第4章:無人の牙
第4章:無人の牙
夜の空は雲一つないはずだった。
だがその上空を、赤い点がいくつも横切っていく。
高周波の羽音のような電子音が、静かな街を不気味に震わせた。
ユリウスは廃ビルの屋上に身を伏せ、双眼鏡越しにその群れを見つめる。
(……やっぱり、来たか)
無人制圧ドローン《Hound-β》。
FREEDOM残党の潜伏区域を見つけた政府が投入した、“警告なしで排除する”タイプの機体。
赤外線スキャン、催涙弾、ゴム弾。
制御が乱れれば 平気で一般人にも撃つ 危険なやつ。
路地の奥を見れば、かつてロイが守った地区の子どもたちが、まだ逃げ遅れている。
(間に合わなければ……撃たれる)
喉がひりつき、心拍だけがうるさく響いた。
◆ドローン接近
ユリウスは屋上の縁に立ち、飛び降りる。
足の裏に衝撃が走り、膝をつくがすぐに走り出す。
ビルの間に響く電子音は、獲物を探す獣の息遣いに近い。
「やめろ……こっちだ!」
叫びながら、拳大の石を拾って投げる。
金属の胴体に当たる乾いた音。
ドローンが一斉に振り向いた。
銃口に相当する光学センサーが赤く光り、狙いを定めてくる。
(やるしかない!)
◆交戦
ドローンの一機が低空で突撃してきた。
ユリウスは紙一重で避け、その腹部を蹴り上げる。
カンッ!
金属が弾け、ドローンは壁に激突し火花を散らした。
しかし次の瞬間――
別の一機のゴム弾がユリウスの腕をかすめた。
「ッ……!」
皮膚が裂け、赤い線が走る。
血がじわりと滲んで指先まで流れる。
(痛い……でも、止まれない)
彼は血を握り直し、壁を蹴ってドローンの背へ飛び上がる。
回転するプロペラに風圧で頬が切れるが、怯まない。
「落ちろッ!」
ユリウスは配線部を掴んで引きちぎった。
ドローンはスパークしながら地面へ墜落した。
◆逃げ遅れた子どもたち
通りの向こうで、小学生くらいの兄妹が身を寄せ合って震えていた。
「こっち来るな……怖い……」
その上空に、まだ稼働中のドローン3機が円を描くように位置取っている。
(間に合わない……!)
「伏せてろ!」
ユリウスは地面を蹴り、ドローンの群れへ飛び込んだ。
◆最後の一撃
ゴム弾が肩に直撃し、血が噴き出す。
だがユリウスは強引に腕を動かし、ドローンを抱え込む。
「……ッ……うあああああっ!」
全身の力で地面に叩きつけた。
金属が砕け、火花と煙が舞い、電子音が止む。
残りの2機も子どもたちを狙うが――
ユリウスが飛び込み、破損した部品を投げつけてセンサーを壊す。
そして最後の一機を、血まみれの腕で引き倒し、動力部を外した。
静寂が戻る。
◆余韻
息が荒い。
肩と腕から血が落ち、地面に黒ずんだ滴を作る。
「……大丈夫だ。もう来ない」
ユリウスの言葉に、子どもたちは泣きながらうなずいた。
彼は空を見上げる。
(結局……誰も守らなきゃ、世界は変わらない)
夜空に散った火花の跡は、消えかけた星のように暗闇へと溶けていった。




