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鷹島口回収基地建設

少し時間は戻る。具体的にはシールド電車開発より前の話だ。


今回、どこもかしこも面倒な工事だが、一番厄介な要望は、「鷹島口駅を残してくれ」だった。


前浜側も厄介ではあったが、自宅の上を高架橋が通ってもよいという地権者様のおかげで、目処は付いていた。


鷹島口駅を残すとなると、それより北の半島の一部でトンネルを終端しなければならない。ところが、そのあたりは山が海に落ちている地形で、ともかく土地が無いのだ。

その駅が無くてもよければ、隣接している高速道路のようにドカンと山を貫くトンネルを掘ってやれば今福駅への線路の接続は用地買収以外には面倒なことはない。


今回、用地買収に対しては比較的寛容な住民が多かった、というか反対派はいないと言っても過言ではなかった。まあ、条件を上げるための話し合いなどはあったが、それはよくある話で済ませることができる。


それより、折角の鉄道が無くなってしまうことに対する恐怖のほうが支配的な雰囲気だったと言える。


廃線により、過疎化が一気に進んだ町や村を、このあたりの住民は実感として知っているからだ。


ウチと平戸鉄道だけでなく地元の市役所の職員やら地域の顔役的な人物、はてには国土交通省の技官まで巻き込んで検討を重ねた。

その結果、国道が鉄道の上を通っているあたりに、ほぼ、放棄された果樹園と、作業用の農道があること、そこを買収できることがわかった。


「こんな技術が出来ているなんて知りませんでした」


国土交通省から派遣されてきた吉岡技官だ。そう、秘密にしていたからな。

今日は昼すぎから仮設事務所に来ていて、大量の書類の精査をしていた。

夕食をお出しするか迷う時間だ。とりあえず、質問に答えるほうが先だな。


ちゃんと実績のある技術ですよ?ご依頼の資料も提出させていただきました。


「はい、拝見いたしました。実績は申し分ありませんし、資料の瑕疵もありません」


では、何か問題が?


「これ、何かのロストテクノロジーか、SF的な何かか、でなければ似非科学的な詐欺のはずなんです」


詐欺!!??そんなことはございません。各地方自治体からもヒアリングなされたでしょう?


「ええ、しっかりと工事を完了されておりますし、手抜き工事でもない。わざわざ見にいきましたからね。だから詐欺でないであろうということはわかっていますが、だからこそ信じられない」


何がでしょうか?


「ですから、現代科学を超越している何か、で作られているのでなければ、あなたの会社はとっくの昔に潰れているはずなんです」


どういう意味でしょうか?


「あんな工事をしておいて、しらばっくれるんですか? まあ、いいです。一言、安すぎるんです。発生すべき費用や利益が発生していないというように見えますよ」


それなりに利益は出ておりますが?


「だから、そこがロストテクノロジー的なんですよ。あなたがたの主張しておられる重力派エンジン。論文も読ませていただきましたが、肝心なところはブラックボックス化されてて判らないように書いてありました」


理論的なバックグラウンドは開発部の連中に任せてますので、ちょっと分かりかねます。


「はい、あなたは経営者であり、技術には明るい方だ、と言ってもあの論文はわからないであろうことは想像が付きます。

・・・まあ、私も長年こういう仕事をしており、技官だのとはいっても、大した力もない・・・

そして、こういう不可解なテクノロジーに出会ったこともありますし、左遷とまではいいませんが、こういうのを穿(ほじく)り返してもロクな目に合わない、というのは実感として持ってます」


はい。左遷なんてとんでもない。立派なお仕事です。


「まあ、いいですよ。来てしまったからには報告書を書かねばなりませんし、どう書くかは非常に悩んでいますが、パッと見て処理済みに分類されるよう努力して書くだけです」


そんなことは無いと思っておりますが、一応お話します。弊社の倫理規程では、国家公務員に対しての利益提供は固く禁じられておりまして、食事の提供でも、一回3000円以内、しかも連続しての提供は禁止となっています。


「ああ、ああ、確かにそう聞こえないこともないですね。問題ないように書いてやるから利益供与しろ、みたいにね。不要です。一応私にもプライドがありますので。単なるグチだったのですがね」


大変失礼いたしました。地方、というか比較的閉鎖的な地域で、そのような言動をなさる方々に辟易としておりまして。これもグチでしたね


「お互い様です。それはよく分かります。私にはロクに権限もないのですが、中央から来た技官というだけでチヤホヤされて、勘違いしそうになったこともありますから・・・まあ、そういう方々も私が何もできないことを知ると、すぐに離れていったので・・・現金なことです」


いや、本当に・・・新参者のウチがなんとかなっているのも地元の建設業者に大盤振る舞いしているからという理由だけですからね。


「それなんですよ・・・いや、ヤメておきましょう。本当の秘密を知ると生死にかかわるような気すらしてきました・・・」


ご賢察に感謝いたします。


「ま、これは完成した技術として受け入れるとすると、この荒地・・・実質的に荒地ですか?に回収基地を建設して、既存の路盤までの工事を行う、と」


はい、そこは在来工法での施工となります。


「鷹島口駅を残すとなると本当にここくらいしか無いですね。半島部分の鉄路は放棄ですね」


そうです。あそこを全部やりなおすとなると数年掛かるでしょうし、費用も100倍程度まで跳ね上がります。


「だから、7m径のシールドトンネルがこんな費用と工期で出来るのが異様なんですが・・・ふっ…これで最後にしますね」


ありがとうございます。ここの工事は幸い在来工法ですから、地元企業に発注します。


「それで臨時とは言え雇用を創出して、自治体や地元企業の信頼を得る、と、そういうことですな」


いえいえ、適材適所というだけです。ウチは人海戦術はとんと弱いので。


「前浜側から登り勾配で掘って、御社お得意の曲がるシールドトンネル、そして登り勾配から水平にしての終端。ここがサミットでそこからは従来の路盤に向かって下っていく。問題無しと言わざるを得ません」


ありがとうございます。


「墓場まで秘密は持っていきますので、定年退官後に私でもできる仕事などはありませんか?まあ、先程権限など何も無い、と言ってしまったので無理ですかね?」


即答はいたしかねますし、正直天下りを受け入れた、と見做されると、弊社的にも微妙なところです。


「・・・おっしゃる通りです。軽率でした。一応技術者のはしくれではあるので、御社の技術に関われたら、くらいの気持でしたが、撤回いたします」


興味を持っていただくのはありがたいことです。前述の通り、現状では将来的に御縁がありましたら、としか申し上げられません。

私個人としては、人と交わるのは好きですので、個人的な繋がりは大歓迎なんです。

技官殿は国家公務員というお立場ですので、時節柄、節度を持ってのお付き合い、という形にはなります。


「そうですね。節度を持ったお付き合いができれば幸いです」


薄いながらも、国土交通省に人脈ゲットかな?


このあたりには飲食店などございません、と言ったら、単身赴任なもので・・・と言いながら、食事を召し上がって行かれた。


きっちり、他社に請求するときの実費、300円を置いていった。律儀な人だ。

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