ユリウス編 第1章:黎明の歪み
第1章:黎明の歪み
街は夕暮れに沈み、赤みを帯びた光がビルの谷間を染めていた。
大人たちは忙しなく行き交い、子供たちは無邪気に笑っている――その光景に、ユリウスの胸はざわついた。
(こんな世界……変えなきゃ、何も変わらない)
彼の目には、昨日まで見ていた「理不尽」が鮮明に浮かんでいた。
駅前で怒鳴る大人たち、理不尽に耐える店員、何もできずに立ち尽くす人々。
ユリウスは拳を握り締めた。
「俺が……やらなきゃ」
◆
路地を曲がると、FREEDOMの残党が動いているのが見えた。
かつて自由を求めて戦った者たち。今は隠れ、力を温存している。
彼らの背中には警戒と疲労が混ざっていた。
「……お前らか」
ユリウスは静かに声をかけた。
「……誰だ、お前」
一人の残党が振り向く。武器はあるが、まだ攻撃はしない。
「戦わないと何も変わらない――そう思ったから、来た」
その目にはロイの思想の残滓が宿っていた。
守るべきもののために、躊躇なく理不尽に立ち向かう覚悟。
◆
突然、街角から暴徒の叫び声が響く。
商店街で大人たちが喧嘩を始め、無関係な人々が巻き込まれようとしていた。
ユリウスは瞬時に状況を判断する。
(ここで止める……誰も傷つけさせない)
彼は駆け出す。
残党たちも反応し、手にした道具や武器を構える。
ただし、敵ではない。ユリウスは意思を示すだけで、戦う相手は“理不尽そのもの”だ。
拳が壁に当たる音、足音が廊下に響く。
ユリウスは人々を押しのけながら前に進む。
怒りも恐怖もない。あるのは「止める」という一点のみ。
「逃げろ! 巻き込まれるな!」
彼の声に、周囲の人々は驚き、暴徒は一瞬躊躇する。
ユリウスはその隙に、危険を排除していく。
拳が飛ぶ――だが、血はつかない。
“排除”するだけの冷徹さ。
◆
戦いが一段落すると、ユリウスは息を整え、背後の残党に目を向けた。
「……どうだ? 一緒に来るか?」
「……俺たちは……お前みたいにはなれない」
残党は首を振る。だがその目は、少しだけ彼を認めていた。
ユリウスは頷く。
「構わない。俺は俺のやり方でやる」
その瞬間、彼の胸の奥で、冷たく光る柱のような意志が立った。
“守る”――ただそれだけ。
世界が理不尽に沈んでも、彼は立ち上がる。
◆
夜。
街の明かりが遠くに瞬く。
ユリウスは高い屋根の上に立ち、深く息を吸う。
目の前にあるのは戦火ではなく、まだ守れる日常。
しかし、心の奥には小さな炎が燃えていた。
(誰かを傷つけさせない――そのためなら、俺は……何だってやる)
闇が街を包む中、彼の影は長く、細く伸びた。
ユリウスの戦いは、今、始まったばかりだった。




