前島側開口部の優しい?家主
「かまわんよ。好きにやってくれぃ」
は?
「説明は聞いた。北側の土地を工事と線路の設置のため、売ってくれ、とのことじゃろ?」
はい
「完成後は高架橋になるが、ウチの北側を通るんじゃろ」
そうなります。
「その高架橋を作る工事と、その準備工事で北側の森を少し削ると申したわな?」
おっしゃる通りです。
「北側ならガケのそばじゃから、あまり使える土地じゃない。必要なだけ売るよ。日陰にもならんしの」
確かにそうですが・・・
「汽車の音がうるさいゆーても、今までとかわらんじゃろ。むしろ、何も聞こえん今のほうが寂しいの・・・」
現状では危険で通れませんからね
「わしがゴネたせいで、汽車が走らんなくなるほうがよっぽど怖いのう・・・
いまじゃこんな年寄じゃが、それなりに地域の顔をやらせてもろとったからのぉ」
お子様とかは大丈夫ですか?
「まあ、こちらには寄らんの。親父の好きにせい、で、しまいかの?ばーさん」
「ですねぇ。子供といってもお爺さんに近いおじさんなんですよ。もう」
「そうさな。北の森といっても、子供時分ならともかく、もう、入ろうという気すらせん。
人がおらんようになってなぁ、あまりにも茂りに茂って、もう入られん。
そのうち、ガケが崩れて、道路建設の役人が来て買わせてくれとなるのは見えとる。
あやつらは完全に禿山にしてコンクリで固めよるからの。
お宅で買えるだけ買って、その時にはお宅で対応してや。面倒なんじゃ」
ウチの工法なら、固めた法面、トンネル入口は伐採しますが、それ以外は最小限にする予定です。
弊社の不動産部に任せていただけば道路工事の交渉もいたしますが。
「ともかく面倒じゃ。少し色を付けてくれれば、家より北側の土地はどれだけ売るんでもええよ。」
承知いたしました。
法律で義務付けられているので、内容についてご説明させていただき、サインを頂けますか?
「面倒じゃが、聞かんわけにもいかんのじゃろ。アレなら、タイムレコーダー?録音するやつも使ってえーぞ。ちゃんと相打ちを聞こえるようにすればよいじゃろ」
ご主人様、それはボイスレコーダーです。
それも使わせていただいたあと、ご子息に連絡を取らせていただき、御説明の機会を頂きたいのですが。
「かまわんよ。ワシからだとケンカになるからお宅からのほうがよかろう」
では、御説明させていだだきます
・・・
「一切合切承知した。よろしく頼む」
では、サインのほうをお願いします。
「・・・字も下手になったのお、これでよいかの?」
はい、頂いて参ります。こちらは控えとなります。
・・・
ご子息様でよろしいでしょうか。
「お袋から聞いてるよ。オヤジが調川の家を売るんだって?」
家にはお住みになるようです。その北側の森を買わせていただきます。
「森・・・っていうかほぼ荒地だろ?灌木が茂って困っているとか、そういうことか?」
はい。お子様はお一人と伺いましたので、合意形成のお願いに参った次第です。
「ご苦労なこって。いいよ。なんかサインするか?」
こちらに用意してありますが、何も確認せずによいのでしょうか?
「あんな、台風が来たら潮を浴びるようなところに住みたくねぇよ。昔よりは護岸もしっかりしてるとは思うがな。荒地がオヤジの持ち物だったとしたら、整理できて助かるくらいだ」
では、こちらが控えです。ありがとうございました。
「なあ、汽車の線路を直してるんだろう?あんたがたも仕事でやってんだろうから、それはそういう仕事なんだとは思うが・・・
ウチの近く・・・前浜だったかな?あの駅なんてほぼ浜だぞ?
松崎のほう、鷹島のこっち側の、海沿いの斜面の線路がやられたんだろ?
そこを直しても、そこかしこガケだらけだし・・・
そうでないところも、漁港の防潮堤が頼みの綱の、海抜数メートルのところも多いし・・・
オレも仕事の関係でこっちに住んでるしなぁ、あまり人のことは言えないけど、直す意味あるのか?」
まだ、人は住んでますし、生活もあります。我々としては直す意味はあると考えております。
「そうかい。そう答えるしかないよな」
・・・
ふう。地味にキツいな。俺が甘いんだろうが。
実際、この金額で入札してもウチは儲かってしまうが、普通に考えると赤でもいいから取りたい、みたいに見える。
実際、この案件では工法の確立もサブテーマになっているのは事実だ。
普通にウチが最速でやってしまうとあまりにも目立つ。
なので、例えばシールド電車や、その輸送のような『方式の開発』をすることで、スピード感をあわせている側面もある。まあ、それでも速すぎなんだが。
正直、俺は平戸鉄道の将来については考えてない。このままだと破綻は確実なんだろうが、それは地域の自治体が決めることだ。
道路は作るのも維持も税金だが、鉄道、私鉄は、作るのも維持も私鉄のカネで、しかも、固定資産税を取られる。道路は税金で作られているが、鉄道は税金を取られているのだ。
まあ、固定資産税の減免措置はあるが、払うのを減らす、のと、全部税金から補填というのは差がありすぎる。
存続を前提にするなら、せめて道路と同じ程度の財政負担にしなければ無理だろう。あとは運賃値上げの自由化。
地方議員の昔風の人からよく聞く、運賃上げるな、本数増やせ。は、無理だ。
その時に俺が言いたくなるのは「一回の運賃は100万ぽっちでいいので、毎日乗って払ってください。議員様なら可能ですよね、これでお一人、年間3億6500千万ですが、赤字額を10パーセント減らせます!!僅か10人の議員様が、一回百万というお安い金額で毎日乗っていただければ赤字は解消します!!」
苦笑・・・というしかないな。
言っても理解はされないだろうし、実行もされないことは確実だ。
だが、こういう無理な前提がないと、運賃で地方路線の維持をすることはできない。
道路財源から持ってくるしかないんだろうが、あれは既得権益のカタマリみたいなもんだから難しいんだろうな・・・。
地方においては道路と同じく、鉄道も税金で維持するしかないのだろう。
ま、その仕組みは無い。なんとか生き延びているウチに仕組みを作ってほしい。そこはウチの仕事ではない。ウチが作れるのはトンネルくらいのものだ。




