ガンさんの採用方針
「いや、本当にすまねぇ・・・」
ガンさんの責任じゃないさ。
「しかし・・・」
まあ、減給一ヶ月と訓告処分で対外的には罰を受けた形になっているからな。
「減給はともかく、訓告処分っていったって、一緒に呑みにいっただけじゃねえか?あれは」
形を付けることが重要なのさ。
「まあ、それはわかるが・・・」
ところで、改まって何か話したいということだったな。
「おう、そうそう。採用の件だ」
経験者採用はコリゴリかい?
「いや、必要は必要。これまで以上にしっかり『洗う』ようにはするけどな」
人事会社のほうに洗うプロセスも入れたが、まあ、二重に洗ったほうが安全だな。
「そうだ。あと、高校生の採用をしたいんだ」
高校生?高卒採用かい?
「そう、社長も幹部の皆様も大卒なんで知らねえと思うけど、高卒採用ってのは大卒と比べると不自由でな」
まあ、一応経営者研修で聞いたことはある。一人一社しか応募できず、内定か不合格か出るまで次の会社への応募ができないらしいね。
「内定が出たら、もう応募はできねえけどな」
確かに・・・会社側にとってもだが、学生・・・高校生だと生徒になるのか?
そちら側にとっても不便な制度だな・・・
「まあな。でも会社側としては内定辞退を見越して多めに取って、予想外に大人数が入社したり、逆に予定数に足りなかったりということがない」
論理的にはそうなるな。
「逆に生徒側も一社内定出たら、そこに就職決定だから、真面目に企業研究をするし、ハラを決めて応募してくる」
そうだな。悪いことばかりではないということか。
「ハッキリ言ってしまうと、就職指導教員へのプレゼンや、先輩後輩つながりが非常に重要になってくるんだ」
指導教員はともかくとして、先輩後輩繋がりはどうしたものかな・・・
「まあ、あちこちの建設会社を合併しているから、その辺は薄いながらもある。
どうしても地域の近くにないと移動費ばかり掛かってしょうがないからな」
ああ、地域支社制度にしていたな。上にはがっつり抜けてもらってな。
「社長もエグいことするぜ、と思わなくもなかったが、あれこれズブズブな連中はまとめて刈り取るしかないっつーのも、しっかりわかってるぜ」
まあ、そういうことだ。贈収賄も裏社会も基本的にダメだからな。
「でさ、もうちょっと女子比率を増やしたいんだ」
ん?
「いや、ヘンな話じゃなくて、今の工事・・・一部を除けば体力も背の高さもいらないものが大半じゃねえか、別にオレらみたいな頑丈な男子でなくてもな、って思ったんだよ」
まあ・・・電子化機械化全自動化が社是のようなものだからな。
でも力仕事はどうしても残るだろう?
「残る。でもよ。オペレーター系を全員女子にすれば力仕事は男の社員の半分くらい居れば充分だ。今でも力仕事はご勘弁くださいな男もいるからな」
まあ、元開発部で工事部に転属したようなヤツらは・・・そうだろうな。
「いやあ、案外背があったせいか、普通に力も付いていたぞ」
まあ、慣れればそうなるか。でも女子比率を増やしたい理由を明確に説明できるか?
「明確だ。社会の比率と会社内の男女比率を近付けてえんだ」
・・・それだけではな・・・もう少し詳しく説明してもらえるか?
「うん。まず、前提として、地域会社での採用は地域からの異動は基本ナシだ。
社員は地域社会での住人となるのが基本ってことだ」
まあ、それは最初からそういう話になっているな。
「地方の高卒で地元で就職するって若者は基本的に地元指向。で、親やジジババも地元指向を大歓迎するんだ」
まあ・・・どこも少子高齢化が深刻だから、歓迎されるだろうな。
「仮に農家だとしたら、農家を継ぐって言えば大喜びされるだろうけど、一本立ちには何年もかかるから、しばらくは親の元で修行だな」
それはわかるが・・・
「地方の少子高齢化の理由の一つに、結婚しない、できない男女の増加と、若い男女の都会への流出ってのがある」
それはそうだろう?
「なんで、結婚して高校生がいるくらいの家庭では一人っ子じゃなくて兄弟姉妹が二人、三人といるのは珍しくないんだ」
わかるが・・・なんの関係があるんだ?
「うん。今の農業は大規模化しないと食っていけねえ。そうすると、長男が継いじまったら、次男、三男や、姉妹の入り婿に分けてやる畑なんてねえんだよ」
なんとなくわかってきたが・・・
「オレなんかは工事しかできねえが、国や地域には農業は絶対に必要だと思っている」
そこは同感だな。いつも頼りにしているよ。ガンさん。
「ありがとう、社長。で、地方でフリーターやらバイトじゃ食っていけねえ。結婚も難しい。そういうときの受け皿の一つとしてウチの会社の採用ってのが指導教員にも響かねえかなってさ」
ああ、地域に根差した企業ってことか・・・男女比を1:1に近付ける意味は?
「要は、父か母か両親がウチの系列の社員って状態を作ることが将来的な安定採用を支えるってことだよ。仮に女子が寿退社でも妊娠時の退社でも、ある程度は働くわけだから、勝手に宣伝してくれるよ。ウチはいい会社だってな」
なるほど・・・女性のクチコミはバカにできない威力がありそうだな。
しかし・・・かなりの長期戦略だな。
「あのな、オレも高卒だからわかるが、高卒女子と大卒女子との一番の違いはな、ママになる速さなんだよ。ハタチでも珍しくねえ。ウチのトンネルは50年保証だろ?2.5世代なんだよ」
うーん・・・確かに考えから抜けていたな・・・特に院卒だと國本さんのように30ちょい過ぎでも別にまったく遅いほうでもなんでもないからな・・・
「ぶっちゃけて言うが、高卒と大卒だと結構コミュニティが違うんだ。ずっと地元の高卒のほうが濃い目のコミュニティだな」
うーん・・・ヤンキー文化みたいなものかな・・・
「違うが似てる。似てるが違う。どう言やあいいんだ・・・まあ、地方の中核都市なら、基本的なものは大体売ってるし、クルマは必須にしても、娯楽もそれなりにある。コミュニティが地元で閉じてることに違和感がないんだ」
なんとなくわかってきたぞ・・・
「そう、高卒採用で、先進的工事で名を上げた会社の地域子会社、転勤の心配のない会社に就職できる。 先輩後輩のつながりもあり、高卒でも地域会社の親会社の社長になっちまったオレみたいのもいる。 それどころか、20代で総本社の役員にまでなった高卒女子もいる、なんて会社はそうそう無えんだよ」
・・・全ては偶然の産物だがな・・・
「聞いた話だから真偽は知らねえが、社長も運や偶然も味方に付けてのし上がったらしいじゃねえか。最大限に利用すべきだろう?」
まあ、運もあるな。自分ではのし上がるつもりなぞなかったんだが。
「今じゃ一大コングロマリットの大社長様だよ。間違いなく。で、就活でだ、指導教員や、高校生本人がウチの会社のことを調べれば・・・」
高校生に夢を与えることもできるというわけか・・・
なるほど、男女比率を社会に合わせる、という案の合理性は、あまり論理的ではないが納得はできたよ。女子でも工事には問題がないこともな。
「それに、高卒じゃねえが、開発部の綺麗め女子に例のシャレてる作業服を着せて・・・っていうか着っぱなしか・・・作業服もこんなにカラフルでおしゃれですってな。男子もだけどよ。パンフレットに載せればインパクトあるだろう?」
まあな・・・それに、確かに開発部も男女比率は大体同じか・・・
「なあ、開発部も新規採用はしているのかい?」
している。最近ではウチの誰かの論文に触発されて研究をしている院生からの応募すら来るようになった。
どこかに潜伏しているCTOがスクリーニングしてくれる。
まあ、最初の一気採用みたいな感じではなく、ポツポツと、というくらいだけどな。
「まあ、そうだよな。CTO はどこに隠れているんだ? まあ、別にいいけどよ」
そうだな。俺もどこに隠れているかはまったく知らされてないよ。




