表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/24

金曜日の呑み会、開発部の技術者も案外酒が好きだが、俺の話が飛びすぎる。

以前話をしたこともあるだろう、金曜日の呑み会、事実上の宴会、まぁ、毎週ではないが、ある程度の福利厚生費と社員の実費のコンバインドの宴会である。


税務署は基本的にはウルさいが、週休二日の企業の金曜日の上がりの時間にビールやチューハイ一本程度+ナッツ程度の軽食を福利厚生費で出してもちゃんと申告していれば問題になることは、少なくともこの地域では無い。


今の日本は酒税が高くない。日本人は世界的に見れば酒に弱い民族というのもあるが、コンビニで売っているチューハイ的なもの、1000円もあれば大概の人間は泥酔に近い状態になる。たった1000円だぞ?居酒屋的なところで1000円ではこの物価高、インフレ傾向の昨今では、お通し+一杯くらいでオワりだ。


「清水さん、いい感じのようだね」


「ぅんふふーしゃしょー、酔ってませんよー」


酔ってるな、


「ほんとーにありがたいですよーー。ごはんつくってるだけで残業代でますからー」


「清水さん、それはちゃんと希望残業かつできるひとだけで、全員ができるわけじゃないんだ」


以前にも話をしたが、メシを会社で供給する。業務上の必然性があるやつは従前通り会社負担。

そうでないやつらは食材費の概算からざっくり毎食300円を自己負担。


これ自体には問題がなかったが、ボランタリーな一名~小数名で、数十人分のメシを作るというのはめちゃくちゃ重労働。俺もそこまでは予想していたが、別途料理人を雇うというのは、ちょっとキビしかった。この会社の規模じゃ、料理人が料理しかしないとき、分かり易い言葉を使うとコンビニ弁当よりクソ高い、という結果になるからだ。


現状暫定措置として、料理ができるやつがする、という形態になっているが、ボランティアすぎてもこまるので、調理時間は一般社員は残業、役付き、要は管理職がやる場合は希望残業という形の規程を設けた。


希望残業というのは話がわかりずらいと思うが、まずはそもそもの今の会社の残業代について説明しておく。一般社員が業務上の理由により、しかたなく時間外に働く時、これが残業だ。法定最低限では、通常25%、深夜25%、休日35%増しだが、弊社では通常33%、深夜33%、休日40%としている。この場合、休日深夜は73%増しになることになるが、これは75%にしている。

但し、開発部の特殊な雇用形態を除き、月間50時間以上の残業は認めない。


これには一部社員から反対意見も出た。繁忙期にはどうしても、とか、3月末、4月頭は無理だ、等の意見だ。なので、会計年度を変えた。4月始まりの3月末終わりという日本企業にありがちな会計年度を12月始まりの11月末終わりとした。一回だけちょっと辛いが、そこは派遣社員や会計事務所を入れてなんとかした。

また、月単位だった代休も4半期内で調整すればOKということにした。

最大の改訂点は、代休を取得しても上記の残業加算分はきっちり支払う給与規程にした。ヒアリングの結果今までは代休を取るとその時間分まるまる引かれてしまうので、代休を取りたくないという理由が大きいことがわかったからだ。


計算をカンタンにするために、基本給48万円、160時間で割って、時間基本給3000円の社員を想定する。

仮に今までのやり方で休日夜間に6時間の工事が月に6回あったとする。この場合、基本給に加えて従前では36時間分の夜間残業手当が付いた。買収前の規程は法定最低限だったので、60%増しの4800円x36時間、17万ちょいの残業手当が付いた。しかし、代休を取ると法定加給も取られてしまい、仮に32時間分、代休4日を取ってしまうと4800x4の19200円しか残業手当がもらえなかったとのことだ。休日深夜が付いているということでわかると思うが、これは工事部の職人から聞いた話だ。

それはひどいな、と正直思ったので規程を変更した。また、以前に言ったと思うが、ほとんどの現場作業では待機、移動時間も前後最低1時間は残業時間を付加できる規程にもしてあるので、まったく同じ工事でも以下のようになる。

休日夜間の工事は60%⇒75%、待機時間の付与で6⇒8時間、また、法定加給は代休を取得しても支払うことで、3000×1.75の5250×(2+6)×6 = 252000、ここから代休取得分の 3000×32 = 96000を引いて15万6千円。


これを金曜呑み会の最初のお話で全員に説明したときは、職人始め多くの社員がどよめいた。

開発部の連中は、算数として当たり前のことは当たり前と捉えるやつらばかりだから、別に「ふーん」という感じだったが。


「おい、おめえら、新しいルールならきっちり代休取っても、前、無理して出てたときと2万も変わらねえってよ!!・・・社長?ホントか?会社の金は大丈夫なのか?総務部長?!」


「おいおい、ガンさん、そこの心配かい? ガンさんみたいに頑丈な職人さんばかりじゃあるまい。ましてや普通の社員は徹夜なんかしたら、次の日は仕事にならないもんだよ。俺も、まぁ、少しくらいならがんばれるが、正直休みたい。俺も休みたいし、みんなも休んでほしい。ワルぶって言えば疲れて仕事にならないのにダラダラと会社に居られても仕事はハカどらないし、一緒にしている元気な社員からしたら迷惑なんだよ」


「や、そりゃわかるぜ。昼間寝てるとはいえ、土日両方深夜工事で月曜からだと、まぁ、昼飯後はウトウトしているやつらもな・・・」


「私もそれは以前からちょっと思ってましたが、以前の規程だと無理に代休にするのは気の毒で、でもちょっとイラっとするというか、そういうのもありました……社長がなぜこんなに細かい規程をあれこれイジっているのか、というのがようやく納得できました。でも工事部長もおっしゃってましたがお金、人件費は増えちゃいますけど大丈夫なんでしょうか?」


おいおい清水さんもか。


「清水さん、よく見て!172800円から156000円だから、人件費、残業代は減ってるの!それでいて、みんな無理していない、この場合一ヶ月の残業時間そのものは4時間だから、ほぼ、定時。それと同じくらいしか疲れない・・・まぁ慣れてない人の場合それでも疲れるかもしれないけど、それは置いといて、今までのルールが間違っていた、すくなくとも公平でなかったから、清水さんも「イラっとするけど代休取らすのは気の毒」と思っちゃったわけなの」


「え・・・あ・・・そうか・・・社長、さっきのは取消で、今・・・納得しました。実際には休日深夜に勤務したら昼間より疲れるし、待機や移動時間も満足に加算されてないというのも私にもわかったので、以前の運用だと「気の毒」に思ってしまっていたんですけど、社長が変えられた規程に従えばそう思う必要はない、疲れてるひとは休め!と怒っても問題なくなったということですね?」


おいおい極端だな、清水さん。


「まぁ、そうだな。前日・・・というか当日夜明け前までの作業で疲れているなら無理に会社に来るな、という解釈ならその通りだ。他の部署だってそうだ。繁忙期に忙しいのはしょうがない。本来なら社長としてはしょうがないとは言ってはいけないはずなんだが、別の要因があってな、みんな、社員の就業時間は原則一月あたり160時間、祝日とか元々日数の少ない二月とかでデッパリヒッコミはあるけど、平日の日数×8時間は働かないといけないし、逆にどんなに忙しくないときでもそれだけの仕事量を社員に提供しないとならない。つまり、余分な人を雇えないんだ。なので残業で調整するしかない」


俺は、みんながこちらを見ているのを把握しながら、少し間を置いた。


「その上だ、3ヶ月で調整なら、3月、4月に無理をした分を、残業加算分を受けとったまま、5月のゴールデンウィークに有給でなく、代休で取得できる。まあ、お子さんがいる人は自由にはいかないだろうが、最近の学校なら融通の聞くところもあるだろう」


「「「「!!!!」」」」


みんなびっくりしている。


「本当は年末年始なんかもあるから通年でもよかったんだが、あまり広くすると忘れるし、今のこの会社の一番の繁忙期は3月とその仕事が終わってない4月上旬だというのは調べてみたらわかったんだ。どう?清水さん」


「はい、3月末とその繰越が一番の繁忙期です・・・え、有給使い切っててもGWを連休にできる可能性が・・・??」


??もしかして、推し活でもしてるんだろうか


「まあ、仕事の予定は正直優先してほしい。そこに問題の無い限り、また、他の社員に迷惑を掛けない限りという制約はつくが、そういう運用をすることで有給をもっと積極的に消化できるという狙いもある。有給は消えたら消えるだけだが、代休相当分は年度末、11月末で残っていたら12月に加算する」


「「「「!!!!」」」」


「俺個人の考えで恐縮だが、有給買取という制度もあるらしいが好きじゃない。でも急な風邪やケガのために残しておきたい、という考えも共感できる。いわばその落とし所だ」


そんなのあり、わるくないかも・・・などざわざわとしている。じゃ、あいつにも聞くか。


「おーい、開発部、あいつ、というか開発部長?CTO?は聞いてんのか?」


さぁ、とか首をかしげるヤツらが何人か見える。まぁ、開発状況は共有してたとしても所在までは知らんか


「きーてるよ。耳だけね。こっちからは今は音声しか繋いでないけど」


いたか。音声だけか、そっちではこっちの画像も見てたりしないのか?


「やんないよ。細っそい回線を敢えて使ってるから遅くなるし。ま、そのへんはいいんじゃない?多少増えたとしてもさ。しょーじき、人件費固定のこっちで開発している機械の経費に比べたら、もーなんとゆーか職人さんたち社員さんたちありがとーごぜーます、と言うしかないよ僕らは」


やつの言う「経費」のところで清水さんの顔がいきなりヒキつる。・・・ま・・・気持ちはわかる


「そうか。君達の人件費は最初から固定だし、どんだけ研究しても残業代は出ないが、そこに不平があれば言ってほしい」


「あるわけあるか。オレもおまえ・・・じゃないや、社長がいなければとっくにクタばってただろうし、開発部のヤツらだってまともな会社じゃ一年どころか一月続くかどうかってヤツばっかで、しかもちゃんと仕事をやれば、自分の論文を会社の設備で書いていいっていう条件なのは最初からで、今は当たり前のように・・・オレには見えないけど、今、来ている開発部とか?・・・ここの()()()()()()社員やらしてもらってるけど、雇用契約を見たときには『こんな夢みたいな条件で働けるのか?!』と思ったやつらばっかだろ」


先ほど首をかしげていたやつらが「うんうん」と頷いている。


「そうなんですか?」「んな感じか!?」


「私には正直よくわかりませんが、開発部の皆さんは・・・『ヘン』な人達なんですね」

「違ぇねいな!ヘンか。確かにヘンだけどすげぇヤツらってことは俺にもわかるぜ!!」


この二人に限らず、参加している社員もだんだん開発部の扱い方がわかってきているようだ。


という感じで、新規定の残業制度については社員に納得してもらった。代休を取っても残業加給を奪われない制度という理解で正しいし、生活のために残業するという社員も少しは残ったが、それも平常時20時間程度なら気にしないことにした。どうせ繁忙期はみんな30時間程度は残業するわけだし、最後は年度末代休消化、実質的には有給買取と一緒じゃん、と言われたらその通りだが、絶対出社環境というわけでもなくなりつつあるし、営業も直行直帰もありだし(その代わり、希望者の社給携帯のGPS情報は会社側でトレース+3ヶ月保存。イヤがられるかと思ったが直行直帰のほうがうれしいらしく、イヤがらない社員もそれなりにいた)。

なので、現場作業から逃げられない工事部の残業割増は気持ち厚めにした。


で、話は呑み会に戻る。


すでにできあがりつつ清水さんがさらに言う


「れもー、ほんとーにありがたいれすよーー。宴会料理作りらのにー、残業代、れますからー」


「清水さん、あなたは部長、管理職、希望残業だよ。しっかりしてよ」


「あー月20時間限定のやつれすねー。でもー上限いっれれもー食事代はー会社持ちになるからそれれいいれすー」


そう、希望残業というアヤしい制度は管理職、少なくとも当初には管理職兼食事要員のために作った。


一応、買収して新会社になった時、俺は全員と面談し、雇用契約を結び直している。そのとき、日本企業ではそれほど一般的でな「職務記述書」にも同意してもらった。外資でいういジョブディスクリプション、JD、その目的である「職務の内容や責任範囲を明文化したものだ。

職務記述書にその人のやる仕事の内容を100%書き切ることは基本的に無理だ。特にシステムの変革を興そうとしている我が社では6~7割をカバーし、毎年見直すのが関の山だ。開発部なんかはある意味サジを投げた状態で○に関する一切の業務(好きに仕事してOK)、的な逆に非常に簡易的職務記述書になっている。


しかし、総務部長の仕事に料理は入らない。入るはずもないのだ。実際、彼女のJDには人事や庶務の項目はあっても調理の項目は無い。どう考えても総務部の責任者の仕事ではないからだ。


なので、JDから明らかに外れるが、会社として実行すべきだと上司から依頼、または本人が考え上司から承認され、本人がその実行を希望した場合、それがいつであろうと時間外労働とする規程を定め、管理職であろうと月に一定時間までは時間外労働手当を支払うと決めたのが通称『希望残業』だ。


ここで重要なのが、業務上の必然性がある社員には会社負担で食事を会社で供給する、という一文だ。もう少し面倒な文章にはなってはいると思う。料理をして味見をしないのも有り得ないし、普通の飲食店では「まかない」という従業員に無料、バーガーのFC店なんかだと割引提供のところも多いそうだが、ともかく食事を振る舞う習慣はあり、これは福利厚生費でなく経費処理になることは税務署も無茶な量でなければ認める。よって、「調理人行為」に伴う「まかない提供」は「業務上の必然性」であるということも規程に加えている。


一定時間までなのは例のごとく税務署との折衝の結果だ。

しかし、一定時間なのは時間外手当だけだ。職務記述書範囲外業務任意受託実施要項に管理職の希望残業について時間外手当算入に上限があることも書いてあり、まかないの必要性については職務記述書範囲外業務任意受託実施要項細目には書いてある。しかし、特にどこにも記述はしていないが、希望残業が上限に達したとしても業務上の必然性があることには変わらない。

税務署とのやりとりの過程で、希望残業実施要項及び細目なる別規程とリスト、同じく実施一覧の表も作った(長いので省略させてもらった)。要はこういうことで希望残業をしたけど、JDから外れている項目ばかりだし時間もこれだけだよ、と、税務署にイザというときに説明できるためのものだ。

今のところ、細目に入っているのは調理人行為と、営業でも工事部でもない人が社用車でお客様や関係者を車で送迎する行為だけだ。今後は増えるかもしれないが。


「しゃちょーー、りょーりにんのきぼーざんぎょーも、ほんろーは、ひちめんどーな、ぉなまぇれすよねーwwww」


かなり出来上がってきたな、、職務記述書範囲外業務任意受託実施要項に基く職務記述書範囲外業務任意受託実施要項細目に定める調理人行為業務の当該従業員職務記述書範囲外業務任意受託労働行為時間・・・なんてシラフでも言えないぞ。頭の中で考えるだけでウンザリだ。希望残業料理人でいいよなwww。さて、俺も本格的に呑むかな。


「清水さん、よっしーのほうにいってくつろいできたらどうだ」


清水さんは、細いのに長身でガツガツとメシを食べている開発部の芳野のほうにふらふら~っと歩いていき、かんぱーいとか言いながらだきついている。長身なだけでしっかり女性なので、とりあえずは安心していい。特に百合とも聞いてないし、1on1では男にモテないとか泣いてたし大丈夫だろ。まぁ、モテないのは理系女共通・・・でもないか。顔もスタイルもいいのに化粧もしないし髪も手入れしてないしいつもジャージで背が高くてニコリともせず知らない人とはボソボソとウツむいて小さい声で話すのが精一杯の引っ込み思案では、モテる、という状況に自分を置くのはかなり困難だろう。


清水さんも女性としては、まぁ、小さくはないが、よっしーと比べるとな。こっちはちゃんとメイクもしていれば美容室的なところでヘアカット・メイクしているのも明らかなので、女顔の男とのカップルみたいに見えなくもない。


よっしーは、最初にあった時は清潔ですらなかったが、それはさすがに変えてもらった。それだけでだいぶよくなったし、開発部の男女比はほぼ50:50なので、同僚女子もさすがに見兼ねてアドバイスしたらしく、今は化粧っけこそないが清潔度では比較対象にすらならない。自宅には洗濯機などは無いようで、元々工事部の作業服のためにあった洗濯機と乾燥機、それを利用しているようだ。

ふーん、おっさんたちと一緒でいいんだ……


さて、みんなと一通り話してから、金曜呑み会の目玉?しゃちょーとの差し呑みコーナーに行くか。


やれやれ、呑みながらとはいえ、これも仕事みたいなもんだな。自動文字起こしをオンにしてからっと。ま、呑むんで忘れるからな。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ