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前歴重めの吉田さん

吉田さんに案内されて入った校舎内は、びっくりするほど校舎でした。


普通に昇降口があり、そこで土足から上履きに履き変えます。我々は上履きがないので、とりあえず来客用?スリッパです。


「上履きっつっても、安いクロックスもどきで問題ねーよ。一応風呂は男女別にあるけどよー、特に冬場は廊下が寒いんだよ・・・ハダシは無理なほどに冷てえしな」


なるほど。普通の鉄筋の校舎に見えるので納得ですね。


「なんでよ。濡れた足でも履ける上履きがよくてよ。結局こいつになるわけだ。スリッパじゃ夏はともかく冬はキツい」


吉田さんは自分の足を指して言いました。


おっしゃる通りですね。ここは社員寮的存在と紹介されましたが・・・その認識でいいでしょうか。


「まあ、落ち着け。元は理科室だったところが食堂になってる。火も使えるし、給湯器もある。酒もあるし冷食もある。電子レンジもあるから唐揚げでもなんでも作り放題だ」


確かに。今の冷食は下手な店よりおいしいですからね。


「違えねぇな。まあ、男女比はなるべく1:1にしろってことらしいからお(めえ)らも男女で送られて来たんだろうが、ここはやっぱり男のほうが少々多い。

出社すれば女子多めで会社としては大体比率を合わせてるみてぇだけどな。なんで、冷食しか出せねぇが、あったかいメシではあるから勘弁してくれ」


かまいません。さとこさんも僕もそれほど贅沢な生活はしておりませんでしたので、チンした冷食で充分なごちそうです。


           ・・・


「じゃあ、適当にやってくれ。メシはよくわからんから、そっちの山から適当に取ってくれ」


見覚えありますね・・・トレーのおかず冷食です・・・。別に海老チリと鳥の唐揚げをチンした模様です。


さとこさん、ご飯はどうします?


「半分のでいいです。そーきちは?」


呑むので僕も半分で。


「はい。温めて来ます。呑むのはいいけど気を付けてね?」


わかりました。


「夫婦の割に会話が固てぇな・・・やっぱ訳有り枠か?」


まあ、事情がありまして。吉田さんこそ訳有りなんじゃないですか?


「わかるか?まあ、一缶いこう」


はい。じゃあ、缶ビールで乾杯しましょう。


「おう、乾杯!」


乾杯です。よろしくお願いいたします。


「こちらこそよろしく」


やはり旨いですね・・・しばらく飲めなかったので旨いです。


「ご同業には見えねぇが、しばらく飲めなかったんかい?ぶっちゃけるとオレは元ヤクザ。殺人で受刑者だったんだ。ヤクザ同士だから7年くらいだけどな。一般人は殺してねぇよ。まあ、脅すくらいはしてたけどなwwww」


我々は海外放浪からの帰国で・・・貧乏で飲めなかっただけです・・・IDカード的なものもほぼ全て無くして臨時のパスポートで戻ってきたくらいでして・・・見た目通りの歳なので親も、もう居なくて・・・頼れる知人から借りるのも限界でして・・・。


「海外放浪かぁ。優雅だなぁ。まあ、ケンカや出入りよりはって意味でな。元ヤクザの受刑者なんてのは出れてもロクな仕事がなくてなぁ。その上、組も無くなってて組長(オヤジ)も死んでて。建設作業員くらいが関の山なんだよ」


そうなんですか・・・ケンカなりなんなりで、人を殺してしまっても、相手がヤクザと、ギリギリ一般人では量刑に差があるということですか?


「まあな。今だと半グレとかちょっと区別・判別が面倒な連中も居るが、オレらのころは相手がヤクザならヒトケタ、相手が民間人ならフタケタだな」


それで、ここで・・・態度から察するに・・・何かの役職についていらっしゃるんですよね?


「役職ってほどもないが、一応課長と名乗っていいようだ。まあ、本社の課長とはレベルがダンチなんだけどな」


こう言ってはアレですが、よく雇ってもらえましたね。


「そうだよ。一言でまとめるとラッキーだった。一応、組が無くなったってのは塀の中で聞いたんで、仕方無く模範囚とやらを頑張って演じてたんだよ」


模範囚ですか。懲役の経験はないのですが・・・それは大変なんでしょうか?


「大変というか、ひたすら耐えるというか・・・まあ、ヤクザには向いてるっちゃ向いてる。オレみたいなオールドタイプのヤクザはひたすら耐えるってのに慣れてるからな。正直、小僧として入ってから中堅になるまではその繰り返しだからなぁ・・・で、抗争で相手を()って幹部に上がるって流れだったんだが、そこで組が無くなっちまって、系列の組にも組み込まれなかったから、路頭に迷う予定だったんだが、そうにもいかねえよなぁってわけで・・・まあ、迷って仕方無く模範囚ごっこをしてたんだよ。出るときに模範囚扱いなら・・・いくらかマシなゴミクズ扱いで、保護司さんとかに職を斡旋したりしてもらえる可能性もあるからな」


ヤクザ界の事情は存じ上げませんが、暴対法以降足抜けしてからも大変だというような記事は雑誌なんかで見た気がします。


「そう。まさにそれな。銀行口座も携帯も使えなくて就活なんかできるかっつーの」


携帯は飛ばしとかあるっちゃあるって聞いてますが・・・


「あるけど(たけ)えし、単に連絡取るならともかく、そんなんで就活できねぇよ」


じゃあ、どうやってここに就職したんですか?


「一応、元暴力団の離脱支援プログラムってのがあって、ハードルは(たけ)えんだけど、なんとかしてくれるのがあんだよ。そこで五年耐えたわけだ」


五年ですか!長いですねぇ・・・


「まあな。ひたすら耐えるの繰り返しだ。塀の中なら難しくないが、シャバだと誘惑が多くて大変なんだがな」


それは大変そうです・・・がんばったんですね。おめでとうございます、でいいんでしょうか?


「はいはい。それでいいよ。ありがとうございます。ムッとした雰囲気を微塵も出さねえ、までは悟ってないが、理不尽な物言いされたり、ちょっとした暴力に耐えるのは慣れてるからな・・・実際それなりには頑丈だしな?まあ、この程度でもその五年間では減点対象になるから言えなかったけどな」


うーん・・・それは厳しいですね・・・ちなみに建設作業員の経験はあったんでしょうか?


「若いころに少々。まあ、そのころは現場も乱暴だったし、ドナったりシバいたりも普通だったから・・・今のジェントルな現場は天国だよ」


私も少々という程度には現場のバイトはしましたが・・・


「そうかい。まあ、こっちもドナったりシバいたりはしないしできねぇ。最初は肉体労働になると思うけど、大丈夫かい?」


見た目は頼り無いかもしれませんが、一応、望むと望まざると危険な地域も放浪してきましたから、それなりにはやれます。

力も普通には出せます。


「わかった。奥さんは事務仕事かい?」


詳しいことは聞いてませんが、そうだと思っています。


「英語はわかるかい?」


簡単な読み書きなら。一応、世界中放浪してたんで、単語単語での会話でよければまあなんとかというところでしょうか。


「うーん。そんなんで世界放浪できんのか?」


一応、絵が描けるんで。スケッチブック的なものが必須だったんですが、大体、どこの荒くれでも、似顔絵は通じますし、こっちが敵対的な態度じゃないってことは示せます。


「なるほどな・・・似顔絵か・・・たしかに和むかもしんねぇな」


あと、物や食べ物の絵を描いて指差せば、向こうが現地の単語や簡単な言い回しを教えてくれますから、ヘタでもそっちの言語で話したほうが、メチャクチャな文でも通じますよ。


「確かに。滅茶苦茶な日本語しゃべる外人でも言いたいことはわかんなくねぇしな。それに絵があればなんとかなるのか・・・」


なりますから・・・言語はあまり覚えられません。その場限りって感じですね。


「挨拶なんかはどうすんだい」


ハローとかハイ、オラとかいくつか言っとけばどれか通じます。あとは聞いて覚える感じですね。


「カネはどうすんだい」


似顔絵は小銭やメシくらいなら・・・特に娯楽の無い場所ならいくらかもらえる仕事になります。


「ふーん」


それより、現場作業のことを教えてくださいよ。どういう仕事をするのかあまり聞いてないんですよ。


「まあ、こっちもあんたらのは例外の緊急扱いでちょっと普通じゃない経路から来てんだよ」


そうなんですか・・・正直、こっちも急転直下でよくわからんまま、あのドローン?ですか?に押し込まれた感じで。


「普段はあれは使わねえんだよ。御忍びで、本社の社長や上級社員が来るぐらいで、一介の労働者をあれで送り込むってのが普通じゃねぇ」


そうなんですね。日本に戻って困ってたら、野垂れ死にするくらいなら、ここで必死で働けって言われて連れてこられただけなんですけどね。


「つーわけで、最初から訳有りなのはわかってんだよ。まあ、オレも今言った通りで訳有りで、今の立場は普通に生活できて、貯金もできて、普通に死んでいける一般人になれてるから・・・ありがてえから・・・捨てたくねえ。だから深くは追求しないしできねえ」


はい。まあ、私も海外で何してたのって言われると、特に何も・・・って人生なんで・・・日本で目指すのは一般人です・・・幸い、一緒に放浪に付き合ってくれた妻もいますし。


「ま、初日じゃこんなもんだな。寝床に案内するぜ。腹は充分かい?」


はい、ありがとうございます。明日もよろしくお願いいたします。さとこさんもいいかい?


「お腹一杯なのは久し振りです。ありがとうございます、吉田さん」


「おう、ありがとう。風呂はいつでも適当に入ってくれ。一応二階の部屋に生活用具一式おいといたから、タオルや寝間着、歯ブラシなんかはそれをとりあえず使ってくれや。掃除当番があるけど大丈夫かい?」


問題ありません。しばらくは・・・街に出るのに吉田さんはじめ皆さん頼りになると思うんで、毎日でも。


「さすがに毎日はねえよ。そうか、長期海外放浪してたんなら免許の類いが切れまくりで一切無えのか・・・うん。普通免許は一応会社提携の自校があるし、原付の免許は試験だけだから・・・がんばれよって感じかな?」


承知しました。日本の常識もがんばって思い出します。さとこさんもよろしいでしょうか?


「もちろんです」


「じゃ、おやすみ。オレはもう一杯だけ飲んで寝るわ」


ありがとうございます。


           ・・・


大丈夫だったかな?さとこさん


「絵のところはちょっとヒヤヒヤしたけど・・・描けたっけ?」


描けますよ。似顔絵描けって言われて描けなかったら詰みでしょう?大してウマくはないですが。


「じゃあ、概ね問題無しです。ヘタウマくらいなほうがおかしくないですし」


そうですね。一応個室みたいで助かりますね。寝ましょうか。


「はい。おやすみなさい」

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