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現場事務所の高速撤収

面倒なことに巻き込まれてしまったのは確実です。


たまに行く霞が関でよく見る政治家の秘書達、こんなローカル鉄道の開通式に来るような連中じゃありません。


日本盾管隧道建設工業・・・読みづらいので日本シールドトンネル工業くらいで意味は通じるからいいですかね。建設、を省いても文字数は増えてしまいますが・・・この会社の技術に興味津々なのは間違いありません。


私だって知りたくて仕方ありません。


開通式で連中を見掛けた時、「ああ、引き所を誤ったか・・・」と心底思いました。


少なくとも彼等の親分に当たる議員達は私が地方を転々としている理由を知っています。


それなのに、舞い上がっていたのでしょうね。技官として関わりあい、個人的な繋がりも細々とではありますが、出来てしまったことに。


あの社長も「開通式なんて真っ平御免だ・・・」などとおっしゃっていたのに、超ド派手な演出で登場し、綺麗な若い男女を引き連れて場の空気をブチ壊すというか、あっという間に自社のカラーに染め上げ、予定に無かった演説も、短くも印象を観衆に残しまくったことでしょう。


「技官、優雅な早足で一緒に来ていただけますでしょうか」


一応こちらに選択肢を与えているようで実質断わることはできません。

私だけが残ると、あの連中、秘書達に囲まれるのは確定事項だということは私にも分かっていますから。


承知しました。ご一緒しますが・・・あのバスは観衆の皆さんの向こう側ですが・・・


「大丈夫です。姫嶋先頭で押し切ります」


はあ・・・


ハサミとテープの切れ端を用意されていた机の上に置き、関係者席に向かうと彼女を先頭に、既に隊列が組まれています。


「社長!!なんでこんな無茶ばかりするんでシュ!! わたしのメンタルにも配慮してください!!」


先ほど総務部長と紹介されていた・・・清水さんですか。姫嶋さんもですが、まあ、お美しいお嬢さんですね。

声を抑えて社長に怒ってますが・・・気持はわからないこともないです。


こちらの方はビジネススーツにパンプス・・・ちょっと胸元開けすぎという感はしますが・・・ですからいいんですが、姫嶋さん達はあんな宮廷晩餐会のようなドレスで歩けるんですか?


「ああ、彼女達は割と背が高いのでヒールが必要ありません。ひきずるようなドレスですから気付かれないと思いますが、安全靴かな?現場と同じ靴を履いているはずです」


あのドレスに安全靴・・・まあ、普通はそんなこと考えもしないでしょうね。男性も背が高いのでバランスが取れているというか、まったく不自然に見えませんでした。


姫嶋さんのペアが先頭、その後ろに私、社長と清水さん、あとの二ペアが後ろで動きだす、と思ったら、國本さんが私の横に入りこんで来ました。


「技官、姫嶋の後ろにお願いします!あと笑顔で適宜手を振っていただけますと幸いです!

社長、私の後ろにお願いします、清水さんも手を振って笑顔!沖永くん、殿(しんがり)をお願いね!!」


言われた通りにしますよ。はい。

これは男女を隊列の左右に均等割するということですか?


姫嶋さんは笑顔で手を振りながら観衆のほうに向かっています。

えっ・・・このままでは進めないぞ?と思った瞬間です。

すると、職人らしき人が何人が動きはじめました。


観衆の前にあったガードロープを切り、群衆に向かって「通路を開けてー」などと整理をし始めました。

職人達はいつの間にか保護帽をかぶり、元より作業着を着ています。

群衆も彼らが関係者だろうというのは想像が付くのか素直に従っています。


姫嶋さんは人の名前を覚えるのが得意なようです。両手を広げてこちらに背を向け、群衆を遮断する壁になってくれた職人さん達、観衆の中の知人にも声を掛けてます。


「ありがとー、ヨーさん、スズキさん、ハンペイさん、マツダさん、あ、ヨシダのおばちゃんも久し振り!」


群衆の中に2m弱の通路ができ、壁になる職人さんたちは我々と一緒に移動しているので、我々の後ろで通路は閉じていきます。


なるほど、これでは秘書たちが追い掛けてこようとしても住民や作業員に阻まれる・・・私は斜め後ろにいる社長に向かい、


こんな打ち合わせ、いつの間にしたんですか?


「しておりません。姫嶋たちはみんなに愛されてますからね。彼女たちと職人さんが組めば、このくらいは朝飯前です」


しかし、先ほどの演説ですが、彼女達、少なくとも姫嶋さんは名刺をいただきましたが、管理職ではなかったご様子ですが。


「ああ、それは本社の名刺ですね。ここ、現場では一次請けの弊社の社員は他社の社員から見れば全員管理職のようなものです。実際、彼女たちの知識や行動、指導で現場がうまくいったのは事実です。そして、最初は女だからと甘く見られていたのを引っくり返したのも彼女ら本人の実力です」


まあ、それは私も現場を視察したときに300円とは思えない豪華なお昼をいただいたときに拝見しました。若い人の言葉で陽キャラと言うんでしたっけ?

現場は男、おっさんばかりですから、ああいう若い女性が気さくに話しかけてくれるだけでも、まとまるというか、士気が上がるというのも理解できます。


「彼女達は陽キャなんかじゃないです。むしろ、根暗な研究者でした。あれも必要に応じて身に付けた技術なんです。さて、バスに乗りましょう」


そういうものですか・・・無理して明るく振る舞っているようには見えませんが。

しかし豪華なバスですね。外装からしてシックで高級感はありましたが・・・

バスの座席というか、これは革張りのソファと言ったほうが正確でしょうね。

3,4,5,6。6列しかないということは、この大きな観光バスに乗れるのは12名だけ、ということですか。

通路の正面には添乗員さん用?の席があり、そこには細身の男性・・・でしょうけどパンツスタイルの女装?でしょうか・・・いわゆるオネェ、と言われるであろう見た目の方が座ってました。

その方はその場で立ち上がってこちらに声を掛けてきます。


「遅いわよ~社長?女子の着替えはこっちにあるから女子は後ろに来てネ♡

清水さんだっけ?あなたも作業着に着替えるんだって。最近の作業着は結構カワいいのね。知らなかったわ。男子は前三列。後ろは向いちゃダメよ㊙」


「はいはい。技官、彼、あ、彼女は美容師、この場に限ってはスタイリストさんです。二列めの通路側にお願いします。(マツ)、窓側に行け」「承知しました」


あ、松丘さん、現場でお会いして以来ですね。


「はい、吉岡技官。よろしくお願いいたします」


彼が窓側で私が通路側、というのは一応配慮してくれたということでしょうか。

さすがに狙撃の心配はないと思うんですが。


どちらにしろ・・・さっさと、出たほうがよさそうですね。


「運転手さん、ホーンを長めに三回鳴らしながら出発をお願いします。工程表通りの経路で大丈夫です」


「承知いたしました。出発いたします」


ファーン、ファーン、ファーンとこれも優雅な音を響かせてバスは発車します。


「沖永、アレはもう出来ているんだな?」

「はい、社長、工期を引き伸ばしていただいてありがとうございます」

「予定通りってやつだから気にするな、よっこらせっと・・・吉岡技官?」


はい、何ですか。前席の上から社長が顔を出しました。あれは後ろ向きになって膝立ちの状態なんでしょうね。


しかし豪華なバスですね。コーチビルダーにオーダーで発注されたものでしょうか?


「いえいえ、普通に観光バス会社に電話して貸切にしただけです。なので豪華なワリにはお金は掛っていません」


はー、こんな車両も普通に借りられるんですか。


「まあ、豪華なわりに普通のお値段なので、スケジュールに割り込ませてもらうのにお金がかかりましたが」


ああ、式への参加は急遽決まりましたしね・・・そろそろ本題をお願いします。


「はい。もう、お気付きだと思いますが、我々の技術は古典物理学からははみ出しています」


はい。それは勿論。


「ただ、大統一理論、まだ仮説の域を出ませんが、それには反していない。またはそれに修正を加えるものです」


・・・また、大きく出ましたね。まあ、重力を取り扱うのですから、大統一理論に・・・重力を組み込むというのはとんでもない話ですよ・・・


「正直、(いま)だに仮説ですし、モノはできているものの、理論は後追いで研究、実験を重ねている段階です。あと、私に詳しい説明を求められても正直できません」


それはそうでしょう。私から見ても、あなたのように技術に明るい経営者は稀で、経営者として優秀なのは間違いない様子ですから、ざっくりわかっていれば充分に思えます。


「ありがとうございます。技官、あなたが過去に関わり、あなたのような優秀な方がこんなところで暇な仕事をしている理由も探らせていただきました」


何を調べたか聞くつもりもありませんし、私から話すことも何もありません。


「察するに、それが懸命な態度、身の処し方であろうことは想像できます。なので触れませんが、我々のものは一応仮説として何かを提出することはできるのと比較すると、何というかオカルト的でしたね。いえ、何もおっしゃらないで下さい」


黙っていることが肯定に近いということは理解してても押し黙るしかないですね。


「そういうお立場であれば、一旦自宅、官舎といったほうが適切でしょうか?、そちらに寄れば、一週間やそれ以上の出張が即時にできる準備、旅行カバン的なものが用意されていると推察いたしますが如何(いかが)でしょうか?」


そうですね。キャリーケース一つで生活しています。パジャマやら最低限の食器は置いてありますが、それらはそれこそ安さが売りの洋品店や100円ショップなどで買ったものばかりですから、捨てることになってもかまいません。

普段服用している薬やサプリも一ヶ月以上の備蓄がキャリーケースの中にあります。

ああ、飛行機だと機内に持ち込めないサイズです。カウンターでは預かってくれます。


「流石です。お車は公用車ですか?ご自分の車でしょうか」


公用車ですね。一応公務員ですので貸与されています。中に置きっぱなしの私物は携帯の充電ケーブル程度で、まあ、これも古いものですので捨ててもかまいません。


「官ですと、領収書の(たぐ)いを月に一度は提出する必要があると思いますが、その類の受領書類はいかがでしょうか」


この背負い鞄かキャリーケースに入っているので大丈夫ですよ。心配が行き届いてますね。

こう見えてもお調べになったとおり、一年か二年で配転を繰り返していますのでいつでも動ける準備はできています。

私は拉致されるという認識でよろしいのでしょうか?


「まさか。拉致などという言葉はおやめください。技官もお気付きの通り、少々キナ臭い状況が整いつつあります。当初は技官にご同道いただく予定はございませんでしたが、この状況では霞が関か永田町に呼びだされて吊るし上げを食らってしまわれるのではないかと愚考いたしました」


なので同情して同道させてもらえる、というわけですか。

・・・まあ、私の状況も、たぶんおっしゃる通りでしょうね。

しかし、私には中央に話せる材料は一切ありませんから、下手をすると家族をタテにして脅されることまで考えないといけませんね。

そこまでされても私には大して話せることはないですね・・・誘拐されて、連絡が取れない方が、短期的には得なんでしょうね・・・


「またまた。誘拐ではありません。ご説明、ご同意の上で同道されるのは如何ですか、というお誘いです」


このバスに乗せてくれ、とお願いした時点で同意したも同然ですが、改めて同意します。


「ご同意いただき、ありがとうございます。もうすぐ、仮設事務所、正確には元・仮設事務所跡に到着します」


そんなに話し込んでいましたか・・・しかし、跡?ですか?


「現地でも分解、運搬が容易と、ご説明したとおりです」


           ・・・


その通りでした。ほぼ、真っ平らな土地に大型トラック二台、クレーン数台、フォークリフトが二台、それにミニバンが何台か止まってるだけです。


あの豪華な仮設事務所はどこにもありません。


「おう、社長、面倒な式典は終わったかい?」


「ガンさん、こちらも終わっているようだね」


ここまで綺麗に分解できるものなんですか?


「おう、技官様、こんなタメグチで申し訳ないが、ないですが、よろしくお願いしますぜ!」


「こら、ガンさん、自覚が無いのは知っているが、もう少し、声を張るのを控えて話せ」


いや、現場の方はこんな感じでしょう・・・この会社の皆様はみなさん上品ですが、久々に土建屋さんとお会いしたと感じております。


「すまねぇことです。元々の会社で工事、職人の取りまとめをしていた岩田ってもんです。元は中小建設会社だったんですが、この社長に買収されてから妙ちきりんな技術会社になっちまって・・・まあ、工事をやるしか取り柄がないんで今もやらせてもらってます」


「吉岡技官、岩田は今は子会社の社長なんですが、こういう口癖が抜けなくて困っているんです」


なるほど、しかし、現場の職人とはそういう口調のほうが話は合うでしょうね。


「おう、わかってるな。流石技官・・・じゃねぇや。おわかりですね?でよかったかい?社長?」

「あのなあ・・・まあ、いいか。それで技官、これからは技官と呼ぶとそれだけで身元を明かしているようなものなので、吉岡さん、または何らかの偽名で「さん」付けて呼ばせていただきたいのですが」


ああ、そうですね。・・・ノリさん、ではいかがでしょうか。


「ノリさん・・・ずいぶんと距離感の近そうな呼び方ですがよろしいのでしょうか」


本名の漢字を訓読みにしただけですが、印象的にはかなり違います。

大昔ですが、それが渾名だったこともありますから、反応が遅れてもほんの僅かだと思います。


「ああ、なるほど・・・芸人さんに因んでいたり・・・まあどうでもいいですね。よろしくお願いいたします。ノリさん」


はい、よろしく。こちらも公務員モードの丁寧な話し方を封印するよ。

ちなみにその芸人さんと漢字が一文字同じというだけで似ているわけでもない。

大学生のノリというやつですな。


「見た目の年齢差からしてもその話し方のほうがよろしいかと」


まあ、私は退官間近の歳ですからね。おっと、これもよくないか。定年間近くらいの言い方にしないとですね。


「ガンさん、トップリフター無しでもトラックにコンテナを積めるんだな」


「おう、クレーン四台で吊れば流石に大丈夫だ。これは地場の業者から借りてるやつで、もうすぐ輸送用のトラックも来る」


あの事務所が綺麗にコンテナに積めるんですか。ああ、くだけた口調で結構ですよ


「あー、えーと、ノリさん、でいいんだな?そう。全て31ftコンテナに積める。養生用のプラダンは必要だがな。こっちの口調のほうが助かるぜ」


それでいいですよ。結局使いませんでしたが、宿泊棟と呼ばれていた建物もありましたよね。


「あれは31ftコンテナにカプセルホテルのユニットを押しこんだもんで、シャワートイレ棟も同じく元からコンテナなんだ。だから、仮設の下駄箱や廊下をバラしてしまって真っ先にコンテナターミナル送りなんだよ」


なるほど、ホテルではないから受付も何もいりませんね。そういえば、現場にあったキッチンもキッチンコンテナと呼ばれてましたね。あれもそうなんですか?


「まあ、私の趣味というか、鉄道輸送が気に入りましてね。割れものさえ固定してしまえば展開も撤収も速い・・・といいつつ貨物輸送というのは遅配がしょっちゅうなのが難点ですが。ノリさん、口調が戻ってますよ」


おっと失礼。政策のモーダルシフト的観点から見ても鉄道輸送というのは良いね。遅配は・・・天候によるものの場合はどうにもならないね。


ちょっと気になったんだが、上水は最悪タンク、コンテナなら二段に積めばいいだけだからどうにでもなると思うが、下水はどうしていたのかな。ここじゃあ下水道なんて急に引けないだろう?


「社長、しゃべってもいいかい?」


「ガンさん、その話は長くなるのでこの後にしよう」

ノリさん、後でお話しますが、まずは荷物を取りにいきましょう」


そうだね。でも、追手が来てるだろう?官舎もわかるだろうし、どうしたもんですかね?


「大丈夫です。こちらにどうぞ」


はいはい。ここまで来たら言われたとおりするよ。

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