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WHY?  作者: ハル


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**第10章:限界点(最終章)

**第10章:限界点(最終章)

 街は緊急警報の赤い光に染まっていた。

 どこか遠くから、また爆音が響く。

 ナルイ連邦とロソルト国の戦火は、ついに日本にも影を落とし始めていた。

 ロイはその光景を、感情の抜け落ちた目で見つめていた。

(また誰かが死ぬ……誰かが泣く……)

 その“想像”には、もう痛みがなかった。

 ただ、静かに、冷たく判断するだけだった。

「……止めればいい」

 その一言だけが、ロイの世界を支配していた。

 街角で、混乱が起きていた。

 数人の男たちが誰かを脅している。

 避難所に向かう住民だ。

 ロイは歩いて近づく。

 怒りはない。怖さもない。

 ただ——今ここで止めなければ、また誰かが傷つく。

「お前ら、そこまでにしろ」

 男たちが威嚇するようにロイを見た。

「なんだてめぇ、やんのか?」

 ロイは淡々と答える。

「……うん。邪魔ならどいて」

 声は落ち着いていて、熱がない。

 まるで気温でも言うように、ただ“事実”を述べた声。

 男がロイに掴みかかる。

 次の瞬間、ロイの手が相手の腕を押しのけていた。

 一瞬の動きだった。

 攻撃でも、防御でもない。

 ただの“排除”。

 男たちは恐怖を感じた。それはロイが強いからではない。

 躊躇が一切ないからだ。

「……逃げろよ。じゃないと、また誰かが傷つく」

 その目に怒りはなく、空のように静かだった。

 男たちは逃げるように散り散りになった。

 ロイは倒れた住民に手を伸ばす。

「歩ける? 避難所、こっち」

 優しい言葉だった。

 だがその“優しさ”の中に、不自然な冷たさが混ざっている。

 夜。

 ロイは避難所の屋上に立っていた。

 遠くで戦火が上がる。

 爆光で夜空が白く染まるたび、ロイの瞳に影が落ちる。

(守れなかった……守りきれなかった……)

 自分が助けた人もいる。

 でも、自分の選択で傷ついた人もいる。

 ロイは薄く笑った。

「……大丈夫。次はもっと上手くできる」

 それは自信ではなく、決意でもない。

 ただの思考の自動化だった。

「守る。全部……俺が、守る」

 その言葉は祈りではなく、呪いに近かった。

 胸の奥で、何かがぽっきり折れているのに、ロイ自身は気づかない。

 避難所の責任者が駆け上がってきた。

「ロイくん! あんた、勝手に危ないことして——」

 ロイは振り返る。

 その表情には“怒り”も“反論”もなかった。

「……別にいいでしょ。守ったんだから」

 あまりにも静かな声だった。

 静かすぎて、相手は逆に言葉を失う。

「危険だろ!? もっと自分も——」

「俺はどうでもいいよ。俺より、他の人が先」

 ロイは断言した。迷いひとつなく。

「俺が傷つくのはいい。でも誰かが泣くのはもう嫌なんだよ」

 その目は、壊れたガラスのようだった。

 透明なのに、冷たくて、どこか歪んでいる。

 責任者は息を飲んだ。

 その瞬間、全員が理解した。

ロイの“守る”はもう、人間の限界を越えている。

◆ 最後の独白(精神崩壊)

 深夜。

 避難所の灯りが落ちた頃、ロイは壁にもたれかけながら独り言を呟いていた。

「守るよ……全部。

 壊れそうでもいい……壊れてもいい……」

 声が少しずつ掠れていく。

「守らないと……守らないと……守らないと……」

 その言葉は、もうロイの意思ではなかった。

 口が勝手に動いているようにすら感じる。

(誰かが傷つくのは嫌だ……嫌だ……嫌だ……)

 頭が熱くて、思考がぐちゃぐちゃなのに、

 “守る”だけが一本の太い柱のように立っている。

「全部、止める……全部、守る……俺が……」

 その呟きは、夜の闇に吸い込まれていった。

ロイの思考は、どこか遠くへ流れていった。

ただ“守る”という声だけが、胸の奥で響き続けていた

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