清水さんの新旧な日常。
いいのかしら、って少し思います。
まあ、今まで激務と言えば激務でした。
給料もいわゆる同期、同学年と比較すれば・・・とんでもない金額です。
分かり易い例で言えば、たまに高校の同窓会なんかも行きますが、みんなにはとても言えないほどの差があります。本当に軽く一桁違いますから・・・
高卒で就職して、♡♥年くらい?やっと新人から中堅に扱いが変わった同級生がほとんどです。
インフレの影響や若年層重視などの政策もあり、多少は上がっているみたいですが、精々が1.5倍、凄い人でやっと2倍とかです。私は・・・20倍以上。とても言えませんよ・・・
私も最初のころは大卒との格差なんかにも悩んだりしたので、そこはみんなと一緒でした。でも今じゃ・・・逆格差みたいな?
就職して3年経ったころ、会社が買収されて、古い体質の社員が本当に、比喩じゃなくてバッサリと切られて、まあ、イケメンのうちに入る社長と、謎な開発部さんたちが入ってきました。
そして、総務部は部長も、まあ、社内ですら黒い噂がありましたし、イヤなおっさんだったのも事実ですが、部長の腰巾着含めてザックリ切られて、また、IT化、DX化、AI 化に付いていけない、と自認した人達が辞めていったら・・・なんとアタシが総務部長・・・。
確かにそのころ、アタシはピリピリしてましたが、当時社長は私のことを20代後半、と認識してたみたい・・・まあ、ナメられないように肩肘張ってた自覚もあるけど・・・そのころのアタシは20を過ぎたばっかりですよ(泣)・・・
ちょっと悲しいけど、そのお陰で給料をガツンと上げてもらったのも事実。
ある日突然基本給三倍なんて、嬉しいより恐怖のほうが大きいってのを、その時知りました。
・・・
社長、なぜか給与明細を見ると、とんでもなく私の基本給が増えているんですが・・・
「ああ、清水さん、君が『総務部長』を引き受けてくれたから、職位に応じた給与にしただけだ。一時的に社員総数は減っているが、これからどんどん増えるはずだし、売上もそれに応じて上がっていく。これでも前任の『総務部長』よりは安い給与で申し訳ないんだが・・・上げられる余地を残しておきたい、というのと、部長職としてのお試し期間ということでご容赦いただきたい」
あのフザけたおっさん、こんなにもらっていたんかい・・・自分は会議に出るだけで、実務はほとんど私を含めた若手チームで回していたのに・・・まあ、そのせいで若手チームも崩壊して、もう、私以外は退職してしまったもんなぁ・・・
あの・・・社長、特に仕事内容を変更できるわけでもないんですが・・・この給与でいいんでしょうか?
「ちゃんと調査した結果だ。実質的な総務部長は以前から君だった。以前の部長は・・・実質何もしていないも同然だったからな。部下も付ける。・・・当面は派遣さんで繋いでもらうかもしれないが・・・現実的な話、開発部の連中は有能なのは事実だが、社会性という意味では色々破綻している連中だ。そもそも開発部の部長は名目上、アイツ、CTO だが、清水さんもご存じの通り、まったく出社していない。俺もアイツの居場所はまったくわからないんだ。なので、そういった負荷も今後は明確に掛かってくるので、部下や同僚が足りないなら、『こういう業務を任せられる部下・同僚が欲しい』とリクエストしてほしい。可能な限り補充する」
・・・ここは・・・怯えるんじゃなくて・・・気合を入れるところよね!!
承知いたしました。社長。ご期待に添えるよう、一層努力します!!
「おっ? 総務部長なんてやだ、って言ってたときみたいにゴネるかと思ったんだが・・・」
それも考えましたが・・・高卒のヒラがいきなり部長ですよ?失敗したって、任命した社長が悪い!って開き直ってやるしかないじゃないですか?
「それでいい、それでこそ清水さんだ」
・・・
そんな感じで社長には気に入られたみたいで、サポートもしっかりしてくれました。
正直、自分で「これ」ということを成し遂げたか?と言われると微妙です。
ただひたすらに、場当たり的に発生する事象に対応して、自身の対応力、経験値は上がりまくったと思います。
そして、自分でも「ダサい」と思っていた自分の服装やお化粧も、開発部女子へのトレーニングを社長が主催した時に、自分も希望して参加し、改善していきました。
貧乏高卒新卒アパートのままなので、服はそれほど増やせませんでしたが、プチプラばかりだったお化粧品には投資できましたし、安さ優先だったヘアサロンも、ちょっとだけ高級なところにしました。
あと、エステとか?全身脱毛とか?
うん。20代前半からそういうのにお金を掛けられたのは今となっては・・・
30代に突入した今となってはラッキーだった、と思います。
最初のころから、「社長秘書」とか「社長の愛人では?」は、よく言われていましたが、まあ、反論しても面白がらせるだけだと割り切ってました。
せっかく元よりは美人になれたんだから、ニコニコして黙ってればいいって。
結局、内縁の妻なんていう、愛人同様の立場に自ら望んでなりましたけどね!!
総務部長なんていったって、実際の仕事は社長の事務処理代行とほぼ全社の数字の処理がメインです。
社長はすごく有能な人だし、判断力の凄いものがありますが、妙なところで抜けてたりします。
ついこの間も高卒と大卒の違いについて、お休みの日に結構な時間を取ってお話したりもしました。
・・・
「ちょっと聞いていいかな。もしかしたら長くなるかもしれない」
なんでしょう?
「新垣にも言われたんだが・・・高卒と大卒だと、基本的にコミュニティが違うと言われたんだ・・・今イチ分からなくてな」
私には分かりますよ。少なくとも今は。
それに、今の地位になってしまうと、周りは基本的に大卒や院卒の人ばかりですから。分からないと困るので分かるようになりました。
「そうなのか・・・大卒は文系で、遊ぼうと思えば遊び倒せる学科もあるが、そんな大学でもそれなりのレベルのところを卒業したのであれば、結構な学びもある、というのが高卒との違い、と言われたんだが・・・俺は割と勉強しまくったほうなので感覚的にピンと来なくて・・・教えてもらえないかな?」
そこからですか!!
「脅かすなよ」
いや・・・この会社、社長のモノになってから何年経ってましたっけ?まあ、元の会社のもので残ってるのは最初に改名した無駄に長い漢字の社名だけで、今は通称の短縮名、JSH のほうが通用するようになっちゃってますけど・・・
「確か、9年目くらいだったと思うが」
そういうことではなくてですね・・・まあ、いいです。社長や新垣さんのおっしゃる「いい大学」は多分、私から見たら、偏差値や四年間の学費を見て行くことすら考えなかった大学だと思います。
「国立の学費はそんなにでもないが・・・」
その代わり、偏差値が爆上げじゃないですか。社長は塾や家庭教師にお困りになったことはないと思いますが、庶民にはツラいんですよ。
で、最大の違いを言いますよ?いいですか?
「頼む」
一般的な・・・大学に行くことをお金の都合で諦めたんじゃなくて、行きたくなくて行かなかった人は、高校で勉強が嫌い、苦手のまま、社会に出た人です。
だから、何か強烈なきっかけがないと、勉強をしたりって方向に頭が向きません。
逆に、それなりの大学に行けた人は基本的に勉強をするのが苦にならない人です。
さっきも社長が『割と勉強しまくった』っておっしゃってましたけど、いい大学にはそういう人が集まって友人関係を築くんです。
その上、新卒採用では大卒と高卒はハッキリ区別されてます。あえて「差別」という言葉は使いませんけど、高卒の人は真面目だったとしても勉強はそれほど好きじゃないというのが常識になっているんです。
結果として、大卒以上の人は大卒以上の人としか社会人になっても付き合いが広がらないんです。
例外的に高卒の人がいたとしても少数で、そういう人は高卒のクラスターからは爪弾きにされるんです。
「確かに・・・同世代の友人・知人で高卒というとベンチャーとかで成功して・・・まあ、それでもお金と時間が出来てから大学や院を卒業した、というヤツも多いな」
でしょうね。先回りして言っておくと、社長には高校のご友人もいらっしゃると思いますが、社長が卒業された高校は全員が大学に行くことが前提の高校ですよね?
「余程のことが無い限りそうだ。そうか、高校時代からの友人も全員大卒だなぁ・・・」
社長もマンガくらい読むこともあります?
別に理解してくれなくてもいいですが、ヤクザでもないのに高校生とかその卒業生が地縁、血縁・・・実際の血縁関係でなくても・・・で、動くマンガとか読んだことあります?
「まあ、読むことはあるよ。あれはそういう設定にしたほうがストーリーが面白いからだと思っていたんだが・・・高卒の人は・・・暴力的な描写もあるがそれは無いとしても、そういう価値観で動く人もいる、ということなのか?」
ありますよ。東京近辺だとそれほどないと思いますが、地方じゃそっちのほうが多いですよ。
ガンさんを建設工事の社長にして、その下に地域会社を作ったのは英断だったと思います。
ガンさんは、さっきの例でいうとよっぽどのことがあって、勉強しなきゃダメになるって痛切に感じて勉強を続けられる人になった人だと思います。
だから、社長の言うことも現場の社員や職人の言うこともわかるんです。
「ああ、あれはガンさんが、地域会社はオレが見るからウチの会社の下に付けてくれって頼んできたんだ。報告書もちゃんとしてるし、ガンさんとも今でも月一回以上は1 on 1している。問題がある時は報告書の前に面談を求めてきてくれて、事前に相談してくれるからありがたい」
社長はガンさんにも、もっと感謝してもいいかもしれません。
まあ、ガンさんも今じゃ子会社をいくつも持つ大会社の社長様ですから
『いいってことよ!!』
で済ましちゃうような気もしますが。
「微妙に似てるな。・・・あ、そういえば、地域会社の採用の件でもガンさんとはその手の話をしたな・・・」
ああ、火無瀬さんの件で採用プロセスを整備した時に高卒採用を前倒しで速攻で始めましたよね。
「高卒採用自体はその前から検討はしていて、教育委員会とかにネゴを付けるところから始めてはいたんだ。なのでガンさんに言われてすぐできたわけだ」
その辺が大卒アタマなんですよ・・・
いい感じに働いたんでよかったとは思いますが。
「もしかして・・・機械の表示が英単語だとだめだがカタカナなら大丈夫ってのもそういうことなのか?」
そうです!
「でも、英単語なんて、中学でも高校でも習うだろう?開発部の連中もそんなに難しい単語は使ってなかったぞ?」
アルファベットの時点でダメです。
アルファベットで大丈夫なのはYES/NOとかOK、あとはオートマのPとかRとかDとかです!!
あと、ライトのところに書いてあるAUTOなら大丈夫かもしれません。
今だと、STARTとかENGINE STARTくらいなら大丈夫だと思いますけど・・・
「YES/NO以外、ほぼ車じゃないか・・・」
本社はともかく、地域会社の社員は車必須ですから、そこに書いてある英単語は丸覚えしてますけど、それ以外の英単語には嫌悪感があるんです。勉強できなかった子が多いんですから。英単語なんて、テストでバツを付けられた思い出しかないんですよ!
「そうか・・・そうだとすれば色々不合理に感じていたことにも・・・ある程度の納得が・・・できなくもないか・・・ちょっと嫌なことを聞くかもしれないが・・・」
何でしょう?
「清水さん、君ができそうだ、と思った俺の感覚に間違いは無かったみたいだが・・・君も高卒なのに何故対応できたか、を、教えてもらうことは可能かな?」
はい・・・お答えします。
一つ目は、うちは母子家庭でしたが、貧乏というほどではなく、塾も行かせてもらえましたし、商業高校ですが、大学に行こうと思えば行けました。
その費用も母が貯めてくれていました。
「・・・大学に行かなかった理由を聞いてもいいかな?」
大丈夫です。母親に新しい恋人ができたっぽくて、高校まで出してもらったし、もう、母が女として、好きにすればいいんじゃない?と思ったことがきっかけです。お金は手切れ金的に頂きましたが、ちゃんと税務処理というか、いわゆる名義預金でしたが毎年限度額を振り込まれていて、課税対象になっていないものでした。
「一つ目ということは、二つ目もあるのかな?」
はい、社長の会社に買収されて、開発部の・・・当時はとっても女っぽくなさすぎる女性社員が大量に増えましたよね?
社長がそれにキレて、美容部員さんとか色々な美女を連れてきて彼女たちを教育してくれましたよね?
「したな」
実は私もそれに参加していたんです。お化粧とかも高校のころの自己流で自信なかったし服のセンスもよくなかったと思います。
で、参加してみて・・・思ったんです。ここで仕事するならもっと勉強しないとダメだって
「なぜだい?」
私・・・高校のころ英語の成績は良くて、貧乏OLになってからもラジオで英会話とか聞いてたんで、自信があったんですが・・・開発部女子同士の英語がまったく聞き取れなかったんです。
それどころか、日本語で話している内容もよく分からなくて・・・
あの時点で20代後半のわりに・・・なんていうか・・・若いっていうか・・・
「まあ、言動的には幼いよな。隠語じゃないが略語なんかも多くて分かりづらいだろうな」
それもあるんですが、日本語も英語も単語が聞き取れなかったんですよ。
私より知識がめっちゃあるんだろうから、語彙も凄いんだろうな、とは思ったんですが、すんごい早口でそれを話していて、「それなー」とか「よねっ!」っとか言ってるのがショックで・・・
「しかし、君は彼女らとは割と打ち解けているように思ったが・・・」
聞いたんです。分かんないから教えてくれって。
でも全部は教えられないって言われて・・・
一つは会社の機密に関わることでワザと分からないように話しているって言われて、もう一つはこういうことを朝から晩まで、時には徹夜して土日も議論しっぱなしで何年か、例えば丸々2年とか経たないとわかるようにならない概念があって、その説明ができないって言われて・・・
「ああ、機密のほうは・・・実は大した仕掛けじゃないんだが、あるな。もう一つのほうは・・・どうした?」
あのころはまだ工事部が社内だったじゃないですか?
「そうだな」
なので、ガンさんとこの職人さんに使い方を教えますよね?そういう感じで表面的なところだけ、何なら職人さんに教えるのと同じ内容でいいから教えてってお願いして、ざっくりは分かるようになりました。
・・・って、急に爆笑しないでくださいよ?!
「いや、すまん、実に素晴しいと思っただけだ。彼女らなりに誠実な答えだったとは思うが、妙なところでマジメだからな・・・俺も微分方程式だらけの報告書を提出されて困惑したことなら何十回もあるからなぁ」
社長も数式は分からないんですか?
「学生のころならともかく、今は数字や四則演算、せめて統計ならともかく、多元連立の微分方程式と解法だけ書かれた報告書など見せられてもなぁ・・・」
統計なら分かるんですね?
「ある程度は。一応経営や投資的には常識で必須だからな。しかしよく理解できたな・・・」
表面的にはですけど。数字っていう意味では総務経理としては・・・ROI ですよね?説明ができないと困りますから。必死で覚えましたよ。教え方も・・・あまりうまくないですしね・・・。
「そうだな。まったくうまくない。俺も何度も聞き直してやっと理解できることのほうが多いくらいだ」
でしたね。でも覚えて・・・わかんないところも英語で話せるようになりました。
「それはすごいな?どうやって?言語的に意味不明だろう?」
よく出てくる単語?センテンス?だけですよ。
前後にも似た言葉がでてくるから、ざっくりこういう意味だろう、と思った程度です。最初はビックリされましたけど、だんだん普通になりました。
まあ、余計意味不明なセンテンスが増えましたが・・・
「流石は清水さんだよ。彼等に認められたんだよ」
ありがとうございます。それで・・・ちょっと一つ気掛かりなことがあるんですが・・・
「なんだい?」
先程も社長が仰ったことですが、新垣さんに関することです。
「どうした?早くも裏切りの兆候でもあったのか?」
逆ですよ。これからそうなるかもって懸念です。
「そうなのか?そう考えた理由は?」
この会社の、執行役員総務部長って中々の激務です。私が身を持って知ってます。
「なるほど」
その大半を新垣さんが引き受けてくれましたが・・・
「そういう契約で彼はウチに来た」
私は本当に一日8時間労働で、休日も普通に休めるようになりました。
「それは・・・今まではそうではなかったということか?」
当たり前じゃないですか!!社長は一応休日ってことになってても仕事してることありますよね?!その時はいつでも対応できるようにしてなきゃいけなかったんですよ!!
「う・・・あ・・・そうか・・・雇用契約を役員になったときに結び直したから・・・気付いてなかった!!大変申し訳ない!!」
まあ、それなりの給料をもらっているからいいですよ。それにあっちの会社に行くときは一週間程度不在ですから、休めますしね。
「本当にすまなかった・・・しかし、新垣が来たからそれは大丈夫になったのでは?」
そうですが、給料は同じでいいんですか?あと、新垣さんって、社長よりだいぶ年上のおじさんですよね?あれは体力的に厳しいと思うんですが・・・
「それは大丈夫。時間に余裕ができたとしても難しい判断は新垣から君に上がってくるから、上位者の苦悩は・・・すまないが減らない。さらに職務階級も上がっているので給与については問題ない。それから、体力的にはともかく、彼は良くも悪くも組織人だ。必要があればどこからか人材を用意してチームを組む。彼一人で全てを抱えこむことはしないよ」
私は・・・できませんでしたね・・・社長にヒントをもらってたって、今ならわかるんですが。
「うん。今わかれば遅くはない。彼は君と違い、開発部英語を聞いて意味を推測するなんてのは難しい年齢になっている。英語はできるがな」
褒め言葉と受け取っておきます。しかしCTO がよく言ってた、社長は頭が良いのに抜けてるって・・・今・・・よくわかった気がします。
「まあ・・・自覚があるないで言えばあるが・・・何故、今だい?」
もう、二年近く同棲してるのに、こういうの聞くのが今ってことですよ!!
「そうだな・・・新垣にも言われた。住んでてベッドも共にしているのに何故知らないのかってな」
ホント、そうです!!あーーーーーーー!!
「どうした・・・大声出して・・・まあ、周囲に聞こえたりはしないと思うが・・・」
そーーゆーーーとこでーーーす!!




