オタク百物語『作者降臨』ほか2編
ええ……信じてもらえないかもしれないですが、本当に見たんです。
その日、私たちはいつもどおり何気なく呟いてました。内容は、まあ友達との会話ですから、重要なものじゃないし、せいぜい「A(任意のキャラ名)のクラスメイトになって、文化祭でいつもと違う少し大人びた姿にドキドキする僕くんになりたい」とかそんなことです。本当にいつもどおり。それだけで終わるはずだったんです。
それが……その時は…………作者がなぜか反応して………………直々に『そんな僕くんの目の前で、AとBが付き合ってるという事実が明らかになるシチュエーション』をお出ししてきて……………。ええ、あれが何だったのか、本当に起きたことなのか、それすらもわかりません。ですが、私は今も『僕くん』について考えることが、怖いのです。
◆
これは、俺の従兄弟が体験した話なんだけどさ。俺の従兄弟って、本作るタイプのオタクなんだよ。けど、家族にはカミングアウトしてなかったんだ、その時は。
ただ、この従兄弟って、良い奴なんだけど、抜けてるとこも結構ある奴でさ。
本って、自前のコピー機で作れるくらいのやつから、ちゃんと業者にお願いして製本してもらう本格的なやつまであるだろ。従兄弟は、本格的なやつをその時作るために、業者に依頼したんだと。
アンソロジーだったらしい。
まあ、ここまでは、よくある話ではあるんだよ。ここからが、あまりない話でさ。
この従兄弟、送り先を実家にしてたんだ。完成した本の送り先を。そう、実家。
叔父さんと叔母さんは、オタクのこういう趣味というか、文化そのものを知らない普通の人たちなんだよ。なんなら、従兄弟の姉に関しては、ドラえもんとか見て『キモオタアニメ!』って決めつけるくらいの筋金入りなんだけど。
で、宅配で届いたんだけどさ。ご丁寧にインターホン押して。
受け取りは、俺の叔父さんがしたらしい。
それで、家族の前で何気なく、悪気なく聞かれたらしいんだ。
「なにこれ?」って。
中身?ド健全なアンソロジーだよ。でも、そもそも二次創作という文化についてから説明を始めないといけないレベルの人にだよ。説明できるか?
だから、従兄弟は咄嗟に答えたんだ。
「エロ本!!!!!!!」
その後、どうなったんだろうな。
◆
Aさんは、マイナーカプのイラストをあげるのが趣味だった。
ある日、このマイナーカプのイラストに、否定的な意見が出たらしい。それも、人格批判までするタイプの。
さすがに、その日は堪えて、作品を全部消してから、SNSから離れたらしい。
翌日、TLを眺めて驚愕した。
Aさんの知らないところで、全く知らない人が、否定的な意見を言った人に、Aさんへの謝罪を要求して、Aさんの知らないところで、界隈が燃えていたらしい。
Aさんはそれ以来、オンライン上にイラストを投稿することを辞めたという。
今では即売会の妖精として壁サークルの地位を築いていた。