第2章:夜闇の決断
第2章:夜闇の決断
夜の街は、昼間の喧騒を忘れたかのように静まり返っていた。
街灯がまばらに並び、歩道には長く影が伸びる。遠くのビルの窓から漏れる光が、霧がかった空気にぼんやりと揺れていた。
ユリウスはビルの屋上に立ち、下を見下ろす。
路地裏には、人々の生活音も、車のエンジン音もほとんど届かない。だが、その静けさが彼の胸をざわつかせる。
(静かすぎる……動かねば、誰も助けられない)
手には小型の端末。画面には、暴徒が集まる地点や、混乱している地区の情報が表示されている。
ユリウスは深く息を吸い、拳を握った。
「行く……止めるんだ」
◆
最初の標的は、駅前広場に群がる暴徒たち。
彼らは無秩序に買い物カートを押し、叫び、誰かを押しのけていた。
ユリウスは屋上から飛び降り、闇に紛れながら路地を駆け抜ける。
足音と衣擦れの音だけが、夜に反響した。
「……逃げろ!」
彼の声が、暴徒たちの背後から響く。
彼らは一瞬、動きを止め、振り返る。
その隙にユリウスは割れるガラスの音を鳴らす壁際に手を置き、障害物を押し出して通路を封鎖。
血の匂いが混ざるわずかな怪我もあったが、ユリウスの視界の中心は“人を傷つけさせない”一点だけだった。
◆
暴徒の一人がユリウスに向かって突進してきた。
拳が飛ぶ――彼は相手を致命傷ではなく、転ばせる程度に制止する。
「逃げろ!」
ユリウスの叫びに、周囲の人々は慌てて道を譲る。
破壊されたゴミ箱や飛び散る看板の音が、夜の静けさを裂いた。
◆
戦いが落ち着いた後、ユリウスは背後の残党に目を向けた。
「……見たか? 俺のやり方だ」
残党は首を振る。だが、その目には一瞬の尊敬と恐怖が混ざっていた。
「……俺たちは、そこまでできない」
ユリウスは小さく笑う。
「構わない。俺は俺のやり方でやる」
◆
夜風が吹き抜ける屋上で、ユリウスは深呼吸をする。
街の明かりは遠くに瞬き、混乱の影を静かに映し出す。
(誰かを傷つけさせない――そのためなら、俺は……どんな夜でも立ち向かう)
闇の中、彼の影は長く、孤独に伸びた。




