……ただの破壊だ。」
「違う。俺はロイの——あの人の『守りたい自由』を守ろうとしてる!」
「自由は……管理されなければ暴走する。」
「管理って言いながら、縛るだけだろ!」
銃口が互いに向けられた。
息を飲むような沈黙。
この瞬間、自由派 vs 安全派の象徴同士が向き合っていた。
次の瞬間、銃声が轟く。
ユリウスの右腕に衝撃が走った。
血が勢いよく噴き上がり、地面に赤い滴が散る。
「……っぐ!」
倒れかけた身体を、ユリウスは必死に踏ん張る。
シグルドは銃を下ろさなかった。
「帰れ、ユリウス。君の戦いは……ロイを悲しませるだけだ。」
「ロイの名前を……安く使うな。」
ユリウスの瞳が、怒りではなく、決意で燃えた。
「俺は……ロイを超える。
あの人が『できなかった』自由の形を創るために。」
再び銃を構えたその姿は、
血まみれでも折れず、
倒れず、
心だけはまっすぐだった。




