RORO船を解析する
通信が繋がった途端、大きな声が流れてきた。
「社長!どうしてあんたはこうも次々と都合はいいけどけったいな会社ばかり見付けて来れるもんだね!」
今回のきっかけはガンさんだぞ?RORO船については何かわかったかな
「自分が興味を持っていることに貪欲だな!良く言えば!だがな!」
そうだな。単純な思い付きだが、これなら小改造で14m機を複数台積めるんじゃないかなと思ったんだ
「積めるね!間違いなく二台は行ける。しかしまぁ、これ、もう入手先は存在しない、とか絶対的に不明、とかじゃないとまずいよ。間違いなく軍用だ。実物見てみないと最終的には判断できないけど。こんなの民間が作る意味がない!コストもかかりすぎるし、こんなん運ぶ用途は・・・無いこともないけどもっと安く作るはずだよ!」
軍用と判断した根拠はあるのか?
「まず作りが高い。無駄に頑丈な設計だ。元社長は欠点として上げてたらしいが、目一杯積めないのと燃費が悪いってのがメインだよな。これらは軍用ならそれほど問題にならない。あと、喫水が浅いってのも強襲揚陸艇と考えるとしっくり来る。強襲揚陸艇ってわかる?」
映画で見た程度なら。海兵隊が浅瀬に上陸する船だろ?
「その大規模版。15m幅なら4列か5列に歩兵装甲車を並べて後ろから戦車や自走砲、補給部隊なんかのトラックも一気に上陸して戦闘を仕掛けることを狙っているとかさ。高さが高すぎるのも安全確保やランウェイが降りる前からエンジンを回すため、と考えると不自然じゃないね」
おいおい、物騒だな。しかし歩兵戦闘車はともかく、戦車や自走砲は重くて沈むんじゃないのか。
「オレもそう思う。で、それが放棄というか払い下げられた真相だろうね。だれかおエライさんの思い付きで予算が付いたけど、実際に作ってみたら使い物にならなかったので、事実を隠蔽するために何か理由を付けて計画を破棄、中断、検討のやり直しという名前の棚上げを行って、モノが残っていると杜撰な思い付きがバレるから足が付かない業者を複数経由して売却って感じかな。どの国の軍が、なんてのは探る必要はない、というか探らないに越したことはないな!まぁ、だから入手先はわからなくなっているほうに賭けるね。一応ちゃんと不明になっているかの確認はしてくれよ?」
わかった。そういう推察なら不明でないと困るから不明でないとしたら不明になるよう取り計らうよ。
実機は建設会社のドックに引き上げてあるから、今度は映像付きで通信しよう。
「まかせた。ともかく入手先は不明でよろしく。映像付きか。例のヘッドマウントカメラ、ゴツい眼鏡みたいなやつ、以前に買っただろ?あれでしっかり録画もしてくれよ。社長」
わかったよ。あれだな。
・・・
今日は沖永君、國本くんの開発部の男女コンビ・・・といっても特にコンビではないが男女二名といっしょに三名でドッグに来ている。沖永君は構造に強く、國本くんは言語だけでなく音響全般に強い。
「新社長、ウチの若手・・・っても社長より上じゃが、船屋を紹介させてくれ、あとは頼むぞ船屋」
元社長は、まぁすでに退職した身だから、この紹介自体がボランティアだ。
当然だが、さっさと出ていった。
「社長、よろしくお願いいたします。船屋と申します。本名、名字が船屋なんですが、ドッグの責任者をしております。冗談みたいな名字で恐縮です」
わかりやすくていいよ。
こちらの男性が沖永、構造系に強い。大声で話しても大丈夫だ。こちらの女性は國本。音響などのプロだが、大声にビビることがあるのでジェントルに話してあげてくれ。
「しゃっ社長っ!最近ではいくらか慣れましたよ・・・」
声が小さいがな・・・
「まあまあ國本さんも、社長も。あー、船屋さん、沖永です。この船、完全に陸上に置けるんですね。珍しいです。で、これは船底の一部を剥してありますね。船底は・・・これは鋼ですかね。で、船体構造は・・・え、まさかステンレスですか?」
「そうです。双胴船ですから、自立可能です。まぁ、引き上げるとなると楽ではないんですが、ここはドッグなので問題ありません。船体は高張力鋼、構造ははステンレス、SUS316Lです。おかしいですよね」
沖永君、説明してくれるか。アイツにも聞こえるようにな。だまっているけど映像も音声も開通している。
「普通は鋼材なんです。ステンレスは錆びにくいですが、圧倒的に高いですから、古典的にはキールやリブ、背骨と肋骨と言えばわかると思いますが、船の骨組部分に使うというのは貨物船としては贅沢すぎますね。あと、あ、船屋さん、お願いしていいですか?」
「ありがとうございます。それとステンレスの溶接は難しいんです。SUS316Lなんで出来ないことはないんですが、正直、大変です。どうしても、特に貨物輸送船的なものは扱いがラフなので。まあ、修理できるような構造に最初からなってはいるんですが。この船も船殻構造に重大な問題、例えば極論ですが真っ二つに折れて沈没するとかでなければ概ね修理可能です」
これは、本気で出自を探ったらいけないやつだな。どこかの赤い旗の国が海峡を超えてどこか上陸するためのものとしか思えない。一隻ではどうにもならないだろうが・・・
なんというか、以前に青函海峡で見たフェリーに似てなくもないな、船屋さん、どうだろうか?
「いろいろと違うところも有りますが、中央の下にも船底を付けたので、あそこで使われていた高速フェリーと似てる見た目なのは確かでしょう。ウォータジェット推進なのも共通していますし。まぁプロペラよりエネルギー効率という意味では悪いのですが、静粛性などにも優れます」
静粛性ね、さらに怪しいな。アイツが軍用と判断するのもうなずける。
しかし、これは直ちにどうにかこうにかできるものではないな。船舶班を作ってしっかり分析、リバースエンジニアリングで設計図を起こしてからでないと、良い結果を生まないだろう。
沖永君、國本くん、船舶班の掌握をお願いする。船体内部までしっかりと把握して、設計図を作りなおしてくれ。特に國本くんはエコーを持って来ているだろう?超音波を使って分解が難しいところの内部構造の把握をお願いする。しっかりと映像を取って、アイツへの共有も忘れずにな。
「はい、承知いたしました」
「了解です。エコー楽しみです」
「丸投げかい?ま、リバエンはウチでやるしかないだろうな」
俺はガンさんと鉄道のほうに戻るよ。