新社屋への移転
あれから約二年。
神栖の施設も稼動を開始した。太陽光発電施設のリサイクル工場を作りながら、メガソーラーを、岸壁から近いほうから剥しつつ、建屋を立てていった。
そして、建屋で隠れたところから浚渫というか、後になってみれば浚渫、という、穴掘り工事を開始した。幅は36m、長さは完成時380mだ。
奥の180mは深さが浅くなっており、乾ドックとして利用可能な仕様だ。
ゆかい丸も改造に改造を重ね、もはや最初の特殊艇どころか、一旦RORO船として完成した当時の面影すらない。
重力波エンジンはまだ量産の目処は立っておらず、相変わらず漢の浪漫、雷起動のままだが、少し小型化に成功した。
それにより、年間に起動できる数が20~30機から、40~60機程度に倍増した。
当面は充分だ。それに、最初にできたのをM型、小型をL型と呼ぶようになったが、M型の出力を100とした場合、L型の出力は70程度、それでも基本的に最大出力が足りなくなることはない。
M型の出力が必要な場合というのは14m機のみで、それ以外では性能を持て余しているのだ。
第二の祖業の都市下水道改善工事は、施工業者に徹することにした。
ウチの工法が向いている都市と向いてない都市があり、向いてない都市ではそもそも施工が難しいことが判明したからだ。
例えば、東京や大阪、名古屋のような海抜の低い大都市。こういう都市には正直向いてない。
施工自体はできなくないが、ウチの特質である全自動化がやりづらすぎる。
特に地下鉄のある都市には向かない。
地盤改良材などをたっぷり注入していることがあるからだ。
ある程度ノウハウをまとめたのもを建設会社に渡し、営業、設計、計画、施工管理、付帯工事、完成図書作成、納品、検収など、シールドトンネル施工以外の一切の業務を丸投げしている。
最初は自社でやっていた地元業者や有力者との調整やなんやかんやも一切合切含めてだ。要はそうしないとまわらないからだ。
これには全国規模の大手だけでなく、全国的には中小でも地元では大手な会社であっても連携ネットワークには参加可能な制度にした。
また、案件登録(Deal Registration)システムも整備した。
基本的にはガンさんのところで施工するので、リソースの管理をし、なるべく効率的に全国を回る必要があるためだ。
どうせ入札なので同一の都市、街の案件に複数社が登録してきても構わない。
逆にウチのDRシステムにどの会社がいくらで入札するつもりなのかの情報が集まってしまうので、「勉強会」を主催してくれないか?という要請すら来る始末だ。
持ち回りで受注したいから談合調整をしてくれ、という依頼に他ならない。
ある都市の案件では、数社の代表者がガン首揃えてウチに菓子折りを持って訪問してきたくらいだ。
・・・
みなさん、弊社と皆さんの会社で交したNDAでは、お互いの入札情報を他社に伝えることもほのめかすこともできません。なので、事実上の談合調整になりかねない勉強会とやらは弊社と関係なくやっていただきたい
「しかし、貴社も共存共栄的なスローガンを我々にも常におっしゃっているではありませんか」
はい。談合と捉えられかねないような行為をしなくても、共存共栄は可能だと思われます
「理想論ではそうかもしれませんが、我々は常にギリギリの経営を強いられており、理想では飯が食えない、という点にもご配慮いただきたい」
おっしゃる通りです。現在お越しの5社様で順番に落札する必要がありますか?
「は?・・・いえ、順番が仮にクジになると、最後のほうの会社は倒産の可能性もありますな・・・」
でしょう。なので今季の案件を5社で按分して、クジで決めるのは応札する会社にしてはいかがでしょう。まあ、JVを組んでもいいですし、普通に元請けと下請けの関係でも問題ないと思いますよ? そうすればどの会社様も今年の売上が立ちます
「・・・指名競争入札なのに1社しか入札しないということですか・・・前例がありませんよ?」
前例なんてクソ食らえです。そもそも市のほうがおかしいのです。他所の事例を参考にして、安くすませようとしています。
つまり、事実上施工業者を弊社にしないとならない入札仕様なんです。
ですから皆様、こちらにお集まりになられているわけですよね。
その仕様に、一社しか入札しない、というのはおかしな行為でしょうか?
「おかしい・・・とは言えませんな・・・しかし従来工法では価格的に太刀打ちできない。しかし一社では市のメンツもあることだし・・・どうしたもんかな・・・」
これは私の独り言なので皆様は耳を塞いで欲しいのですが、応札するにも人手と時間、つまりお金が掛かるのは事実ですよね。
例えば JV を二つに分け、二社で従来工法で入札、三社で弊社施工で入札。三社側で落札したら、二社に比較的おいしい作業を発注する?
入札して落札できなかった会社が、札を落とした会社に少しは仕事をくれよ、と営業に行くことは特に珍しい行為ではないのではないかと。
独り言でしたが・・・
「・・・」「チョーケンさん、このメンツの中では言い出せませんでしたが、ちょっと枠組みは違いますが、弊社と、こちらのソチケンさんは似たようなことを考えていました。なんならウチらが・・・」
はいストップ!
皆様が勉強会を実施する分にはかまいませんが、私が聞くわけにはまいりませんので、
「・・・まあ、そうですな・・・」
このお暑い中、駅から遠い弊社までお越しいただきありがとうございます。
社員に車を用意させますので、お茶でも召し上がりながらお待ちください。
俺は携帯を出し、総務部を呼び出した。
『はい、神崎です』
いつも雑用ですまないが、車を冷やしておいてくれたか?
『それが総務部ですので問題ございません。既によく冷えております』
では5分後・・・でよろしいですか?・・・と、皆様に目配せする。頷いたのを確認して・・・神崎君、5分後に前に車を付けてくれ。
『承知いたしました』
皆様、ここは比較的自然豊かとは言え、東京なので、駅まで渋滞すると結構時間がかかります。出発前に御手洗に行くことをお勧めします。
6~7キロなんですが、30分かかることもよくあるんですよ。
申し訳ありませんが、この建物も車も禁煙です。
そして、ここは都の公園に囲まれた空間なので、外にも喫煙所がございません。
「それは訪問予約システムでしつこいほど念押しされてたので、流石にわかってますよ。まあ、吸えないなら吸えないほうがありがたいくらいです。ある会社さんなんて33階にあるのに、喫煙所は2階の外、吸ってる時間よりエレベータ待ちの時間のほうが長いなんてところもありますからな。その上この季節は暑くて・・・」
ありがとうございます。
・・・
神崎です。私が送迎係なのは私が何も知らないからです。
知らなければうっかり話すこともありませんからね。
・・・
皆様、お車を用意しました。駅まではこの時間だと25分から30分前後だと思いますがよろしくお願いいたします。お手洗いはお済みでしょうか?
「行きました」「うわ、豪勢なミニバンですね」「だれか助手席か?」「あ、これ後ろは3人座れますから、オレらが行きますよ」「おう」「じゃあ、ありがたく二列目に座らせてもらうわ」
では、シートベルトをお締めください。出発いたします。
「なあ、神崎くんだったかな?」
はい。
「うちに転職したりしないか?」
私は重力波エンジンのことを何も知りませんよ。名前しか知りません。
「チョーケンさん、それはダメですよ?」
「まあ、冗談だよ。秘匿が徹底しているのも聞いてるしな」
「聞いた話ですと、開発部のメンバーに支度金一億円で声を掛けたら『少なくとも一桁間違えてませんか?』で終わったそうです」
「はあっ!!10億以上ってことか?! 無理ってレベルのさらに上か・・・」
実際、そういう話は聞いています。私も総務部総務課総務係長という肩書ですが、なんというか、大した仕事はしてません。
朝は早いですが、夕方も早く、残業はほとんどありません。
それでいて給料は高いです。我々にはインセンティブはありませんが、業績連動ボーナスというのがあり、年に一度だけですが、びっくりするような金額が出ます。
総務部長の・・・といっても私より年下ですが・・・清水さんからは「神崎くん、ここに就職できたのは超ラッキーだからね、ヤメちゃダメよ?コンビニ店員より楽な仕事で時給は3倍以上だからね? あと、社長、温厚そうだし普段は温厚だけど、裏切り者にはめっちゃ冷酷だからね?」
はい、私は元コンビニ店員で、開発部の方とバイト仲間だった縁で入社できました。一応大卒なんですが、別に大した専門分野もございません。
雑用をこなすだけで、毎年物価上昇分以上の昇給さえしています。
一応一声掛けておきましょうか。
みなさん、総務の平社員の私でも業績連動ボーナス次第では1000万円に手が届くことがありますから、転職のお誘いはなかなか難しいと思いますよ?
「総務のヒラが1000万・・・約3倍くらいか?お宅は?」「うちもそんなもんですね」「・・・」
「興味本意で申し訳ないですが、開発部の方っておいくらくらいなのが総務なら知ったりしてませんか?」
総務部長なら執行役員ですし、ご存知かと思いますが、ヒラの私は知る由もないですね。
総務部長も元は高卒の事務職女子で入ったらしいですけど、今は新卒のときの10倍以上になってるっておっしゃってました。
税金で手取りは5倍くらいだ、と、嘆いてますけど。
「20万として200万以上なら、まあ、そうなるわな・・・」
「20台半ばか後半くらいの女性だろう? 名目だけじゃなくて賃金も部長で執行役員並か。まあ、能力はあるみたいだけど、すごいな」
「ウチの総務部長は30年叩き上げですけどその半分ももらってないでしょうね・・・」
「・・・」
さあ、駅に着きました。
皆様も入札がんばってください!!
「ありがとよ!」「お疲れ様です」「ありがとうございます・・・」
さて、会社に戻りますか。やっとできた新社屋に。




