こういう想定外もあるんですね
アレックスです。
本当に賊が投降してくる、という事態は考えてませんでした。
賊、活動家にも活動家なりの自負なり誇りもありますし、生活もあるでしょうから、口きたなく罵しって逃げるのが普通です。
ゆり子さん、社長に通話。賊が想定外に投降してきたんだけど、どうしたらいいか相談して。
「はいっ!」
あー、賊または活動家の方、ブルーピースの構成員の方でよろしいですか?
「いや、ブルーピースからは案件として受けている。フリーの活動家だ」
そうですか。投降の意思をお持ちということでよろしいでしょうか。
「先程述べた通り、我々は投降を希望する」
我々は民間輸送船です。投降は官憲への引渡しを意味しますが、よろしいですか。
「・・・困る困らないでいうと困るが、どうにもならない。我々は貴船のような船に対して妨害行為を行い続けることが不可能になったことを自覚した」
ああ、希釈酢酸ですか。
「あれは酷い武器だな。薄めた酢なのか。水は重いと思うがドローンに充分な量を積んで攻撃できるのか。あれはテロリストにも海賊にも効くと思うぞ」
それは開発者が満足する発言だと考えます。
「しかも攻撃から逃れようと海中に逃げたら自動的に証拠隠滅だ。失明するほどの濃度でもないから、我々活動家なんか相手ならトウガラシスプレーくらいの扱いだろう。自衛のための装置で通用するだろう」
あの船は・・・
「まあ、想像はついていると思うがFRPの漁船ベースだ。元の元は知らないが、支援者から提供された、としか我々は言えない。元が盗難船だとしても、それは我々の行なった犯罪ではない、としか言えない」
なるほど・・・侵入できた、ということは浅瀬に隠れていた、と考えられますが、地上を逃げることもできたのではないですか?なぜ投降という手段を選んだんですか?
「実際、乗っ取りも考えた。が、この船は・・・本当に貨物船か?ロールオン区画を端から端まで探したつもりだが、侵入路が無かった。このインターホン的存在しか見付けられなかったんだ。今後の相手がこんな船では命が幾つあっても足りない。よって犯罪者として裁かれるのも覚悟の上で投降する」
まあ、この船のエアロックは発見が難しいですからね。
「エアロック?潜水でもするのか?」
いえ、通称です。RORO 区画から保護区画に来るには、一人ずつ、通称エアロックの中に入って生体認証を受けないと通り抜けができません。
「生体認証?それは誰か船員と二人で入ってそいつを脅すという手段も使えるのか?」
答える義務はありませんが、それは無駄ですよ。エアロックという円筒の中に二人居る時点で一切の認証は通りません。逆に電撃ショックを喰わせることもできます
「なるほど、それでは詰みだな」
このブリッジ区画まで来るにはそれを三段通らないと来れません。
「・・・どうにもならないな・・・投降を認めて欲しい」
・・・
社長!!どーしましょー
「國本くん、落ち着きたまえ。どうした!?」
賊が投降してきましたが、ご存知の通り、ウチの船には牢屋もなければまともな客室すらないんですぅ
「投降?どういうことだ?活動家が降伏するなんて有り得るのか?」
わかりませんが降伏してきたんですよ。聞いてると、ブルーピースを名乗ってましたが下請け?みたいなフリーの人達みたいです。
「環境活動家のふりをした、いや、下請け?下請けと言ったか?」
はい。案件として受けてるだけでブルーピースとは関係ない、行動実績作りとその報奨金という関係のみの実行担当らしいです。
「それは・・・下請けか。確かにそう言えるかもな。しかし身元を洗わないと投降受け入れも厳しいな」
それより設備ですよぉ。投降されても収監できません・・・ごはんは適当なレトルトや缶詰でいいとしても、トイレとお部屋をどうすんですかぁ?
「そうか、トイレの問題もあるのか・・・最悪レンタルかな?・・・RORO 区画自体は閉鎖すれば海水や風が吹き抜けたりはしないよな」
はい、バウランプ上げればほぼ密閉です。隙間風がまったく無いとは言いませんが・・・
「上からクレーンで降ろせば、コンテナ的な大きさのものは降ろせるか」
今は下が空荷ですからどうにでもなります。
「そのときにヨジ登るとかへの対策はあるか?」
無いですが、登っても吹きっさらしの甲板に上がるだけですから、もっと困るはずです。クレーンはリモート操作ですから。
それにクレーンのロープを登るのは無理でしょう?グリスでぬるぬるですよ?
「電流を流したりは?」
できなくはないですが、人手が介在するのでよくないと思います。それに力を込めて握っているところに電流を流すと手が離れなくなって時間の蓄積で感電死する確率が上がっちゃうと思います。
「まあ、確かに・・・それがあったな・・・感電死はまずいな・・・そういえば神栖でアレしたあれがあったはず。あれなら使えなくはないな」
神栖?輸送機形態ですか?
「逆だ、取り外したほうだ」
ああ・・・なるほど。上に板を付ければトップリフターで扱えますから、手動でクレーンで吊り下げるのすらいらないですね。
「まあ、取り外したモノに貨物用のユニットを付けて元の貨物機形態で運ぶ、というのも意味不明といえばそうだが、実験機なんてそんなもんだからな」
上の機材が無きゃ、あれ単体ではなんもできないですし、あれなら一応水洗トイレもついてますね。
・・・
あー、活動家諸君、投降を受け入れるが、受け入れ設備の提供に時間がかかる。
「本当か?ありがたい。頼む」
で、申し訳ないが、もし本当に投降する気があるのなら、可能な限り本名や所属組織、活動者としての名前などを全て記憶にある限り教えてほしい。
「・・・オレはいい。何でも伝える。こちらの女性は本名も知らない。活動者としての名前は知っているがそれだけだ」
そちらは二名ということでいいのか?
「いい。どうせ赤外線カメラかなんかで見ているんだろう。二名だけだ。誰も隠れていない」
そちらの女性の発言が無いが、日本語がわからないのか?
「いや、普段から日本語で話しているが、今は会話が難しい。わかりやすい言葉を使うと風邪を引いているような状態で発熱が続いている」
まあ、海につかっていたから、そういうこともあるだろう。
「あと、本人曰く妊娠しているそうだ。オレの子だ。婚姻関係に無いが認知するし、投降が許可されて、犯罪者として捕まったあと、もし釈放される日がくるのなら本人たちが拒否しない限り父親したいと思っている」
あ、ゆり子さん・・・ダメですよ!!
「その言葉にウソがあったら承知しないんだから!!」
「ん、だれだ?そちらにも女がいるのか」
「いるわよ!!あっ、船長!!」
ダメですよ!!
ん、こちらの船員がちょっと話に加わっただけです。真偽はわかりませんので、食事、毛布、市販薬くらいなら提供できますが、今はそれ以上の約束はできません。
「それはわかる。濡れた服をぬがせて毛布でくるんでやれるだけでもありがたい。頼む」
はい。一旦通信を切ります。
ゆり子さん。彼の言うことが本当だとも彼女が妊婦だとも今は、わからないんです。
「でも妊娠初期に風邪を引いたり冷えたりは・・・ハイリスクよ?」
でも、油断して海賊につけこまれるのはもっとハイリスクです。
「う・・・そうね。ちょっと逆上?ノボせてしまったみたい・・・彼女に風邪をひかせたのは私の酢酸機、ドローンと水圧銃なのにね・・・」
それは賊に対する通常対応なのでゆり子さんが気に病む必要はありません。
ゆり子さん、ちゃんと社長と話をして、収監する何かを手配できそうなんですよね?今はそれで充分ですよ。
「そうね!切り換える!!姫ちゃんに電話ね!!」




