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日本盾管隧道建設工業株式会社  作者: Jack...
9年目
108/110

総務部長の新垣執行役員

「社長!!いいかげんにして下さい!」


新垣、また小言か?


「私だって言いたくて言っているわけではありません!!」


最早、様式美である。新垣と俺の罵り合い、自分の出張申請を直前に出して、即時自分で承認してしまうフローについてである。


出張は業務上必要であれば当然認められるべきだ。

但し、一般社員・・・清水さんも含む自分以外の場合、原則暦日で八日前までに上長の承認を得ることになっている。

用は来週水曜日の出張は今週火曜日までに承認取ってね?ということだ。


他社と比べてもそれほどおかしいルールではない。


ただ、どうしても緊急出張ということは有り得る。


そのような場合は、二次承認として、以前は俺か清水さん、今は俺か清水さんか新垣さんの承認を追加で取得することになっている。


地の文では「新垣さん」と言い、声に出すとき、他の社員に聞こえるように言うときは「新垣」と言っている。

この辺はやはりそれなりに年上の彼を常に呼び捨てにするのはどうにも気が引けるくらいの感覚で、彼は「別にかまいませんよ?」と言っていたが、二人だけのときは「さん」付けで呼んでしまっている。


それはいいとして、俺と彼の間で言い合いになるのは、俺が俺承認で緊急出張しまくるからだ。


他の社員に示しがつかない、という意味である。それ自体は俺にも分かる。


新垣、君の言いたいことは理解しているつもりだが、例えば深夜2時に電話で叩き起こされて、翌朝・・・というか当日出張せざるを得ないという場合に、承認者を君にしていたら・・・チケットが手配できないだろう?


JSH グループでは出張手配もシステム化されている。というかそういう旅行会社のシステムを使っているだけだ。

日本ではその旅行会社はまったく有名でもなんでもないが、グローバル企業で、海外の航空券なども考えると、そこと連携するのが望ましかった。

まあ、そのシステムでも最終的には、国内出張であればホテルでも鉄道でも飛行機でも、個人利用でもよく見るシステムに連携される。見覚えはあるし個人でも使うので特に違和感はない。

逆にこんなバラバラのサイトとしっかり連携できるなんてすごいな、と思うほどだ。


まあ、出張精算の手間だとか領収書自体のペーパーレス化、大きな組織になっていく上で、社員によるチョロマカシの防止なども含めて完全システム化していったわけだ。


なので、出張申請、特に直近での出張申請だと、最終承認を得ないとそっちのシステムが使えないわけであり、そのためだけに彼を深夜に叩き起こすのはどうか?という判断になったわけだ。


「社給スマホで承認行為自体はできるので、遠慮なく私に電話してください!」


・・・いいのか?


「そのために私はこの会社に来ました。遠慮は無用です!」


しかし、承認させるためだけに起こすというのもなぁ・・・


「社長お一人ならまだいいですが・・・清水さんを伴う時には絶対に私経由の承認にしてください!!」


その心は?


「税務署に付け入る隙を与えるからです!!会社の出張に見せかけた、夫婦または恋人の旅行というイチャモンを付けられます!!」


なるほど・・・そういえばそうだったな・・・


「社長が肝心なところで抜けていると・・・開発部の皆さんもおっしゃってますが、私にもよく理解できました・・・あなたがた一緒に住んでいるじゃないですか?気付いて下さいよ!!」


清水さんは、総務部長の職位を新垣さんに譲り、常務取締役になった。

そして、総務部の上に出来た組織である経営管理本部の本部長となった。


そして、経営管理本部の下には開発部や船舶部も入った。

清水さんは今までは彼女が実質ナンバーツーであったのは社内的には暗黙の了解ではあった。

さらに各部の部長という職位の中で彼女だけが執行役員であったことから、外部の人間でもそうではないか、という推測も可能ではあった。


しかし、今回の措置で、彼女が私の次の職位であることを明確化するとともに、布施や國本などの部長級と新参者である新垣さんが同格であることも明確化したわけだ。

実質的にはCOOなんだが、彼も慎重でいい意味で臆病でもあるので、部長格ということで話が付いた。


他の部長、副部長クラスの役職者的にも、対外的な意味で新垣さんには執行役員にはなってもらっている旨を、幹部会議でも話していて、理解はしてもらっている。


逆に(元を含む)開発部の連中は土日出勤で超過手当が付くのがうれしい、とのことで役員にはなりたがっていない。

まあ、大学生のころから平日も土日も無しに無給の無休で夢中で研究や実験をしていた連中だから、超過勤務自体には嫌悪感など持っていない。

俺としては健康経営の観点からも超過勤務はやめてほしいし、いわゆる36協定なんかも締結している。

また、雇用契約自体も変更していないので、役員になってしまった清水さん、最初から役員の契約で入ってきた新垣さん以外は「部長」などの役職が付いていても普通に残業代は出す契約になっている。


日本企業では名ばかり管理職でも残業代などを出さないダークグレーな運用が多いそうだが、ウチでは役員にならない限りは、残業代なんかは普通の社員と同等だ。


まあ、創業当初に開発部に提示した、

『会社の設備を自分の研究のために時間外に使ってもかまわない』

という規程を使われると実質的なサービス残業であっても、論文としては個人の論文、というロジックで超過勤務を申請しない、という風潮は残ってはいる。

そのため、開発部の金曜18時シャットダウンも残っている。


もっとも、これも、最初から本社に出社したことが一切無い、CTO やその清滝工場や、そもそも海に出てしまえば基本的に24/365運用しかありえない國本と船長とゆかい丸。こいつらは管理のしようがない。

本社勤務の布施にしてもいざとなれば中型機で闇に紛れて神栖工場に行き、姫嶋と二人で・・・場合によっては開発部総出で週末工事をしていたりする。

まあ、そういう抜け道はある。


ただ、布施と姫嶋コンビでそれをやった場合には、だいたい代休が申請される。

体力の温存が必要な年齢になりつつあるんだろう。

ちなみに、休日出勤の場合、仮に1.75倍だとしたら、代休を申請しても、0.75×8の差額は支給される。


           ・・・


盛大に話が逸れた。まあ、この説明もいつか必要だろうから、今しても構うまい。


わかった。新垣、今度からは深夜であっても容赦無く電話する。

ただ、内線のアプリであれば、社内にログが残るだろう?

三回掛けても反応がなければ自分で承認する。


「ああ・・・なるほど・・・それなら税務署とも戦えるかもしれませんが・・・一応顧問税理士に確認させてください」


慎重だな?


「この仕事、慎重で臆病でなければ一瞬で破綻することだってあるんです。開発部の皆さんや社長は大胆でもかまいませんが、私は臆病一辺倒でやらせていただきます」


それで会社としてはバランスが取れるという判断なら尊重しよう。


「取れてませんよ・・・慎重派は私一人じゃないですか?」


清水さんもどちらかと言えば慎重派だし、過去にもずいぶん怒られたもんだが?


「考え方は慎重派ですが、行動は特に社長に引っ張られるときは、時には大胆ですよ?」


まあ、ガッツリメイクすれば見た目も派手にできるからな、彼女の場合。


「大事にしてあげてくださいよ・・・これは、会社員ではなく、親戚のすこし歳が上なだけの、一人の男としての意見ですが・・・」


そのつもりだし、行動でも示しているつもりだが・・・不足なのかな?


「それは本人同士で確認してもらうしかありません。社長の・・・いわゆる正妻の枠は今でも空いている・・・という認識で良いのでしょうか?縁談など持ち込まれたりしませんか?」


縁談は常時持ち込まれているな。婚姻届は提出していないから、正妻の枠自体は空いているんだろうなぁ?


「他人事じゃないんですから・・・はぁ・・・総本家には何ていって通したんですか?」


特に何も・・・まあ、次期当主、惣領である上の兄にはWeb 面談で、俺が役職を引き上げた結果、彼女が危険に晒されるようになってしまったので、責任の取り方の一つとして、彼女の提案した内縁の妻という形態を受け入れることにして、身柄を自分のマンションに引き取るということは事前に伝えてある。


「ああ、彼ですか。彼に伝えてあるなら、お父様にも伝わっているでしょうし、一応コアメンバーの了解を得ているということでしょうね。まあ、弁護してくれたんでしょう」


そうなのか?


「正直、うらやましいですよ。ウチなんて分家の分家に過ぎないのに、小さな権力を争って兄弟仲はよくないです。私は二人の兄に遠慮したおかげで、こんなラッキーを拾えたと思ってますが」


まあ、20歳以上年上だから、俺は兄上だとは思っているが感覚的には親戚のおじさん、のほうが近いかもしれないけどな。


「母親が違ってもご兄弟として愛してくれている、というのは新年の集まりでもわかっていましたよ。あれは見せるためにやっている感じじゃなかったですから」


次兄は長兄といくつかしか違わないが、そこも仲は悪くないぞ?


「正直、流石本家は違うな、と思いつつ、会場のはじっこで見てましたよ」


分家のほうの文化は知らないんだが・・・仲悪い兄弟は多いのか?


「両方です。良いとこもあれば悪いとこもあり、少子化でそもそも男子が一人しかいないところも多いですよ。今では。うん、男子がおらず養子を探している家もあります」


俺への縁談の大半はそっちだな。


「会ったことはお有りですか?」


何人かは。まあ・・・國本レベルとは言わないが、ある程度の知性がある人ならいいんだが・・・まあ・・・無いな・・・


「ああ・・・姫嶋さんでも芳野さんでもいいですが、そういうお方、ということでしょうか?」


姫嶋はあの見た目で結構べらんめぇっぽいところもあるが・・・まあ、そういうことだな


「高望みですよ。あの家系の女子でそこまでお勉強が得意な人はいないでしょうし、しようとしても止められるまであるでしょう」


まあ、見た目はいいのが多いけどな・・・


「そっち優先でしょうね。お父様とかにせっつかれませんか?」


いや、長兄にも既に子供がいるから跡継ぎ的には問題ないだろう?

それに見た目なら今の清水さんでも充分に良いし、確かに高卒だが、経験と実績で相当カバーできているし、度胸だって並じゃない。


「まあ・・・そうでなければ私の前任の総務部長など出来はしなかったでしょうね。引き継いで分かりましたが・・・これを残業無しでこなしていたなんて・・・極端に仕事が速い人ですよ?」


商業高校出身で、簿記の資格も持っているみたいだし、地頭がいい、というやつなんだろうな。残業は報告を受けているが毎月10~20時間程度あったみたいだぞ?


「20っていったって、平均一時間じゃないですか。総務部長といいつつ経理の仕事も見てたんだから、月末月初をどう捌いていたか謎なレベルです」


今じゃJSH バックオフィスに相当アウトソースできているからな。


「それにしてもですよ。まあ、わかりました」


何がだい?


「社長、社長は・・・当分の間、正妻を娶ることはないでしょうね」


それは・・・そうかもな。

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