独りぼっちの部屋で
薄暗い一人暮らしの部屋の中、清水聖南【しみず せな】は抱きかかえたクッションを涙で濡らしながら一人泣いていた。
「リリちゃん・・・どうして・・・」
鼻を啜りながら聖南がうわ言のように呟いているのは、リリスと名付けた愛猫が天国に逝ってしまったからだった。
リリスは元々保護猫用のシェルターに居たところを聖南が引き取ったメス猫であり、その時点で既に九歳と高齢だった上に身体も丈夫ではなかったようでいつ亡くなったとしてもおかしくない状況ではあった。
それでも聖南はその条件を承諾し、シェルターの管理人と正規の契約を交わしてリリスを引き取ったのだ。
残り少ない命だったとしても、聖南はその最期を見届ける覚悟でリリスを家に迎え入れた。しかしいつか別れる日が来ると分かっていても、やはり実際にその時が訪れるとやるせないものがある。聖南は家事も疎かにただ嗚咽を上げ続けることしかできずに、込み上げてくる涙を堪えることさえ叶わなかった。
そして飼い猫を亡くしたこと以外にももう一つ、聖南の悲しみをより深いものへと助長する要因がある。
実は最近彼氏と別れたばかりで、それもお互い結婚を前提とした真剣交際だったので聖南に空いた穴は大きかった。彼氏と別れてからのこの一週間は食事も喉を通らなかったほどだ。
自分の心にぽっかりと空いた穴を埋めてくれる存在は愛猫のリリスだけだったと言うのに、そのリリスも病気で亡くなってしまった。
はっきり言って今の聖南は失意のどん底にいた。
こんな風に悲しみに暮れていても慰めてくれる人はおらず、ただ無慈悲に時間が過ぎ去っていくだけ。
明日これが夢でないと分かったのなら、いっそ自分も命を絶ってしまった方が楽になれるのだろうか。
聖南はそんなことを考えながら目を閉じる。
すると今まで嫌に部屋の中で響いていた壁掛け時計の秒針の音が遠くなっていく感覚があり、代わりに誰かの声が聖南の耳に届いた。
「・・・ちゃん、聖南ちゃん」
誰だ?
もう夜も遅いはずだし、空き巣や泥棒ならこんな優しい声の掛け方はしない。自分の知り合いにこんな穏やかな声の人なんていただろうか。
「聖南ちゃん。起きて」
もう一度その声に耳を凝らしても、やはり声の主に心当たりがない。聖南はゆっくりと目を開けてその正体を確認する。
最初その影はさっきまで目を閉じていた聖南の視界にぼんやりとしか映らなかったが、少しずつその姿が明瞭になっていく。
それは人にしてはあまりにもサイズが小さく、シルエットも明らかに人の形をしていなかった。
影の正体はではない。猫だ。
そう認識すると同時に懐かしいその面が聖南の目の中に鮮明に捉えられ、はっとしながらその名前を呼んだ。
「リリちゃん・・・?」




