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工事部の部長、ガンさん。

「社長、ちょっといいか」


工事部の部長、どこかのマンガと噛み合うんだが、そんな風体のガンさんから声を掛けられた。

そんな風体といっても挿絵も無いのにわからない?ま、そうだよな。俺も身長180cmと、それなりにあるが、185以上はあるだろうな。それに筋肉モリモリと腹部の脂肪も少々ついて、少なくとも100kgはありそうな、たくましい見た目だ。

実際驚いたことに、50kgはあるだろうという部材を平気で持ち歩きで移動させていた。とても俺には無理だ。


「なんでしょうか?」


「社長、そういう丁寧な言葉はやめてくれって言ったよな。俺のほうがはるかに年上だとは思うが、あんたは社長で俺は職人、いっちゃぁヒラなんだ」


いや、ヒラじゃない、部長ってことになっている。


「ガンさんは部長。ヒラじゃないです。工事部はある意味子会社みたいなものですし、将来的には子会社の社長になってもらう予定で・・・がんばって、タメ語で話すと、工事部はちゃんと稼いている、将来子会社になる予定の部署なんだよ。ガンさんはそこの部長で元締め的存在だから、職人として優れていることを認めるのとは別に、社長というか、少なくとも部門長として、既に活躍してるよ。正直、あなたを「ガン」と呼び捨てにするのはメンタル的にちょっとな」


「何いってやがるんだ?現場では大手の下請けで一回りどころか20も下の現場監督にドナられるってのもいつもの事よ。そんなん気にしてたら、なーーんもできないぜ」


「そうか。じゃぁ、「ガン」と呼べるようがんばってみるよ。」


「おう!そうしてくれ!で、声掛けた件だけどな、例の機械のインターフェースなんだが、英語がなぁ……」


それか。工事部の職人は以前の偏見にまみれた俺の予想とは違い、案外と勉強することが苦手ではなかった。新しい技術を覚えなければ、最新式の機械も使えないし、工事もできない。考えてみれば当たり前だ。


「開発部にカタカナにするように言っておくよ。まぁ、英語って言葉はまったく綴りと読みが一致しないからな」


「すまねぇな。メッセージも日本語にしてくれると助かる。あと、長すぎるエラーは、全部表示しても表示しきれねぇだろ?そういうのは『E001』みたいなやつで。マニュアルも日本語で作ってくれれば、そっちを見るくらいなら職人連中でもなんとかなる」


開発部の連中は基本的に英語ができるのと、デバッグの時に楽なのでメッセージを大体英語で書いてしまう。ただ、L10Nの仕組みは入れているので、ラッパーファンクションを噛ませば、すぐに日本語化は可能だ。拡張子は忘れたが、中身はjsonなので俺でも読めるほどだ。しかも、コードをcommitするときに、メッセージ表示部をラッパー関数化してくれて、プロダクト全体でそのメッセージに重複があるか、とかプロダクトとしての言語パックとしてのjsonファイルも同時にcommitされる。


あいつに「お前がやったのか」と聞いたら、「なにそれ悪いことしたみたいな。オレじゃなくてもちょっと時間があればウチの連中ならだれでもできるよ」とのことだった。まぁ、ずーっと楽をするために一時期のみ苦労するのはエンジニアとしては受け入れ可能という想像は付く。俺でもやるだろう。


なお、メッセージの重複チェックというのは、言語パックがjsonゆえだ。基本、1:1対応にしないといけない。日本語だと


"Hello World" : "こんにちは世界"


という感じだ。同じ元文字列なら、同じ日本語が表示される。実際にはもっといっぱいカッコがあるし、ミスタイプの Hello Wolrd とか worldとか色々話があるが、それは まぁ、本筋から外れるので置いておく。


「俺らも単語1個や2個くらいなら覚えられるんだがなぁ……」


「ガンさん、まぁ、さん付けだけはカンベンしてくれ。大半の日本人はそんなもんだよ。さっきも言った通り、英語、特にわりと技術的にトガった方面の単語は綴りも長いし、いわゆるローマ字読みから遠い」


俺はホワイトボードに近寄り、[Asynchronous Simultaneous mode] と [非同期サイマルモード]と書く


「英語のほうはあえてカタカナ発音にするとアスィンクロナス サイマルティニァス モード、みたいな感じだが、非同期サイマルでいいんだよな」


「おう、そっちのほうがいい。他の機械でも『サイマル』は時々見るな!」


ほー、そうなんだ。


「へー、サイマルはヨソの機械でも使っているんだ。直訳で全部漢字にすると非同期同時進行モードだが、わかりづらいかもな」


「はー!『非同期同時』か! 混乱するバカもいるから非同期サイマルのほうがマシだな!」


確かに非同期同時というのは表現としてよくないだろうな。


「あとな、開発部の連中がレクチャーしてくれんだが、目が合わないやつがいるんだよな。あれ何とかなんねぇかな」


つい、笑みが漏れてしまう。俺にはなぜそういうヤツがいるのかわかるからだ。


「あー、それな。こういうとガンさんが悪いみたいに聞こえなくもないが、そういう意味じゃないから聞いてくれ」


「おぅ。悪口は言われ慣れてらぁ!」


「その大声も含めて、あの連中はガンさんがコワいんだよww 本能的に恐れてしまうというか、なんにもないと分かっていても、ドナられんじゃないか、とか怒らせちゃうんじゃないか、とかな」


「なんだよそれ!って、これがいけねぇのか?ほぼ素なんだが……どうにかならねぇか」


「ガンさん、例の金曜呑み会で少しずつ慣れさせるしかないよ。あいつら、スポーツをやっている連中もいるが、運動嫌いも多い。話せる連中はなにかスポーツ経験があって体育会系にいくらか慣れてるやつなんだろう。今は慣れたが、正直俺も最初はこわかったよ!」


「社長、それはヒデェな!オレを何だと思ってたんだよ!」


職人さん、棟梁さん、だよ。


「もちろん、ガンさんも我が社の一員だと思っているよ。まぁ、一応社長なんてものをやってるから、社員にはそういうところを見せないよう、必死で表に出さないように努力はしていた。ハッタリは比較的得意なんだ。」


ホントにな。金のチカラとハッタリだけはな。

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