第5章:守護者の決意 ―そして歯車は動き出す―
第5章:守護者の決意 ―そして歯車は動き出す―
ナルイ連邦とロソルト国の戦争が始まってから、人々の生活はじわじわと暗い色に染まり始めていた。
物資の値段は上がり、夜の街には兵士が立ち、学校でも「次、どこが攻められるんだろ」と噂が飛び交っている。
ロイは最近、胸の奥がずっとざわついていた。
自由だの権利だの――そんな言葉が、前よりもずっと危うく聞こえる。
「守りたいってだけじゃ足りねぇ。俺が何とかしないと、何も変わらねぇ」
そう思うことが増えていた。
その日の放課後。
ロイが帰っていると、細い路地で怒鳴り声が聞こえた。
「いいから渡せよ! 金だよ金!」
男二人が、店の配送員の青年を壁に押しつけている。
青年は怯えて震えていた。
ロイの足が止まった。
――こいつらを放っておいたら、また誰かが同じ目にあう。
気づけば、体が動いていた。
「お前ら、やめろ」
男たちが振り返り、ロイを見る。
「は? ガキが何の用だよ」
ロイはゆっくりと歩み寄った。怒りよりも、強い目的が顔に浮かんでいる。
「関係ある。こういう奴らを許すと、街全体が弱くなる」
「は? 意味わかんねぇ――」
「わかんなくていい。俺は、守る側を選んだ」
男の一人がロイの胸ぐらをつかもうと手を伸ばした瞬間、ロイはその腕を弾いた。
その勢いに男がたじろぐ。
「次、手出したら……容赦しねぇ」
ロイの声は低く、静かだった。
殴っていない。傷もつけていない。
だが、圧だけで男たちは一瞬息を呑んだ。
もう一人の男がロイに近づこうとしたが、ロイの視線が鋭く突き刺さる。
「誰かの生活を壊すやつを見逃せって? 無理だ。俺はそういうのが一番嫌いなんだよ」
その言い方は、これまでよりも強く、重かった。
男たちは悪態をつきながらも後ずさり、逃げていった。
配送員の青年が震える声で言った。
「あ、あの……助かりました」
「いい。帰れ。気をつけろよ」
ロイは背を向けたが、胸の中では別の感情が渦巻いていた。
――俺がやらなきゃ、誰がやる。
その意識は、もう“正しさ”というより“使命感”に近づいていた。
夜になり、街の広場を通ると、軍のパトロールが増えていた。
自由を求めて暴れた一部の連中のせいで、街は不安定になっているのだとアナウンスが流れる。
ロイはそれを聞きながら、無意識に拳を握った。
「自由を求める? 笑わせんな……。自分勝手に動く奴がいるせいで、守られてたものが壊れていくんだ」
そのとき。
広場の端で、誰かが落書きをしているのが見えた。
「“自由を返せ”……? ふざけんなよ」
ロイは歩み寄る。
その気配に気づいた青年が振り返り、バツが悪そうな顔をした。
「べ、別に悪いことじゃねぇだろ。権利を主張してるだけだ」
「今の状況でそんなことして混乱増やして、何が守られるんだよ」
「守る? 何の話だよ」
ロイは歩を進めた。
声は静か。けれど、その裏に熱がある。
「誰かがやらなきゃ街は乱れる。自由を振りかざして、無関係な人たちを不安にさせるな」
青年が後退し、筆記具を落とす。
「な、なんだよお前……!」
「俺は、守る側に立つ。もう決めたんだ」
青年は逃げるように走り去った。
ロイはしばらくその場に立ち尽くした。
胸に残っていたわずかな迷いが、今完全に消えていくのを感じていた。
家へ歩く足取りは、いつもより重かったが――同時に迷いはなかった。
守るためなら、どれだけ嫌われても構わねぇ。
俺が“壁”になることで救われる人がいるなら、それでいい。
ロイの思想は、確かに強く、そして少しだけ危うい方向へ進み始めていた。
だがロイは、その変化にまだ気づいていなかった。




