マニアが来たwwww
今日も本社の地下、社長室というか、社長エリアで執務中だ。
ウチには閉鎖された社長室はない。社長エリアというのは、いわゆる社長机、専用会議ブースだ。
机は一般社員とサイズはかわらない。椅子もゲーミングチェアでサイズは俺に合わせてもらっているが、特に皆と比べて高ランクのものでもないはずだ。
専用会議ブースは数人、またはリモートと会議するための場所で、中の様子がぼんやりと見えるが音はほぼ外に漏れないようになっている。こればかりは一般社員に見せたり聞かせたりできない会議もあるのでしかたない。
それ以外にキャンプグッズ的なハイバックチェアがあるが、これに座っている・・・寝そべっているに近いかもしれないが・・・時は休憩中という意味なので、まあ、よっぽどの時以外は声を掛けてこない。
逆に言えばそれ以外のときは何時でも声を掛けてよい、ということだ。
正直、開発部の連中のほうがプライバシーが保たれている。もっとも俺はモノを溜め込むのが正直苦手なので、あっちのカオス空間が苦手と言えば苦手だ。
まあ、片付けられないマンにならないためにミニマリスト気取りをしているだけだろ?と言われたらその通りだ。
よっぽどの時とは、例えば先日の叔父によるセキュリティエリア突破未遂事件のような時も含む。
それ以外でも何らかの事件・事故が発生したら・・・上層部に休みはあっても無いようなモノだしな。
まあ、流石に一度警察に突き出してからは、叔父さんも再度の突撃などしてきていない。
ちくちくと色々言われるが、そんなの気にしたら負けだ。
それより、当事者同士での売買順序のやりとりを終わらせてほしい。早くしないと権利終了ということにするか?そうすると無駄に人の命が失われる気がするから、今のままにしておいたほうがいいのか?
どちらにしてもそれが存在することそのものが彼の利権にも繋がるだろうから、そちらのハンドリングをする・・・つまりどこに売るかのバランスを取ることを仕事にしてもらおう。
そんな今日、突然ノリさんから電話があった。
・・・
はい。いかがお過しでしょうか、ノリさん。
「社長、ちょっと面倒な相談が・・・あります・・・聞いてもらえますか?」
もちろん。聞くだけならノリさんのお話はいつでも聞く所存です。
「それは・・・やるかどうかは別、という意味ですね・・・まあ、いいです」
はい。無茶なお話ではないことを祈ります。
「ある意味、無茶ではないんです。無茶じゃないんですが・・・」
煮えきらないですね・・・
「いやね。アレに乗りたいという一般の方からの問い合わせがありまして」
アレ・・・まさかとは思いますが、?調布ー神栖便に乗りたい・・・という意味ですか?
「そのまさかです」
調布飛行場はともかく、神栖側は工場の屋根ですから・・・一般の方はどこに行くこともできませんよ。
「おわかりの様子です」
特に往復割引なども設定していませんから、その場でお待ちいただいて、調布に戻る便に乗っていただく可能性すらありますけど・・・
「それも分かった上で、です」
では、オタクというかマニアというか・・・
「そうですね。航空ファン、と捉えていただければ幸いです」
なるほど、航空ファンというくくりになると。
「鉄道でもありますが、乗り潰し趣味というやつです」
ははあ・・・
「さらに、これも鉄道でもありますが、終着駅の改札が工場の通用口で、社員でない限りどこにも行けない駅、というのはこれまた存在しています」
そんなところに行ってどうするんですか。
「どうもしません。まあ、社屋のほうでなければ写真撮影くらいはできるので、駅なら駅名標や、海のほうを撮るんでしょうね」
その駅は海沿いのたぶん埋立地で、工場の敷地につっこんで止まっている路線ということですね。
ウチの神栖は、場外離着陸場、プライベートヘリポートとして認可を受けたはずですが・・・
「ええ、しかし、路線認可のために、将来に向けて、広域防災拠点への拡充を模索する、ということにしているので、現状プライベートヘリポートでも、無碍にするのは多少微妙ではあるんですよ。まあ、断わったからといって、路線認可取消とかはありませんが」
なるほど・・・広域防災拠点については、神栖市と連携の上、大規模公園等への設置を検討する、ということになっていたはずです。
「そうですね。そのほうが良いと思います。市の防災計画でも公園を使うでしょうから」
おっしゃる通りです。しかし、その航空ファンの方はどうやって我々の路線を探りあてたのでしょう?特にどこにも掲載依頼はしていないはずですが・・・
「航空便覧というものがあります。貴社の路線も定期旅客航空路線として乗ってしまっているんですよ」
・・・そういえば、校正の確認を行った、ということのみ聞いた記憶がありますね・・・それでマニア・・・もとい、ファンの方の目にも・・・これは珍しいぞ、と、発見されてしまったというわけでしょうか。
「経緯は不明ですが、概ね、そのようなところでしょう」
なるほど・・・で、私にお電話を頂くということは、断り辛い方がその・・・航空ファンだったりする、ということでしょうか。
「まあ、そうですね。一人は航空ファンの間でなら有名で、世界一でギネスにも載った日本人です。この人は仕事・・・著書の取材なんかも兼ねてもですが・・・兼趣味ですね」
なるほど、そういうかたがいらっしゃると。確かにノリさんは何名とは仰っておりませんでしたが、今の話ぶりだと複数名ということですね?
「そうです。面倒なのが、元海軍大将、日本生まれの米国人、今は政府の仕事からは完全に手を引いた、一、アメリカ人ということになっていますが・・・」
・・・流石に知ってますよ・・・本物の提督じゃないですか・・・そんな方が軍に無関係に興味がある、と言われても・・・人としては信頼できても、そっちは信用できないですよ?
「まあ、そうですよね。お隣の国で大使もやっていましたしね」
ああ、そんなこともありましたね。・・・何故か私の親類に「何てことしてくれてやがるんだ」と言いたい気分になりました。
「あの方は、我が国の第一等の勲章ももらっているような方なので、どうしたものか、と思う次第です」
退役したとは言え、お付きの人だってくるでしょう?元大将ですから・・・
「いえ、それは無いそうです。夫婦で日本の思い出を巡る旅をするので、便乗できないかと・・・二人で結構だそうです」
それはそれで不用心のような気もしますが。しかし、調布ー神栖は思い出も何も無いでしょう・・・やはり不自然感が拭えません。
「社長がご存知なのは司令官になってからでしょうけど、彼は海軍の飛行士官で、日本での通常のパイロット勤務もしたことがあるようなのです」
なるほど。しかし・・・
「で、実際にやっていたのが哨戒任務、要は偵察機ですね」
・・・偵察機・・・妻と安全に偵察機的任務を辿るんですか?・・・確かに偵察機的な飛び方をしますけど・・・
本人はともかく、奥さんはつまらないと思いますが。
「奥様の希望だそうです」
・・・えー・・・わかりました。即答はできかねますが、航空ファンの間では有名なジャーナリストと、退役軍人夫妻について受け入れ可能プランを検討してみます。
二つ確認させてください。
「はい、社長。確認しますよ?」
一つ目は、両方のバッティングが可か不可か。
二つ目は、ジャーナリストはともかく退役軍人となると彼方にも日程があるでしょうから、3ヶ月後以降、15ヶ月以内で希望日程をざっくり出してください。
ただ、まだ受け入れ可能かは明言できません。
「なるほど・・・一辺に片付ける案と、観光旅行の日程確認ですか。確認してご連絡します」
ありがとうございます。ノリさん。
「では。ごきげんよう」
・・・随分と優雅なご挨拶、ありがとうございます。




