表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/20

総務部と開発部。

 「あの人たち全部チェック入れて月末にずどーんと全部投下してくるんです!」


 清水さんは総務部長……という名前だが、総務部の人数は知れているので、総務のまとめ役という感じが近いと思う。実は、元から居た社員の中で退職率が高かったのが総務部だ。


 現場で確認する書類など紙を残さざるを得ないものもあるのが事実だが、今は現場向けタブレットやデジカメもあり、工事部の職人達も当然のように受け入れて使っている。変化に付いていけなかったのは、総務のおじさん達だったのだ。


 なので20代後半と思わしき彼女が持ち上がりで総務部長となった。あとは去年入社〜3年目のメンバーばかりだ。人事部はまだ整備中なので総務が兼任しており、彼女の負荷は低いとは言えない。彼女の給与はドカンと上がったが、元の総務部長よりは低い。なんとかしてあげないとな。どこか買収するか?


 「それのどこが問題なの?」


 「社長! 明確に社内に居ないことが確実な時の食材費を社員から取ったらダメなんですよ」


 あー、そういうことか……。開発部の連中が会社に居着いているとはいえ、時々月曜や金曜に有給を取って三連休にすることは推奨している。特に火曜・木曜が祝日のときは特に推奨し、四連休を取ってもらうようにしている。


 連中は頭こそすごくよいが、少し前まで男女を問わず、喰うや喰わず、コンビニ深夜バイト後に廃棄弁当をもらって命を繋いでいた経験があるメンバーも少なくない。

 それに、今時一食300円ではオニギリ+αが関の山だろう。


 それが今では高給取りとは言えないまでも毎月の給与は振り込まれるし、会社で食事もできる。300円なら自分でコンビニに買いにいったり外食するよりもずっと安いし、自分の研究も進められる。

 なので今は夢のような境遇で、300円×月何回分かを余分に引き落されても気にならないのだろう。研究以外のことが面倒、というほうが大きいかもしれない。


 「うーん、[Check All] ボタンは失敗だったか? 開発部の要求で付けた気がするが」


 「そうですよ社長。最初は有給取得日や祝日までチェックしてたじゃないですか」


 確かにそうだ。勤怠のSaaSを利用し、一応出勤・退勤は付けてもらっている。また有給申請もそのサービスでやっているので出勤簿は自動で生成できるが、それと食事代引き落としが合致しないのは、特に有給含めて休みの日には問題になるだろう。


 「うーん、AIにやらせたらどうだろう」


 「私には今すぐは無理です。PCのCoPilotや、GWSのGeminiに聞くくらいが限界です」


 「それだけでは解決しないな、じゃ、当事者利益ということで開発部にやらせよう」


 「え、あの人たち、わけのわからない理論だけじゃなくてそういう普通の開発もできるんですか?」


 なるほど、そういう認識か……。俺や、リモートのあいつと中会議室こと食堂で夕食のときに議論している姿を見たらそうなるか。俺でもついていくのがやっとの議論で――いや、ウソついた。ついていけなくて、あとであいつに要点だけ教えてもらったりしているくらいだからなぁ。


 食堂というのは思わぬ利点があった。買収した建設工事会社、俺、開発部の連中、その後採用した社員というのは、仕方のない話だが壁があった。建設工事会社の中でも工事部の職人はそこだけで固まっている感もあった。

 それが一緒に食事をするだけでも打ち解けつつあるところに、福利厚生として問題のない金額を踏まえて金曜日の夕方に、開発部シャットダウンイベントとして、ビール・チューハイ・ハイボールなどを一本+ナッツなどの軽いおつまみを出す施策を取ったところ、施策開始から一ヶ月もしないうちに壁はなくなり、社内は融和状態というか、数字はシステム化でしっかりしたが、それで足りない『気持ち』のところの擦り合せができるようになった・・・気がする。


 今では金曜の夜間工事がない場合、開発部の強制シャットダウン(17時に開始して18時までに終わらせる)開始と同時に調理部隊が編成され、中会議室を隣の会議室と接続して普段より大きめの食堂にし、普段は19時半の夕食が18時過ぎ開催の呑み会になる。もちろん俺も呑む。


 その日は普段車で来ている社員も呑むなら公共交通機関で来る。


 ちゃんとソフトドリンクも用意し、呑まない人に呑ませることはしない。強制参加ではないので参加せずに帰る社員もいる。主に家族がいる人だ。まあ呑み会の様子はまた伝える機会もあるだろう。

 清水さんも最初はいきなり部長になるなど想定外の昇進に戸惑ったり、俺に対して萎縮ぎみの態度だったが、数度のイベントであっさり慣れて今では冒頭のように強く話すこともできるようになった。


 「できるよ。できないと論文書けないと思うよ」


 「そうなんですね……。知りませんでした」


 「清水さん、開発部への依頼フォームがあるのは知ってるね?」


 「はい。依頼フォームの作成も開発部に依頼……あー、そうか、もうやってるってことなんですね」


 「そう。もうやってるし新しいのもできる。今から言うからPCかスマホの音声認識あげて」


 「はい。……できました、どうぞ」


 開発部への依頼

・以下の開発はロジックだけでなく会社で契約しているAIを使ってもよい。

・食材費徴収確認フォームと、勤怠SaaSを突き合わせて、明らかに居ないのにチェックが付いているものを検出すること。

・明らかに居ないチェックを外すのを自動化し、人は確認と承認だけで済むフォームを作ること。

 ここまで必須。このあとは任意だけどやってほしい。

・勤怠SaaSのラッパーを作って、食材費フォームへの入力を自動化すること。そのとき、部署の特性を考えること。

・毎日の毎食の人数確認を今のチャットベースのものから切り替えて、手を上げた人の食材費フォーム連動まで全自動でできること。

 このあとは本当に任意

・想定される食事量に対してメニューを作成し、ネットスーパーへの発注も自動化すること。


 「これで開発部の依頼フォームに入れてくれればよいよ」


 「ネットスーパーの発注もウチなので、全自動になったりメニューを提案してくれるのは本当に助かりますねーー。私も調理側なのでメニューは結構悩み所です」


 「申し訳ない」


 「いえいえ、管理職扱いなのに残業代いただけますし・・・どうせ一人で作っても・・・あ、さっきの、任意だとやってくれるかは開発部次第ということですか?」


 「そう思うよね。でも彼等、彼女等は『これは自分たちへの侮辱だ』とすら思いかねない」


 「そうなんですか?あー?あえて任意とした社長に、これを出来ないかもと思われてるのがムカツク?とかですか?」


 「多分そういう生き物だね。」


 「でもこれだと職人さん達の権利というか慣習としての無料の食事はどうなります?」


 と返ってきた。


 「『部署の特性』ってワードを入れてるし、それくらい考える頭はあるよ。多分ラッパーを職人、開発、それ以外って作って隠しパラメータを入れるとかじゃないかな」


 「社長、ラッパーって何ですか」


 そこからかよ。ま、知らないのが普通か。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ