何をするにもまず買収、の弊社
ガンさん、概ね工事の方式が来まったよ。実際の施工法や詳細設計をお願いしたい。
「おぅ、まかせとけって。例のすぐできちまわねぇように工程を増やしたりも、まだやるんだろ?」
そうだな。まだやる。数年から十数年掛けて減らしていっていつの間にか無くなるようにするつもりだ。
「で、だ。シールドマシンなんかの機械は分解して、トラック、トレーラーで持っていくにしてもだ、こちらから人を10人以上は出す必要があるよな。作業員は現地の人間を雇うにしてもな」
それはそうなるな。この間買収した運送会社が早速役に立つな。
「社長は何でも買収だなぁ。これまでの買収でも最初の元ウチの会社も含め元は取れてるようだし、社員も給料や待遇がよくなって喜んでるから信用はしているぜ。で、そんな社長に耳寄りの話がある」
なんだ?地元の建設業者でも買収しろと言うのか?
「おっ、流石にわかるか。一応オレなんかでもな、まあまあ長くやってると、業界のツテってのがあって、ちょっと今回の現場付近を探ってみたらな。地方にありがちなやつをひっかけられそうなんだ」
地方にありがちと言っても・・・いくつかパターンはあるが、子供が東京や大阪、九州だと福岡もあるか?の大企業に就職して戻ってこないとか、業績は悪くないのに社長の跡継ぎが育ってないとか、少子高齢化の影響を受けて今はともかく将来的な展望がよろしくない、とか、いろいろあるだろう?
「さすがだな!社長!」
なにがだ?ガンさん
「その全部+高齢社員の離職、定年退職ってパターンだよ!」
若手がまったくいないってのもありえないだろう?
「社長、地方を甘く見ちゃいけねぇ!。40代どころか50代が若手扱いなトコだってあらぁ!」
50代がか・・・というか、建設で現場仕事だったら体力勝負だろう?今でも60歳くらいで定年じゃないのか?
「同じ言葉をいうぜ、社長。今の年寄りを甘く見ないほうがいいぜ。ずっと現場なら60どころか70も珍しくねぇ。まあ、歳を取ると新しいことはさすがに覚えられねぇが、昔ながらの大工仕事や左官なら80の親方だってこっちでも珍しくねぇんだ。馬力は落ちても経験は長げぇから力の入れどころ、抜きどころはわかってる。中卒から85までやってれば経験70年だぜ?」
ああ、一人親方というやつか。経験70年は確かにすごいが、しかし85歳かい?俺も親父の歳がそこそこ行ってからの息子だが、もうリタイアしている親父より上だな。なんか仕事を頼むのが申し訳ない気もするな……
「違えんだよ!社長みたいな金持ちの息子でも、職人のステレオタイプなイメージはあるだろ?その通り、バクチとか酒好きでロクに貯金もしてねぇ連中だって多いんだよ!。年金もらえる年齢になってても、それだけじゃ食えねぇから短時間でも働かせてもらえればありがてぇって話なんだ。工事部の若手でもそういうやつらの予備軍はいたじゃねぇか。で、社長が総務に指示して、確定拠出なんとか?、とか給与の中から一割二割くらいを運用に回す?イデコとかニーソとかなんか横文字のやつで強制的に貯金をさせるようにしたんじゃねぇか!」
まぁ、強制ではないが、せっかく国の政策で運用に回せという名目で税額控除があるからな。免税額だけで定期預金とは比較にならない金利が確定してるからやったほうがいいよ、と薦めただけだ。ちなみにニーソじゃなくてNISAな。ニーソだと別の性癖的な話にならなくもない。
「ニーソじゃなくてニーサかい。ま、総務部の清水部長だの、開発部のえーと名前わすれたけど、呑むと色っぺぇ美人が何人もいるだろ!あんなのに呑み会で薦められたら若手なんぞイチコロだ!で、次の呑み会で○○くんはイデコもニーサもやっててエラいねーなんてチヤホヤされたら全員入るにきまってんだろ!!」
そんなことしてたんだ。特段に、というかまったく一切、清水さんにも開発部女子にも指示はしてないよ。ニーソは天然でやってるかもな。
「そのニーソはわかんねぇけど、特に清水部長は天然すぎる!男から触ったらセクハラになっちまうからガマンしてんのに酔って隣に座ってすぐ側で『エラいねー』なんて言って頭撫でてくるし、胸だって当たってんだよ!」
それは……彼女に注意してもいいが、しなくても若手男子には問題なさそうな気もするが、どちらがよいかな?
「あの部長、注意してそのときは理解しても酔っぱらったらダメだろ!あの性格と言うか飲み方だとよ!・・・まぁ、カラミ酒とかよりよっぽどマシだ。部長とはいえ、若い美人のナイスバディ女性なんだから色々と危なくねぇか?という心配はあるけどな。第一指摘しても「えっ私そんなことしてませんよ!」とか言いそうじゃねぇか?普段のブラウスも白一色ばかりで本人は色気を出してないつもりかもしれねぇが露出度低くてもピッチピチならエロいってのはあるんだよ!」
それは……わかる。彼女はそれほど酒に強くないし、呑み過ぎることもないが、一杯で気持ちよくなってコロコロ笑うタイプだ。普段と比べると距離感も狂うというか近くなるしな。俺もハニトラ含め女性との距離感には気をつけてきたほうで、彼女に関しても胸を当ててきてるのか?と思ったこともある。意図してるわけでなくこういう人らしい、というのは認識するようになったが、確かにエロいよりも心配のほうが先に立つな。まだ俺も若いつもりではあるが、どちらも未満とはいえ、アラサー、アラフォーくらいの差はある。親子ほどの差はない。俺の兄弟姉妹で一番上は姉、長女だが、その次の長男とも学年基準で11歳離れているから清水さんはそれよりも近い妹くらいの年齢差だ。まあ、兄弟姉妹に自分の下は居ないが。
「まぁ、それは注意してもらわなくてもいいけどよ。ダミーをだんだん減らしていくっていうんなら、マシンができるごとに並行稼動が増える。ウチの工事部の職人でわかっているだろうが、40代から50くらいなら普通に、50代後半から60過ぎくらいでもがんばれば新しいことも覚えられる。建設工事は機械仕事で、特に地方だからといって古い技術をありがたがって使ってるなんてねぇからな。むしろ地方は人手不足で機械がないと成り立たねぇ。で、どうしても残る手作業的な左官仕事や木工の大工仕事は70、80のジジい達でも問題ねぇから、オレのツテでひっかかってきたところを買収してはどうか、って話だ」
検討に値するな。ガンさん、その会社の資本金と借金、債務だな、と、資産や社員構成を教えてくれないか?あと、知っていればでいいんだが、現社長が事業を辞めるか継承するかで悩んでいるか、とか事業継承で親族がモメる可能性があるかないかとか、あとはわかりやすい話として、いくらで買えるかというザックリでいいが情報をまとめてくれないか?
「バッチリまとめてあるぜ。書類は社内クラウドに上げてある。ひっかけてきたツテのほうから、そっちの社長の懇願する映像も、もらっている。オレも業界それなりに長いから、後継者が居ない社長があきらめて廃業というのも、ちょっと辛れぇけど、いくつもな、見てる。社長が買収したウチの元会社の社長より、たぶん誠実じゃねぇかな。数字のほうはオレはそんなに細かく見れねぇけど、おかしくはない感じだったな」
ふむ。従業員は60人規模、そのウチ20人が数年以内に定年、新卒は取れてない。これは厳しいな。財務は……よくないが悪くもない。今なら会社解散しても資産売却できれば何とか退職金は払えるという感じか。ん?造船?そんなのもやっているのか?お手伝いという感じの事業っぽいが・・・
「まぁ、長崎と言えば造船、というイメージもオレにはあるな」
そうか・・・メイン事業ではないとしても造船か。悪くはないな。
「うちに関係あるか?」
シールドマシンを始めとしたウチの機器。重いからな。道路で運ぶとき毎回特認を取らないといけない。時間はトラック、トレーラーよりかかるかもだが、船で運べると港にサブ工場を置けば分解しなくていいかもしれないから助かる。
「社長、それは造船じゃないぜ。海運だ」
それはそうだが、造船ができるならドックがあるだろ?喫水線ギリのものも船で輸送できる。
地元企業であれば土地買収も比較的容易って思ってもいいかな
「そこはいける。そもそも山の中に土地をもってるんで、重機置き場だけじゃなく、オレらの飯場、宿舎とメシ食えるプレハブだな、も、作れそうだぜ。作業員込みだからな。あと、シールド発進基地もな」
ガンさん、それは素晴しい買収案件だ。金はどの程度かかるかな?
「で、ざっくりの資料を読んでもらったわけだが、インパクトのある買収金額を言えば一瞬で決まるんだよ。社長、7億出せるかな。安いとは思ってないんだが、探りを入れてもらった感じだとそのへんなら話になりそう、ということなんだ」
10億で行こう。向こうが頭を下げて「高すぎます!」という金額でいくぞ!ガンさんも頼むぞ。
「マジかよ。まぁ、信用するぜ。社長」