社長の朝食を改善したい清水さん
社長、ちょっと今朝は私に任せてみていただけませんか?
「なんだい、清水さん。俺も動くことで一日のリズムを作っているという面もあるんだが・・・」
では、最後の仕上げの前までやっていただけますか?
茹で卵を作りはじめるところから、ワカメを水で戻して、具材の仕訳、お湯投入、麺をカップに戻すところまででも体はそれなりに動くと思いますよ?
「まあ・・・かまわないが・・・何をしたいんだい?」
社長の朝食は、あまりにも少ないと思います。
カロリーとかを気にされているとは思うんですが、私の作った安っすい、玉葱の酢漬けでも、特にご不満はないということでよかったですよね?
「あれで充分だな。余分な糖質も入っていないことも確実だし」
まあ、瓶に玉葱のみじん切りと酢を入れただけですから。
特にマヨネーズや酢なんかもブランド品がいいのかと思いきや、普通のメーカーのもので大丈夫みたいですし。
「まあ、みんなが使っているものだから特に害もないだろうし、気にしてないよ」
・・・害はないでしょう?まあ、砂糖が害だっていうなら結構害なものはありますけど・・・白だしや麺つゆなんかは想像以上にお砂糖たっぷりで害ですが。
「そうなんだな。まあ、甘いからそうなんだろうな」
なので、そういうのを使わないで一品半付けたしますから、今朝はそれをお召しあがりになってください。
「一品・・・半? まあ、任せたんだから任せるよ。はい、この状態でいいんだね」
社長は話をしつつも、毎朝のルーチンでぱぱっと自分の朝食を途中まで準備しました。
では、場所を交換しましょう。
私はキッチンへ行き、社長と場所を入れ替えました。
最近ではこういう時にわざと抱き付くようにしていますが、特に拒否されることもなくなりました。
最初のころ・・・建設会社を買収した直後は明らかに警戒されていました。
まあ・・・そういうハニトラ的なものの警戒が身についているんでしょう。
・・・
キッチンに入った私は冷蔵庫から、使い切りパックのマイタケを二つ取り出し、そのうち一つを小さなフライパンに入れて、微量のオリーブオイルで炒めます。
味は一切付けません。
その間に麺をお湯で戻します。
同時に冷蔵庫から納豆を一パックとりだし、付属のタレは捨て、カラシは入れます。
買っておいた糖質ゼロめんつゆ・・・これは高いです。普通にスーパーで買える麺つゆからすると10倍くらいの値段です・・・と浄水器の水を納豆のパックにたらします。
マイタケがシンナリとなったら、社長の作った具入りスープをフライパンに開け、合わせます。
麺を洗って、しっかり水切りをしてから洗ったカップに戻し、エゴマ油を少々垂らしてから、酢タマネギ、マイタケ入り具入りスープをカップに投入します。
「納豆か。栄養的にはよさそうだね。別に嫌いではないが、何故か食べてないな」
試しに食べてください。
実は社長の朝食アイテムのシリコンスプーンは納豆を混ぜるにもいいんですよ?
「そうなんだ。それは知らなかったな」
こちらの麺もいつものフォークでいただけますよ?別に箸が必要になったりはしません。
「なるほどな。舞茸か・・・カロリー的には誤差みたいなものか?」
納豆と舞茸合わせて100キロカロリー程度ですから、本物のマヨネーズなら12g程度、でしょうか?
「特にマヨラーだという意識はないが、12gでは・・・少ないな。あれはカロリー80%オフだからもっと盛大に使っているが・・・なるほど」
今日は卵も私が準備するので、そちらを召し上がっていてください。
「すまないな。ではいただきます」
はい。
私はやや冷えはじめたミルクパンから卵を取りだすと剥きはじめました。
あの、社長曰く、微妙な高さから落とすのがコツというやつですが、綺麗にヒビが入っています。
本当に、絶妙なんですね。
おかげで、簡単に剥けます。
一応、カラが付いてないか目視で点検したあと、さっと水で洗い、キッチンペーパーで水気を吸いとってから、いつもの器に入れ、こちらにも酢タマネギとマヨライトを適当な量・・・本当に適当です・・・を入れて、別のシリコンスプーンを付けてお出しします。
流石に納豆を食べたあとのシリコンスプーンを卵に使うのはおイヤでしょうから・・・
「どうした、スプーンはここにあるぞ?」
いや、納豆食べたスプーンでタルタル作るのはどうかなと思いまして。
「うーん・・・気にしたことないな。自分の口には触っているが、どうせ自分の胃に入るだけだからな。それに、シリコンスプーンだけあって、納豆のネバネバも着かない。これはいいな。あれが面倒で・・・特に箸を洗うのがな・・・納豆を食べてないようなものだからな」
それは水を入れるのがコツです。少し水を入れるとビックリするほど容器やスプーンがネバつかないんですよ。
「知らなかったな。生活の智恵か」
まあ、貧乏とは言わないですが、あまりお金を自由に使えなかった時期が長いですからね。
でも、社長に買われる前の会社員時代は普通に・・・貧困層とまでは言いませんがお金には不自由してましたね。
「そうだったか。そこについては俺と関わって良いほうに変化したなら幸いだ、くらいかな。スプーンの共用は、まあ、俺的には気にしない。これでいつものヨーグルトも食べていいくらいだ」
あ、ヨーグルト出し忘れてました。すみません。
「別にかまわないよ。特に食べる順番とか考えてないし、他のを作っている途中で立って食べてる時だってあるくらいだ」
社長ほどの富裕層が食べる朝食としては、非常に地味なままだと思いますが、
納豆はタンパク質、ビタミンK、ミネラル類が豊富ですし、マイタケも食物繊維やビタミンD、カリウムなどが豊富です。
現実的なお話としてサプリ無しで食べ物からだけで必要栄養素を取るというのは難しいと思いますので、サプリは続けてもいいと思います。
気持ちの問題として、自然な食べ物から摂ったほうが・・・気持ち良くないですか?
「まあ、気持ちの問題としては理解できる」
このマイタケみたいに工場で栽培されているものが自然な食べ物か、というのは、なんというか微妙感ありますけどね。
「それを言いだしたら、畑で太陽光で育てられているものも、品種として、交配・品種改良済みで肥料や何かだって使っているだろうから、キリが無いだろう?」
はい、おっしゃる通りでした。そうですね。そういう意味だと自然な食べ物なんて普段はまったく食べてないのかもしれませんね。
「まあ、品種改良のおかげで、ニンジンだって甘いくらいだし、タマネギも単にツンとくるだけの野菜でもなくなっている。ホウレンソウはシュウ酸を含まないほうが体にだってよいだろう。いいんじゃないか?」
はい。それはおっしゃる通りですね。
しかし本当に意外だったんですよ。
「何がだい?」
いや、オリーブオイルはこのブランドがいい、とか、ギリシャヨーグルトはこのブランドでないと、とかこだわりがあるかと思っていたんですが、何にもそういうのがないということが意外だったんです。
「まあ、実家だったらそういうのはあるかもしれない。ただ、俺としては甘くするなとか注文は付けるものの、基本、出てくるものを食べているだけだったからな。こだわれ、と、言われても困る」
正真正銘のお坊ちゃんなんですね・・・
「まあ、この歳になっても、実家に行くと執事の爺さんにはそういう声掛けをされるのには辟易とするがな。あっちからすると長兄、次兄とは20歳前後違うから、いつまで経っても小さな男の子なんだろうが・・・身長はとっくの昔に俺のほうが大きくなっているんだがな」
お家騒動的なものは無いんですか?
「今のところはな。長兄は尊敬できる人で実績も出しているし完全に相続の既定路線で、誰からも文句は出ていない。次兄は別の家に婿に行っている。俺としても家督相続などはまっぴらだよ。第一、俺のやっている事業は異端も異端、主流派には成れないよ」
まあ、社長なら、この事業に投資することはあっても、実際に事業家になるのはまっぴら御免だ、と言っても驚いたりはしませんけど・・・
「よく分かってるね。清水さん。俺は投資は割と得意なほうだが、実業家というわけじゃない。実務は本当にやりながら後追いで習ってきたようなもんなんだよ」
そうですね。私の総務部長研修も丸投げでしたし、社長もしょっちゅう研修受けにいってましたからね。
「そういう専門家がいるんだから任せればいいんだよ。無理に素人が専門家ぶってもどうにもならん。習ったほうが速い」
社長のそういうところ、好き嫌いが分かれるでしょうね。
「そうだな、熱血タイプにはまったく好かれないな」
そういうタイプはウチの会社にはいませんね。ガンさんがちょっとそっちより?くらいですか?
「まあ、そういうところはあるが、ガンさんも叩き上げでライバルだろうが年下だろうが学ぶ時にはしっかり頭を下げてお願いしてきた人材だから別段問題ないよ。根性論最優先みたいなタイプじゃないからな」
ああ、根性論最優先タイプは社長と合わないでしょうね。
「例の叔父、前に突撃してきた議員がいるだろ?」
はい。
「彼はそのタイプなんだ」
・・・なんとなく理解します・・・合わないでしょうね。
「まったくもって合わない」
今朝のごはんはどうでした?
「非常に満足した。ごちそうさま」
はい、お粗末さまでした。
「清水さん、それが慣用句であることは知っているが、卑下が過ぎるとも個人的には思っているんだ」
では、何と言えば?
「うん、無難にありがとうでいいんじゃないか?」
わかりました。ありがとうございました。
「こちらこそ」




