輸送船に空から乗組員を補充するんだ・・・
ワッチの神崎と船長兼航海士兼通信士のオレ、最小構成人数の二名でゆかい丸は出航した。
航図によれば、福島の横を通り、鷹島と青島、より小さい島で言えば、伊豆島と魚固島の間を一旦黒島のほうに向かってから目的の島に向かう。
まっすぐ向かえばよいと思うんだが、たぶんこれはこの船の機動力を試験しろ、ということなのだろう。はいはい。乗せられてやるよ。
既に自動操縦でオレがワッチみたいなもんだが、オフにしていろいろ試してみろってことだろう。
目的の的山大島には地図で見ても港向きの湾が二つあり、港も複数あるようだが、航図では明らかに外洋沿いの港もなんにもないところに線が向いている。
・・・まあ、出航地も港じゃなかったし、行くだけ行ってみるか。
『こちら、本社管制室、布施です。ゆかい丸?ヘンな名前だね?アレックス船長、応答願います』
布施 ?、あー、社長の隣りにいた美人の総務部長と入れ替わりで面接に同席していた青年か。特にプロトコルは聞いてないので普通に返事すればいいか?
はい、アレックスです。どーぞ。
『おー、通じた・・・アレックス船長、船は無事出航しましたか?』
しましたよ。神崎も乗ってます。船屋さんは出航報告したはずですが?
『来てませんよ?え、何、ファックスが来てる? あーファックスで連絡が来てました。私が見落したみたいですね。普段メールかチャットばかりですので。失礼しました』
ファックスね。あの造船所からだと有り得るな。造船中は騒音がすごすぎて電話をするという方法を思いつかないかもしれない。
しかし日本人の感覚でもゆかい丸はヘンな名前ですか?
『普通・・・じゃないですね。船の名前に○○丸、までは普通ですが、普通は固有名詞に丸を付けます。地名とか人名ですね』
じゃあ、美人の総務部長さんにちなんで清水丸とか?
『特に彼女にちなむ意味はないと思いますが、それなら普通の船名だと思います。シールド丸やJSH丸のほうがまだ有り得そうですけど』
ゆかい、という形容詞を使うのは奇妙な感じがするということですね。
『えーと、ゆかい・・・愉快だ、愉快に、だから、日本語的には形容動詞ですね。あー、漢字で愉快丸なら、それほどヘンに思わないなぁ、ひらがなだとヘンに思っちゃうのはなぜだろう・・・』
ああ、形容動詞。聞いたことありますね。「だ」とか「です」で動詞になるやつでしたね。
日本人でないので、漢字だと大丈夫だけどひらがなだとヘンというのはちょっとわかりません。
でも、開発部さんが管制室ってのもヘンですよね?
『おっしゃる通りです。社長が会社を空けすぎで、CTOは基本、連絡は付くけどどこにもおらず、普段社長業務を代行している清水さんすら呼び出されてしまったので、課長でも班長でも「長」が付く社員が社長代行代理補佐的なことをしている状態です。ガンさんもJSH建設の社長になっちゃったし・・・』
よく分かりませんが、管制室の指示に従います。現在航図通り伊豆島と魚固島の間を黒島方向に向かって進行中です。
船屋さんが言った通りなら、この辺りで船の機能を試験するものだと思うんですが
『はい、もうすぐ開発部の社員が乗務します。彼等の指示に従ってください』
ちなみに、この通信って傍受されません?大丈夫ですか?
『これは IP 通信、IPSec と言う暗号化された通信なので大丈夫です。そちらの船にもスターリンクが搭載されているので、管制室といいつつ、本社の自分のデスクのPCから話しているだけです』
あらら、そうなのね。
自分のスマホもスターリンクに繋いでいいですか?
『たぶん社長のことですから、船の通信用にスターリンクを二系統か三系統、それ以外に個人のスマホやPC用に一台載せてる感じだと思います。乗ってくる開発部の連中に設定を聞いてください。正直こちらには情報がありません』
しかし、乗ってくるといっても・・・このあたりには目的地以外はほぼ無人島ですし、自動操縦で航路を進んでいる・・・
『ブレークイン!!』
『その声は姫嶋か?!』
『そのとーり。目視でゆかい丸を捉えたのでこれから乗船する!船長、レーダーなんかで周囲を確認して下さい。問題なければ着艦する!』
こちら船長、レーダー、目視、ソナー・・・は岩礁等だが、全て問題無し。姫嶋さん?船を停止したほうがよいか?
『現在自動操縦と思われるので手動にしたあと全開リバースで速度を落とし、概ねゼロktになったところで、モード一覧から、WJ アクティブ停止、を選んでください』
なるほど、ここで全速後退をテストね。WJ はウォータージェットの略なんだろうな。
了解した。神崎、着席せよ。自動操縦から手動に変更する。
「承知しました!!」
全速後退!
といってもタッチパネルをぽちぽちするだけ。『全速後退』を選ぶと目標値一覧が出るので『0kt』を選び、次のメニューのうちの一つが『WJ アクティブ停止』だ。
しかし静かだな。グオーーーとか音がしたほうがそれっぽいんだが、多少は音が聞こえるものの轟音ではない。
まあ、強い減速は感じるので動いてるんだろう。
お、速くも0kt。ほぼ空荷とは言え本当に速いな・・・船の減速じゃないぞ。これ。
で、自動で WJ アクティブとやらに移行するのね。お、少し浮いた?
こちらゆかい丸船長。停止完了。WJ アクティブ停止起動完了!
『了解。15秒後に後部4番に着艦する。着艦後、急ぎの収容を願う。右のほうにメニューがあるはず』
なに?聞いてないよ。艦載機あるの、このRORO船?ますますRORO船じゃないじゃん。
えーと右、ね、これか?上部デッキメニュー、ああ、これか1Hから4Hまであるからこれのことだな・・・4Hを選ぶと・・・搭載物無し、か。
『着艦完了!』
うん、搭載物有り、緊締無しか。
『締結完了!」
緊締有りに変化したな。で、『収容』というボタンが出てきた。
姫嶋さん、この収容ボタンを押せばいいのか?
『はい、船長。お願いします!。カメラってボタンが出ていれば甲板上を見れますよ?』
これか。ああ、こりゃ有人ドローンかい? ずいぶんな艦載機だねーー
じゃ、収容するよ?
『お願いします!姫嶋以下5名、乗船許可を願います!』
はいはい。乗船を許可します。
『約一名、酩酊中です。すみません!!』
なんのこっちゃ
・・・
「姫嶋以下、松丘、芳野、沖永、および沖永が抱えている女性が國本です。まあ、大して呑んでないのですぐ目が覚めると思いますが」
船乗りにも飲兵衛は多いのでかまいませんが・・・
「すみません。ちょっと派手な服を着て式典に出るという業務がありまして、國本は特にそういうのに弱く、落ち着きがなかったので、少し呑ませました」
なるほど・・・で、日本の資格だと海技士だっけ?どなたか海技士の方、航海をお持ちの方はいらっしゃいますか・・・
すると、みんな、かかえられた國本さんを見ている。
そこの酔っ払いというわけですか・・・わかりました。水呑ませて寝かせてあげて下さい。
「はーい、あたしが海技士(航海)3級でーす」
お、目が覚めた?
「國本ちゃん、水、はい、飲んで!」
「はー、きもちいいー」
どこで航海士取ったの?
「海洋大学のデッキコースで練習船乗ってましたー。で、大学院で海洋システム工学からこっちのほうに来て、結局農工大に転籍してドクターやって、ここに拾われましたー」
船員手帳は?免許維持できてる?
「もってまーす。毎年練習船の乗組員やってますー。職員さんだけじゃ足りないから、航海士か甲板部員ねー。遠洋は時間がかかりすぎるから、夏の航海だけー、あっ、でも免許更新の年は遠洋いきまーす。あと無線もなんか取ったよ」
なんかって・・・
「あー船長?、この子は結構優秀なの。試験とか資格はすごいいっぱい持ってるの。自分でも覚えてないくらい。あ、マジで目が覚めたね」
「あ、船?船なんか乗ったっけ?あ、乗ったか」
おいおい・・・
「國本、さっきまで酒が残ってていいかんじだったの覚えてないの?」
「なんとなく・・・あー、船長、よろしくお願いいたします」
大丈夫かよ・・・
「國本、普段と違って初見の大男にビビらないね・・・」
「うん、船なら大丈夫。船長、この船、操縦やりやすいでしょう?」
まあね。というかここまで自動化されてる船は初めてだよ。
「ですよね。まあ、インマルサットとか普通になって通信士がほとんどいらなくなったものの航海士版だと思ってください」
「國本、とりあえずそのヘンに座ってて。で、船長!」
なんだい、姫嶋さん?
「あと一時間もせずに社長がドローンで登場します」
いきなりだね!社長は飛行機の免許持ってるの?
「あのひとはお坊ちゃんですよ?飛行機の免許くらい取ってます」
だが、あのドローンはその免許で飛ばしていいものなのかい?
「わかりません。飛ばすこと自体は免許なんか無くても簡単にできますが」
すると君も?
「ドローン操作の免許しかないですが、乗ってきちゃいました。テヘペロ」
おいおい・・・よく離着陸できたね・・・
「その離着陸が全自動なんです。着艦はどうかと思いましたが、勝手に着艦モードになって綺麗に降りましたよ?」
なんかすごいね・・・ほかに言いようがないよ。
・・・
で、社長が乗り込んでくる場面に繋がるわけだ。
姫嶋さんは國本さんに、「また呑め」と言って会議室でプチ宴会の準備をさせている。
そして、神崎さんも「お前も力仕事だ!」と、追い出した。
「船長、ワッチは姫嶋に変わりました!」
まあ、やることないですよ。
むこうにも通信設備はあるようで、社長機との会話はこちらにも聞こえてきている。
「無事着艦したようですね」
ですね。無理矢理配置を変えた意図を教えてもらえますか?
「・・・なんというか、船長は女好きっぽい見た目だなあ、と思いましたので、私もそれなりに女っぽい見た目をしている自覚がありますので、そちらのほうがよいかと」
ははっ、否定はしません。神崎さんも気持ちのよい方でしたが、女性のほうが話をしていて私が楽しいのは事実でしょう。しかし、女好きっぽい見た目というのはどういう見た目のことなのでしょう?
「鏡を見ていただければよろしいかと。メイクをすればジャック・スパロウくらいならできるのではないかと」
まあ・・・マネすれば、似てなくはない、という程度ですね。特にアイメイクをすれば。
でもヨーロッパのいわゆる白人なら、あの衣装を着てメイクすればある程度は似る気もします。おっと、人種差別とかそういう意味で言っているのではないので、予防線ですが。そこはよろしくです。
あと、姫嶋さんも大変お美しい。仲良くなりたいです。
「そういうとこですよ・・・私は割と慣れてますし、えーと、一晩の経験?も吝かではないです。この会社の女性は非常に頭がいいのですが、恋愛とか男女関係は全然ダメなヤツばかりで、さきほどの國本も、距離感バグってます。特に酔うと」
そうなんですか? しかし、みなさん美人ばかりですね。
「まあ、たまたまってのもありますが、みんな、この会社に入るまでメイクもしていないような残念女子だったのですよ。私もですが」
そうなんですか?驚きです。
「『研究バカ』ってわかりますか?男子もそうですが、みんな、それで貧困に喘いでいたんですよ。メイク道具に掛ける金なんてなかったんです」
なんとなく・・・大学院で中々ドクターになれず、苦しんでいた友人もいました。
「概ねそんな感じです。この会社、というか社長は私達を救ってくれたんです」
そうだったのですね。
「あなたはどうですか?さっきの話だと、外国の免許だと思いますが、航海に必要な免許をいくつもお持ちのはずですので、この船もドローンもおかしいってことに気づいてますよね?」
はあ、ここでその話ですが。ここを受けたのは知人の紹介で、口が固いのが前提でした。
姫嶋さんはこちらをじーっと見つめている。それはそれで色っぽい・・・が・・・
はい、わかりました。言いますよ。
この船、ウォータージェット推進ですが、モーターに電力を供給するディーゼルなりガスタービンエンジンが無いですよね。
どこからあんな推力を取りだしているんでしょうね?




