第3章:混沌の牙 ―血に濡れる夜―
第3章:混沌の牙 ―血に濡れる夜―
夜の街は静まり返っていた。雨が混ざった風が、濡れたアスファルトに跳ね返る。街灯の光が長く路地を照らし、影は不気味に伸びていた。
ユリウスはビルの屋上から下を見下ろす。駅前広場では、無秩序に群がる暴徒たちが叫び、物を壊し、人々を押しのけていた。
(……動かねば、誰も守れない)
手には端末。暴徒の動き、混乱の範囲、人の密集度――情報は正確に彼の目に映る。深呼吸し、拳を握る。
「行く……止めるんだ」
◆
ユリウスは屋上から飛び降り、暗闇の中を駆ける。足音も衣擦れも最小限に抑え、路地裏から広場に潜入。暴徒たちが振り返る間もなく、ユリウスは壁際の障害物を押し出し通路を封鎖。ガラスが割れる音とともに、数人の腕や脚から血が滲む。
「逃げろ!」
彼の声で、混乱する群衆が一瞬動きを止める。
暴徒の一人が鉄パイプを振り上げて突進してくる。ユリウスは素早く肘で受け止め、相手を転倒させる。膝から血がにじむ。
「……誰も傷つけさせない」
その冷静さと正確さに、FREEDOM残党たちは息を飲む。
「……俺たちは、そこまでできない」
誰もが目を逸らす。血の匂いと恐怖が、空気を染める。
ユリウスは立ち上がり、再び群衆に目を向ける。まだ混乱は続く。数人の暴徒がナイフや棍棒を手にして迫ってくる。ユリウスは身を低くし、拳と足を使って制止。倒れる者たちからは血が滴り落ち、靴の裏に赤い水たまりを作った。
「……逃げろ、今だ!」
彼の声は叫びではなく命令。群衆は恐怖と混乱の中で道を開ける。ユリウスの目は常に冷たく研ぎ澄まされ、感情は封印されていた。
◆
戦いが落ち着くと、ユリウスは背後の残党に振り向く。
「……見たか? これが俺のやり方だ」
残党たちは首を振り、血の匂いにむせる。だが、その瞳には一瞬の尊敬と恐怖が交錯する。
「……俺たちは、そこまでできない」
ユリウスは小さく笑った。
「構わない。俺は俺のやり方でやる」
彼の手にはまだ血が残っていたが、それを振り払うこともなく、静かに拳を握り直す。
◆
夜風が吹き抜ける屋上で、ユリウスは深呼吸をする。街の明かりは遠くに瞬き、混乱の影を映し出す。
(誰かを傷つけさせない――そのためなら、俺は……どんな夜でも立ち向かう)
彼の影は長く伸び、孤独を纏った。血の匂いと夜の静寂が入り混じり、闇は深く、重く、街を覆っていた。
「……これが正しいやり方なのか? でも、俺がやらなければ、もっと血が増える」
ユリウスの胸に、鉄のような冷たさと、守るべき者への熱い想いが同居していた。




