投降受け入れというのも実は難しい
はあ・・・それは考えてなかったな。
今後国際航路で投降されたときにどうするか、についても本気で考えないといけなくなった。
考えてみれば偽装投降で船内制圧する賊、という点は考慮しておくべきだ。今回はその心配は薄いとは言えゼロじゃない。
国際法違反とか、人道的なんちゃらを考えなければ、金属製の檻に収監して、海中を曳航する・・・溺死前提の投降者排除作戦も考えられるが、それを第一選択にするのはよろしくない。いや、この考え自体が大変よろしくない・・・どうやら考えすぎて疲れているようだな。
なるほど、捕虜というのは面倒なものなんだな・・・
面倒だがあの叔父に連絡するしかないか。
・・・
「そっちからの電話とは珍しいな。困り事か?」
そうですね。内航路線で多分活動家、そんな感じのかたが、投降放送に同意して投降してきて困ってるんです。
「内航ということは国内か。元中核とかそんなんかな。普通は逃げるな。しかし、投降してくるのか・・・」
叔父さんからすれば俺に言いたいことも多いでしょうが・・・しかし、投降は想定外でしたね。まいりました。
「まあな。でも、かまわんよ。折角あの家に生まれついたんだから、それを使うというのは、一種の権利だ。まあ、義務も伴うがな。義務のうち、カネは、正直ワシよりずいぶんと持っているみたいだから、必要に応じて出資等でお願いすることもあるとは思う」
まあ、いきなり一兆円とか言われなければ・・・事前に相談していただく前提で融通はできると思います。
「・・・本当にあるんだな。社員にも景気良くバラまいているとは聞いているが・・・」
僕は忠誠心とかはあまり信じてないんですよ。結局のところ、充分なカネと待遇でしょう。
まあ、今の本社は小さい会社からとんとん拍子に成り上がった感があるから、中核社員はそれなりには忠誠心的なものを持っているようですが、待遇が悪くなれば去る社員も多いと思いますよ。
それに、技術に投資して資産を増やすのも、社員に投資して利益を増やすのも私から見れば似たようなものです。
「兄貴とも・・・おまえの父親な?・・・とも話したことがあるが、本当にお前は投資の天才だよ。そこはワシも買ってるとこだ。いや、本当にすごいよ」
そうですか?僕から見たら、99%勝てる案件を選んで適正価格で入れてるだけなんですが。
「あのなあ・・・お前の99%は、外から見ると五分五分がいいとこ、それ以下の勝率にしか見えないんだよ・・・だから無理筋の案件で連勝しているように見えるんだが・・・お前には99%勝てるように見えるのか?」
まあ、100%という案件は基本的にありませんし、そう見える案件は大体爆発物というか・・・危険な案件ですから。基本的に投資案件は、主催者は成功させる気満々なんですから、いつもの落とし穴を適宜排除していけば、50%、70%、90%、95%、97%、99%の6種類に分類できます。僕は最後の二つだけに投資しているだけなんです。
まあ、97%はよっぽど面白そうなものか、資金がダブついている時だけですけど。
「資金がダブつく・・・か。ワシも言ってみたいものだな。常時カネ不足でヒーヒーいっているウチじゃあ、死ぬまでに一度言えるかどうかだな」
まあ、お金のことはともかく、ちょっと相談というか、人定のご協力をお願いできないかと
「人定?まさかとは思うが、テロリストを雇うつもりか?」
雇う?・・・ああ、その選択肢も場合によってはアリですね・・・いいヒントをありがとうございます。
そこまでは決めてないですが、以前の赤の国のスパイの件もありまして、公安のデータベースへのアクセス方法がないものか、と思っております。
「あの件か。あの件ではお前のところの女性社員にも迷惑を掛けたらしい。すまん」
僕に言われても、と、思いますが、謝罪は受け入れます。
しかし自国の国民にすることですかね?とは思いますよ?
必要に応じて、メディカルデータというかフォレンジックデータは全て保存してありますから、公表することになりましたら、事前に通告することになると思います。
「脅すなよ。実際のデータベースへのアクセスはワシもできんよ。公安内協力者的なものを経由してのアクセスになるよ」
・・・信用できるんですか?
「カネさえ払えば信用できる。逆に言うと毎回金銭を要求されるということだ」
公安というのは国家公務員じゃないんですか?金銭を要求するのは法律に違反する気がしますよ?
「まあ、ヤツらは公務員であって公務員でないようなものだ。非合法活動には国家予算以外のカネがいる。ほら、公表されてしまった警察の組織ぐるみの裏金作りみたいなのもあるだろ? 良くも悪くもカネは必要なんだ」
うーん・・・理解できないことは無いですが・・・まあ、カネさえ払えば信用できる、少なくともデータについては、ということですね。
一件いくらくらいなんですか?
「場合にもよるが、◆◆万円程度のものだ。レポートをどこまで詳細にするかで上がるが、ほとんどの場合は最初のレポートで充分だな。もし、詳細情報があるならむこうからあといくら出せばこういう追加情報を付け加えられる、と言ってくるよ」
なるほど。信用情報会社みたいな感じですね・・・まあ、それなら割り切って使えます。
口座開設にいくらか必要でしょうか?
「先程の金額と同額でいいだろう。あと、専用の携帯を一つ用意しておけ。転送とか副回線とかじゃなく、物理的に分けといたほうがいい」
まるでスパイ映画ですね。
「まるでじゃなく、公安というのはそういう部署だ」
叔父さんの団体・・・または個人への献金は?
「不要だ、と、言いたいが、法定分は出してくれると有り難い。まあ、しみったれた金額だが、こうも厳格に運用されてしまうと守らざるを得ない」
党の政治資金団体へは?
「あれはこっちに回るか不明だから不要だよ」
わかりました。適宜処理しておきます。細かいことは秘書の方と相談すればいいですね?
「おっしゃる通りだよ。社長・・・ところで・・・」
なんでしょうか。
「お前は投資家としては優秀だが、社長としては、ボンクラよりはマシ程度だ」
まあ、自覚してます。
「社長を雇わないか?別にCEOを辞めろ、というわけじゃない。会社のシンボル、JSH の顔はお前のほうがいい」
ああ、その三文字でいうと、COO。社業のオペレータたる管理職、役員を雇えという意味ですか。
「そうだ。イマイチ回ってないだろうし、お前も管理事務に辟易としているんじゃないか?」
まあ、それはあります。
「だろう?お前は代表取締役会長、CEO という立場で自由にやりたいことをやって、実務的な仕事、事務仕事は取締役社長 COO に任せたほうがいいと思うぞ」
おっしゃることは分かりますが、なかなかそういう人材には巡り会えません。
「それはそうだ。そういうときこそ、家の力を使うんだよ」
・・・親類の中から誰か選ぶとか、そういうことですか? ちょっと上の兄と年齢層が違うので従兄弟といっても結構な年上ばかりなんですがね。
「なあ、お前も本家だが三男坊で、上も堅実にやっているから、投資家やらなんやらを始めたクチだろう? お前のように才能があればそれでうまく行くんだが、普通はうまくいくものでもないんだ」
才能かどうかは自分では不明ですが・・・
「分家だろうが基本は長子相続だ。長男が真面ならな。次男三男は一族ではあるものの、まあ、サラリーマンだな」
兄弟仲が良ければ、一族の会社である程度まで縁故で役職を上げることもできそうですが。
「それはある。まあでもそういう連中は『辛抱』第一でお前の信用しない一族への忠誠心も高いんだ」
となると・・・そういう会社で総務部長などをやっている人間をCOOとして引き抜くということでしょうか?
「端折ればそうだ。何人か候補がいるが会ってみないか?」
叔父さん、一つづつ進めませんか?公安の口座の件を済ませてからなら会ってみたいと思います。
「そっちはあっさり行くよ。カネさえ有ればな」
カネはどうにかします。百万単位なら全然問題ありません。
・・・
まあ、社長業務が回ってないのは自覚している。あまり事務仕事が得意ではないのもな。清水さんにも苦労を掛けっぱなしだ。
だが、親類とは言え叔父の息の掛っている人間を取締役にするのはちょっと抵抗があるかな・・・まあ、最終的にはどこかで受け入れなければならない話か。
ちなみに公安との窓口は即日で通じた。本当に速いな。まあ、これも家の力ではあるんだろう。
おかげで、投降者の自称の名前や写真などから人定、推定された人物は特定できた。
詳細なレポートも翌日届いた。役所ではあるが、土休日などの概念はないそうだ。まあ、正月休みだからスパイも休みというのは無いだろうしな。むしろ、有ったら困るか。
さて、投降者か・・・どうしたものかな




