**第10章:限界点(最終章)
**第10章:限界点(最終章)
街は緊急警報の赤い光に染まっていた。
どこか遠くから、また爆音が響く。
ナルイ連邦とロソルト国の戦火は、ついに日本にも影を落とし始めていた。
ロイはその光景を、感情の抜け落ちた目で見つめていた。
(また誰かが死ぬ……誰かが泣く……)
その“想像”には、もう痛みがなかった。
ただ、静かに、冷たく判断するだけだった。
「……止めればいい」
その一言だけが、ロイの世界を支配していた。
◆
街角で、混乱が起きていた。
数人の男たちが誰かを脅している。
避難所に向かう住民だ。
ロイは歩いて近づく。
怒りはない。怖さもない。
ただ——今ここで止めなければ、また誰かが傷つく。
「お前ら、そこまでにしろ」
男たちが威嚇するようにロイを見た。
「なんだてめぇ、やんのか?」
ロイは淡々と答える。
「……うん。邪魔ならどいて」
声は落ち着いていて、熱がない。
まるで気温でも言うように、ただ“事実”を述べた声。
男がロイに掴みかかる。
次の瞬間、ロイの手が相手の腕を押しのけていた。
一瞬の動きだった。
攻撃でも、防御でもない。
ただの“排除”。
男たちは恐怖を感じた。それはロイが強いからではない。
躊躇が一切ないからだ。
「……逃げろよ。じゃないと、また誰かが傷つく」
その目に怒りはなく、空のように静かだった。
男たちは逃げるように散り散りになった。
ロイは倒れた住民に手を伸ばす。
「歩ける? 避難所、こっち」
優しい言葉だった。
だがその“優しさ”の中に、不自然な冷たさが混ざっている。
◆
夜。
ロイは避難所の屋上に立っていた。
遠くで戦火が上がる。
爆光で夜空が白く染まるたび、ロイの瞳に影が落ちる。
(守れなかった……守りきれなかった……)
自分が助けた人もいる。
でも、自分の選択で傷ついた人もいる。
ロイは薄く笑った。
「……大丈夫。次はもっと上手くできる」
それは自信ではなく、決意でもない。
ただの思考の自動化だった。
「守る。全部……俺が、守る」
その言葉は祈りではなく、呪いに近かった。
胸の奥で、何かがぽっきり折れているのに、ロイ自身は気づかない。
◆
避難所の責任者が駆け上がってきた。
「ロイくん! あんた、勝手に危ないことして——」
ロイは振り返る。
その表情には“怒り”も“反論”もなかった。
「……別にいいでしょ。守ったんだから」
あまりにも静かな声だった。
静かすぎて、相手は逆に言葉を失う。
「危険だろ!? もっと自分も——」
「俺はどうでもいいよ。俺より、他の人が先」
ロイは断言した。迷いひとつなく。
「俺が傷つくのはいい。でも誰かが泣くのはもう嫌なんだよ」
その目は、壊れたガラスのようだった。
透明なのに、冷たくて、どこか歪んでいる。
責任者は息を飲んだ。
その瞬間、全員が理解した。
ロイの“守る”はもう、人間の限界を越えている。
◆ 最後の独白(精神崩壊)
深夜。
避難所の灯りが落ちた頃、ロイは壁にもたれかけながら独り言を呟いていた。
「守るよ……全部。
壊れそうでもいい……壊れてもいい……」
声が少しずつ掠れていく。
「守らないと……守らないと……守らないと……」
その言葉は、もうロイの意思ではなかった。
口が勝手に動いているようにすら感じる。
(誰かが傷つくのは嫌だ……嫌だ……嫌だ……)
頭が熱くて、思考がぐちゃぐちゃなのに、
“守る”だけが一本の太い柱のように立っている。
「全部、止める……全部、守る……俺が……」
その呟きは、夜の闇に吸い込まれていった。
ロイの思考は、どこか遠くへ流れていった。
ただ“守る”という声だけが、胸の奥で響き続けていた
完




