対海賊装備を真面目に考えてみる②
アレックスです。
そう、どんなに対海賊装備をしても、結局、殺傷兵器は使えないのだから、侵入されたときのことも考えないとなりません。
社長、皆さん、今のゆかい丸は、その点も考慮されています。
「それは何よりだ」
「まあ、報告書は見てるよ」
「バッチリです!」
まず、セキュリティエリアが3つに分かれています。
一つ目は甲板やRORO エリアですね。
ここはランプを降ろしているときは基本的に誰でもアクセスできてしまいます。
「だよっ」
二つ目が室内エリアですね。
室内に入るにはIDカードが必要です。
「共連れ対策はあるのか?」
本社のセキュリティエリアと一緒で、エアロック付きです。
後ろのドアが完全に閉まってからでないと、室内へのIDタッチができません。
「無理に二人入ることは?」
室内エリアのところは、それ、できちゃいますね。
「わかった。次に」
はい。そして、制限エリア。これは本社と同じで、二つの認証が必要です。
二つ目は指紋か虹彩認証、どちらにしても生体認証ですね。
完全に本社と同じエアロックです。
なので、ここは無理に二人入ると両方開かなくなります。
なお、材質ですが、本社のエアロックは見た目や圧迫感を考慮してアクリルっぽい何かで作られていますが、ゆかい丸のエアロックはステンレス鋼です。
なのでロックダウン状態だと真っ暗になります。
「www 容赦無いね」
そうですね。避難のときも、その制限エリアのエアロックまで来れれば一安心です。AK-47 あたりの7.62mm弾ならビクともしません。
「うん。ステンレス鋼の円筒ですからね!強いですー!」
まあ、芯までステンレス鋼が詰まっているわけじゃないですが、熊撃ちに使うような大層な対物ライフルでもなければ貫通はしません
「内部は色々やってるね。一種の複合装甲だね、こりゃ強いよww」
で、最後は左右高所と中央にあるコックピット区画です。
「4つめじゃんww」
まあ、制限エリアとしては3つ目ということで。
ここも基本は円筒形のエアロック経由ですが、外側が生体認証、内側は・・・合言葉です。
「合言葉かい?・・・声紋認証も兼ねている・・・ということか?」
おっしゃる通りです。社長。
「なるほど・・・秘密の隠し通路なんかあるのか?」
ありません。ただ、非常時に使える中央のブリッジからドローン格納庫までの通路があります。
あ、ドローン格納庫もコックピット区画と同様に隔離されています。
あと、機関部もですね。
「あのさ・・・それって例の円柱エアロックがめっちゃ立ってるってこと?」
はい、ギチギチなところもありますが、なんとか押し込んであります。
「なんと、左右の臨時ブリッジはエアロックの上が開いてハシゴで登るんだよ!」
「それは・・・随分と無理矢理押し込んだものだな」
他に手段が無くて・・・まあ、本当に戦争でもするんでなければあそこを使うことはないはずなので。
「まあ、そうだね。でも武装もないし、装甲も普通の貨物船にしては過剰だけど、紛争地帯に行くには貧弱ぅってやつじゃない?」
はい、おっしゃる通りです。
「ちょっと待て、ということは運送貨物自体は、海賊が万が一乗り込んだ際には漁り放題ということにならないか?」
まあ・・・状態としてはそうですが、自走可能な重機が主たる貨物ですよ?
あとあったしても甲板上にロックされたコンテナです。
RORO 区画にトレーラーに載せられた船舶コンテナならあるかもしれません。
どちらにしてもコンテナです。
海賊が奪える類のモノではないです。
「まあ、そうか」
「海賊っつっても、漁船やヘタすればゴムボートらしいからね。FRP の漁船やゴムボートならレーダーに写んないからさぁ」
まあ、ゴムボートでも船外機は付いてますけどね。どちらにしろ、軽い金目のものを奪うくらいが精一杯ですよ。重機やコンテナは無理です。
私の経験でも・・・一回ですけど、現金、ドルを奪われておわりでした。
武装はしているので正直怖かったですけど・・・まあ、その時はそれで助かりました。
「いくらくらい?」
350ドルくらいだったかな。命の値段としては格安だよ。
「・・・命ならその程度は許容するしかないよね、でも船の中でお金使うことないでしょ?」
上陸時に使うんだよ。それしか楽しみなんてないからな、貨物船は。
「興味本意でわるいけどさぁ、船員同士でカードとかで賭けたりしないの?」
あーー、ステレオタイプですが、今の貨物船だと難しいです。
「賭博禁止とかなの?」
いや、ゆり子さん、人数がギリギリなので、非番になったらともかく休まないと持たないんですよ。
あと、やっぱり肉体労働なので、シャワーや洗濯もしないと自分でも臭いですし、上陸時に遊べません。
ただでさえ少ない船員同士で賭け事とかやって揉めるのも運航的に困るので・・・逆に練習船みたいな人数にも体制にも余裕がある船なら、今でもやるかもしれません。
「そうね。遠洋練習航海でも少額ならお目こぼしありだったな。今はわかんないけど・・・」
学生さんとかのほうがやると思いますよ。
貨物船はもう、本当に最低限の人数なのでできないんです。
旅客船はどうでしょうね・・・そちらは経験がなくてわかりません。
「まあ、興味本意の質問だしそんなんでいいや。貨物船は大変なんだな・・・」
ウチも一度に重機を数百トン単位で運ぶのに二名体制ですけどねww
「いや、済まない。もう、海自関係の知人にも声を掛けて増員を急いでいる。まあ背後はもう一度洗うんでもう少し待って欲しい」
「あ、ちょっと補足するけどアレックス・・・船長の説明だとあちこちにエアロックが林立しているように聞こえちゃったかもしれないけど、基本は回廊構造になっているんで、エアロックは室内エリアに入れるのが6ヶ所、制限エリアに入れるのが4ヶ所、ブリッジエリアに入れるのは2ヶ所だよ。本社みたいに、IDをタッチするとこが光ったりしてないから、知らないとどこがエアロックかもわかりづらいよ」
「あー、そうか、回廊構造ね。詳細は覚えてないが理解できたよ。多重の隔壁構造に改造したんだったな。なるほどー。しかもステンレス鋼だから確かに単なる柱なのか、エアロックなのかわからんもんなー」
「そう言えば、俺が乗ったのはもう、本当に前だな・・・あの頃とは別物と考えたほうがいいということか」
はい、別物です。これは『改造』と言えるのか?と言うほど改造されてます。
「いいね。それww。報告書は全部読んでるはずだけど覚えてないほど改造しているからねww」
そうですね。社長室もより豪華になって現存してますよ。
「そうなのか・・・実際にはほとんど使ってないのに・・・すまないな」
「そうだ!!撃退装置に氷酢酸使いましょう!!」
え・・・対海賊装備という意味ですか、ゆり子さん。
「はい、神栖で氷酢酸製造装置が出来たって報告書を読みました」
「あいつら作ったね。しかも偽装、DACとか余分な偽装のない小さなFT装置も出来ちゃったって言ってたよ」
「まあ、それはできるはずですからできますよ」
「そらそうだけど・・・酢酸って・・・100%なら猛毒だし、10%だって火傷するし、目に直接入れば失明の危険すらあるぞ? 兵器の定義に当たっちゃうんじゃないか?」
酢酸って・・・お酢ですよね。そんなに危険なんですか?
「うん、市販のお酢は大体4%くらいだけど、直接目に入ったらよく洗い流してから眼科に行けって書いてあるはずだよ?書いてないかな?」
「一滴飛んだくらいなら・・・でも酸性の液体だからさっさと洗ったほうがいいな。目だと瞼を捲って洗うまで必要かもな」
そんなに危険なんですね。
「まあ、海水でけっこう中和されるから・・・そこまで海賊対策になるかぁ?」
「ふっふっふ・・・ドローンちゃんがあるでしょ?暗視カメラで監視して、近づいたら光と不快な轟音で脅しつつ、音声で何か国語かで、これ以上近づかないよう警告するじゃん」
まあ、そこまではよくある海賊対策です。
「警告スピーチとイヤな不快音で、ドローンの羽音なんか聞こえないでしょ?」
まあ、そうだと思いますが・・・
「で、強力サーチライトで海賊の小舟を照らしていれば、真上にドローンが来ても簡単には気づけないはずよ」
ああ、わかりましたよ・・・
「そこに上からブシューっとお酢よりちょっとだけ薄めの酢酸を強力にスプレーしてあげると?」
「國本・・・エゲツないね・・・しかも目の痛みに耐えかねて、我先に海に飛び込めば証拠隠滅も確実ってわけだ・・・しかも試作の小型機を改造するんだろ・・・あれなら静かだし、7.62mm程度なら耐えられる・・・その上500kg以上は酢酸水溶液が積めるな」
でもスプレーでは拡がってしまって効果は薄いのでは?
「船長、コイツの言ってるスプレーはそんな生易しいもんじゃなくて高圧水レーザーみたいな感じのもんなのさ。しかも赤外線カメラで人の顔や、顔に限らず皮膚が出ているところを検知するつもりだろう。夜で気温がそれほどでもなければ丸わかりだ。それに一本じゃなくて16本とか32本くらいノズルが出ていてそれらがAI連携で個別に人を狙いにいくようなやつだ」
それはもう兵器ではないのでしょうか。
「圧力をギリギリに設定して、酢酸濃度も市販の酢より低めにしちゃえば証拠が残らない」
まあ、彼等の船は波に洗われるのが普通ですからね・・・
「それに、海賊が全滅して死体や骨が 海岸に漂着するんならともかく、一人二人減った程度なら海賊たちもそれほど気にしないし、まともな捜査なんてされるわけもない」
危険な商売ですから、一人二人失われるのは折込済みでしょうし、分け前が増えたって喜ぶかもしれませんね・・・
「あとさ、氷酢酸の状態だと低温でかつ耐酸性の保存容器が必要だから、普通の酢を業務的なスーパーでデカイのを買って持ってったほうがいいぞ」
「確かにそうでしたね・・・箱入りで中がプラスチックのヘコむやつを見たことあります」
「そっちのほうが安全だ、一回の襲撃に対応するんなら、10Lもあれば充分だろ? それに5Lの水を現場で混ぜて噴くようにしたほうがいい。まあ分圧掛けて両方から吸いとればいいけどな。酸性を弱めたほうがスプレーガンの寿命も延びる」
「ですね。あと、終了後には水のみのタンクから吸って吹いて洗浄したほうがいいですね」
なんか、すっかり合意しているけど実戦配備するんですか、ゆり子さん。
「いえ、試験運用に備えるだけです。あと、国交省経由で実験計画も提出しますよ」
「ノリさんの苦労が偲ばれるな・・・海賊対策で国際条約的にはギリギリセーフの線か・・・電気柵だって運が悪ければ死ぬんだし、レザーワイヤーでも破傷風の可能性もあるからな・・・あくまで試験運用だ。國本さん。人殺しを楽しむようにはなってくれるな」
私からも同様のお願いをします。ゆり子さん。
「そんな目で見ないで・・・目的は撃退。船に近づく前に船に近づけなくするだけで殺す意図なんてないよ・・・」
「あー、オレから補足というか助け船を出すけど、ウキウキしているように見えるとしたら、思いついて作るのが面白くなってるだけだよ。オレもそうだ。オレも人を殺せる機械はそれなりに作っているけど、直接手を下したことはないよ」
ということは間接的にはあるとも受けとれますが・・・これは発言しないでおきましょう。
わかりました。モノを作っているときのゆり子さんは確かに楽しそうですから・・・撃退以上のものは作らないで下さいね。
「うん、約束する!!アレックス!!愛してる♡♡♡♡♡」
ちょっと!みんな見てるまえで抱きつかなくても!!
わかりました!!約束ですよ。愛してますからね!!
「あー・・・何見せられてんだか・・・」
「そうだな。まあ、仲良きことは・・・なんだったかな・・・仲よき事は美しき哉。だったかな」
「別に文豪の言葉の引用は求めてないんだけどさぁ」
「まあ、会議の終わりには相応しい言葉かもしれないと思ってな。はあ・・・」
わかりました!!、離れてください。すみません今日の会議はここまででお願いします。
「「仲良くヤレよ。船長」」
なにハモってんですか!!ともかくわかりました!!




