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困った『同盟国』

お米の国には困ったもんだ。


まあ、いつものことだが。

全てにおいて自国がナンバーワンでないと気がすまないとでもいうか・・・

ウチの技術はどこの国だろうと欲しがるのは間違いないのは自覚しているが・・・


ちょっと前の本気で困った大統領のせいで、国力を落としてしまった今は、そんなことに力を割いている時ではあるまい。


それなのになんというところから手を回してくることやら。


ノリさん、ではない、吉岡課長も本気でお困りになったわけだな・・・


           ・・・


「少しでよいので、話をする時間を頂きたい・・・のですが」


叔父さん、いや、議員、陳情というのは、政治家から民間企業にするのではなく、民間企業から政治家に対してするものだとの認識ですが。


・・・目の前にピシっと立っている老人は、いわゆる与党の有力議員であり、叔父だ。

正確には多少の違いがあると思うが、父の妻の兄なので、大体叔父ということでよいだろう。

以前に言及したかもしれないが、私の母は後妻であり、父の妻の死後に新たに母と結婚して、ちゃんとしばらくしてから私が生まれたので、私も愛人の子という扱いではない。

なので少なくとも義理の叔父ではあるはずだ。


まあ、そうは言っても実際、父も叔父も「父」より「祖父」寄りの歳の差がある存在だ。


そんな上の年齢の社会的地位もある人物が、自分の座っている机の前で直立不動で立っている、というのは少々居心地がよろしくない。

だが、そういう居心地の悪さも武器にするような連中なのは事実だ。


ここに入りこむのも、自分が国会議員であり、かつ、私の叔父である、ということで無理矢理に入ってきているのだから。


「そうは言っても一切話を聞かないのであれば、私としても押し掛けるくらいしか手はない」


話は聞いてますよ。聞いた上でお断りしています。全てにおいて。


「しかし、単なる同盟国への技術供与ではないか? そこまで頑なにならなくてもよいのではないか?」


あれが軍事大好き戦争大好き国家でなければまだしも、軍事に適用しようとするのは火よりも明らかですから、技術供与など有り得ません。


単なる兵站であっても軍事利用をするのであれば関係者を全員死刑にする。という項目に許諾いただけるのが最低条件です。


「そんな項目、こちらから提案することすらおかしい事だということくらいわかるだろう」


であれば供与など有り得ないこともおわかりでしょう。

いくら国会議員であっても、明らかな不法侵入なので、警察と警備会社には通報済みです。

甥の会社に不法侵入して逮捕、なんて面目を失なうような新聞記事でも書かれたいのでなければ、退去してください。


「冷たいなあ・・・それこそ、赤ん坊のころから知っている仲なのに」


こちらは物心つくころでは誰がどの叔父さんかわかりませんよ。それこそ、次兄ですら、母と大差の無い年齢なんですから。どうせ自分の息子も含め育児に関わったこともないんでしょうし。


「まあ、否定はできないがな。だが、『お願い』の形がいつまで続くかわからなんぞ?」


・・・ずいぶんと、安い脅しです。もう警告しませんが、入口まで警察と警備が来てますよ。


「これは・・・本気で叔父として心配しているんだが、逃げ場はあるのか?」


一応、ドイツとスイスにはありますよ。アメリカじゃ危険かもしれませんが、アメリカにも何箇所かあります。


「国内にはないのか?」


この狭い日本のどこに逃げろと? やんごとなき方に頼むわけにもいきませんし、皇居の中というわけにもいかないでしょう。


「それはいいな。あそこは安全性が高いだろうな」


そうですが、無理でしょう?


「社長、警察の方が来られましたが・・・」


清水さん、入っていただけ。叔父さん、どうぞご退出を。


           ・・・


清水です。 社長の叔父を名乗る偉そうな方が、黒スーツにサングラスの大男達みたいなマンガ的悪役を引き連れて無理矢理会社に押し入るという事件が発生しました。


実際には会社のセキュリティエリアのすぐ外の応接室での応対でしたけど。

セキュリティエリアに入るには通称エアロックがあるので、まあ、本気で乱暴したらどうにかなるのでしょうけど、犯罪的行為をせずに入るのは困難です。


エアロックは二重の認証扉です。

一つ目の扉は登録された人の生体認証でないと開きません。

一つ目の扉はエアロック内の人数が一人以下のときしか閉まりません。

二つ目の扉は一つ目の扉が閉じているとき、かつエアロック内の人数が一人のときだけ認証を受け付けます

認証の結果、一つ目の扉と同じ人が一定時間のうちに認証を通し、その認証が一つ目の扉で使ったものと違うものである場合、二つ目の扉が開きます。


こう書くと面倒そうですが、実際には5~6秒で通過できます。


社員IDをタッチして通過したらすぐエアロックは閉まりますから、そこから虹彩認証のカメラを覗くだけです。


それで入れるのはエレベータ及び階段ホール。

各階に移動して、エレベータ及び階段ホールから出るのにももう一度同じ認証があります。

入口でも各階でも円筒状のカプセルみたいに並んでいるので複数人が同時に抜けられますが、一エアロックあたりでは一名しか通過できません。


都心の繁華街でお昼を外に食べにいくようなところではとても難しい運用になるでしょうが、ウチの本社は巨大な都営公園の片隅です。

外に出ても緑しかありません。

近所には、大学、霊園、住宅街くらいしかなく、食堂どころかコンビニもないのです。半径徒歩五分圏内だと、あって自販機でしょうね。


社内には全部あります。


食堂はいわゆるカフェテリアっぽい方式で、好きなメインや小鉢を自由に取れます。メインを二つ取っても野菜の小鉢ばかりでもOKです。


スナック類も食べすぎに気をつけるようには言われていますが、好きに持っていけます。チョコバーと思うとチョコ味のプロテインバーだったりしますが。


ドリンク類もいわゆるドリンクバーっぽい機械がいくつかあるので、紅茶・コーヒーも含めてだいたいのものがあるでしょう。

社長の好みで強炭酸水サーバーもあります。

無料の自販機もありますし、昼間は禁止ですが、冷蔵庫には酒類も冷えてます。

カロリー半分系ですが、アイスもそれなりにあり、こちらは当然昼間でもOKです。


で、宿直室もあるんです。

なので、開発部の大多数は月曜出勤の金曜シャットダウンまで居る、っていうのはまったく変わっていません。

それはシャットダウン後の食堂での金曜宴会もなんですけど。

今は開発部のコアメンバーと経営メンバーだけなんですけどね。

社長の側近団とも言えます。


襲撃があった直後の金曜宴会で聞いてみました。


ねえ、社長? なんでお米の国はダメなのですか?


「おこめのくに・・・ああ、そういう意味か。基本ムリだな」


何故でしょう?


「戦争に勝つ、もしくは戦争を起こして勝つためならなんでもする国があると仮定する」


はい。


「そこに、重力波エンジンを渡していいと思うか?」


良くないでしょうけど・・・量産できませんし・・・


「原理を教えたら金と天才大量投入で可能にしてしまうかもしれん」


!!!・・・そうですね・・・でも、それじゃ、いつまで経っても・・・


「なので、我々は新車でも100万円もしない軽自動車並の重力波エンジンが作りたい」


どういうことでしょうか?


「今、L, M の2サイズで小さいほうのエンジンを売るとしたら僅か500億円で応じると行ったら行列ができてしまった」


はい。存じております。すごかったです・・・


「まあ、爆縮させてしまうのが関の山だと思うがな」


あれ、どうなっているんですか?


「二つしかないから当事者間で調整しろ、と丸投げ状態だ」


・・・戦争になりませんか?


「戦争でも抗争でも殺人・傷害行為を起こしたと俺が見なしたら、そこには販売できなくなる、と伝えておいた」


・・・証拠なんて残さないでしょう?


「なので、『俺が見なしたら』となっている」


ああ、証拠は無くても、状況的にやったと思われるような事象があったらダメということですね


「そう。それは俺の主観で決めていいことだ、と宣言している」


社長が殺されそうで心配です。


「その時はその時だ。この技術は永久に失われる。開発部がちょっと裏切ったくらいまでなら失われるようになっている」


・・・


「まあ、何十年か何百年かわからんが、そのうち誰かが作るさ」


あのですね・・・


「なんだい?」


CTO が裏切ったらどうでしょう?


「それは、考えるだけ無駄だ。アイツなら詳細を全て公開して逃げても不思議じゃないけどな」


どういうことでしょう?


「今はキーのところを隠した、再現不可能な論文しか公開していない。でも、金と運は必要だが、再現可能な手順書もあるんだよ」


それを公開したら・・・別にウチにこだわる意味がなくなりませんか?


「そう。よって、アイツが狙われることもなくなる。多少理解しづらいところがあったとしても、どの国にも天才はいくらでもいるからな」


それはそうかもしれませんが・・・お金はともかく、運って何ですか?


「手順のうちの重要な一つが確率的にしか成功しないんだ」

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