第5章:軋む身体、裂かれる理念
第5章:軋む身体、裂かれる理念
夜の街を切り裂くように、ドローンのサーチライトが走った。
甲高い羽音が重なるたび、どこかで人々の悲鳴が混ざる。
ユリウスはビルの陰に身を滑り込ませ、肩で荒い息をつく。
(……まずい。体が重い)
数時間前から続く巡回と衝突の連続。
腕も脚もじんじんと痛み、動かすたびに反発するように震えた。
しかし足を止めれば、その瞬間にどこかで誰かが倒れる。
「守る……ロイがやろうとしたみたいに。俺も……」
その呟きが、自分をかろうじて支えていた。
◆
正面の路地が急に明るくなる。
白い光がユリウスの影を長く引き伸ばした。
「認証不能個体を確認。排除プロトコル――」
ドローンの無機質な声。
次の瞬間、金属音を伴って複数の光弾が発射される。
ユリウスは跳ねるように横へ転がった。
石畳に肩をぶつけた瞬間、鋭い痛みが腕を走る。
「……っ!」
身体が悲鳴を上げる。それでも立つ。
ロイの背中を思い出す。
壊れそうな身体でも、ただ前に出続けた姿。
(あんなふうに……俺もできる)
ユリウスは腰のナイフを逆手に構え、ドローンへ向かって走った。
◆
ドローンは一斉に旋回し、光が重なる。
眩しさに視界が薄れかけた瞬間、ユリウスは目を細めて踏み込む。
跳んだ。
一機の下部に着地し、回転する羽の隙間に刃を滑り込ませる。
「……落ちろ!」
機体が火花を散らして落下する。
しかし着地したユリウスの膝が、崩れるように地面へ沈んだ。
(痛い……限界近い……でも)
彼は歯を食いしばり、無理やり立ち上がる。
(ロイも、きっとこんな痛みを抱えながら……守ろうとしたんだ)
◆
そのとき、周囲を取り囲むように影が現れた。
自由派――暴走するドローン停止に反対する一部の過激派。
「ユリウス、やりすぎだ。安全最優先? そんなのロイが望んだ未来じゃない!」
「ロイは……守ったんだ。泣いてる人を、苦しんでる人を。
だから俺は――それを継ぐだけだ!」
声が震えていた。
怒りでも高揚でもなく、痛みによる震え。
自由派の一人が叫んだ。
「お前のやり方はロイの劣化コピーだ!
本当にロイを理解してない!」
ユリウスは一瞬だけ言葉を失った。
胸の奥に刺さる。
ロイは本当にこう望んだのか?
継ごうとしているのは、ただの憧れなのか?
迷いが一瞬、視界を揺らす。
その隙を突くように、ドローンの残り3機が一斉に光弾を放った。
「――ッ!」
ユリウスは咄嗟に腕を上げ、衝撃に耐える。
皮膚をかすめた光線で、血がにじむ。
(痛い……でも、止まれない!)
◆
ユリウスは再び走る。
身体の限界を無視し、燃えるような痛みを抱えたまま。
(誰かが泣くなら……俺が動けばいい!
守れなかったロイの分まで、俺が――!)
ドローンへ向かって跳び込む姿は、
かつてのロイと重なるようで、どこか違っていた。
ロイは壊れていった。
ユリウスは、壊れる前に立ち止まれるのか。
それとも――
ロイという“亡霊の理想”に飲まれていくのか。
夜の闇は何も答えなかった。
ただ、戦いの光がチカチカと瞬くだけだった。




