ホールディングスの組織改革②
新垣さん、少し堅めに話すが・・・
基本的には私からの権限移譲は新垣にハンドリングしてもらう。
今の体制だと私と清水さんの『間』が無いし、清水さんでやれることは、先程新垣が指摘したように限界がある。
一応役員研修や総務研修などは外部の教育機関で受けてもらったが、やはり限界があるようだ。
彼女は優秀だが、先程の指摘通り、学ぶ先が無いことについて自力で学ぶのは大変なことだ。
「承知いたしました。では、次に清水執行役員・・・今のところの名称ですが、今日はこれで行きます」
わかった。
「清水執行役員、長いので地位が重要なところ以外では、私も『清水さん』と呼んでよいでしょうか?」
かまわないよ。
「清水さんは学習意欲も高く、社長ほどではないものの、頭も切れますが、社長もおっしゃった通り、まったく知らないことを学ぶのは得意ではありません」
それは普通そうじゃないですか?
「社長は院卒、私は四卒ですが、彼女は高卒ですぐ働いています。文系の私なんかは理系の社長からすれば、四年間遊んでいたようなものだろう?と思われるかもしれませんが、それでも四年間、それなりには色々な知識、学問に触れていますし、友人との遊びの中でも学ぶものはありました。先程『経験不足』というやや失礼な形容をしましたが、その中にはそういうものも含まれています」
まあ、大学時代の友人は生涯の友人、という感覚はありますし、おっしゃることは理解できます。ただ、言い方が悪いかもしれませんが、実感として違いがイマイチ分からないんです。
「それこそ内縁とはいえ奥様なのですから、休日の前とかに長い時間を取って肚を割って話してみてはいかがですか?それとも、彼女を保護するための仮の措置でそういうことは難しい関係性でしょうか。いきなり突っ込み過ぎですみませんが・・・」
ああ、確かに・・・別に話すことはできますし、その、なんというか、一応、男女の関係もありますから、そういうときに布石だけ話して、その後時間を取ってもらうということも可能しょう。言われてみたら当たり前でしたね。
そうか・・・本人に聞けばいいのか・・・
「社長も・・・頭が切れる割に、気付かないこともあるんですね・・・」
いや、それもウチのCTO を始めとして開発部の連中にもよく言われることです。あんたは頭がいいはずなのに、こういうところで抜けてるってね。
「まあ、それくらいのほうが可愛げがある、とも言えますから・・・それでよいと思いますよ。あまりにも完璧だと周囲も疲れますから」
というか、完璧から程遠い・・・適当すぎなんですがね。
「細かい指摘は今回は置いときますが・・・次に行っていいですか?」
お願いします。
「では次ですが、清水執行役員からの権限移譲先が少なすぎます」
うん。それは私も感じています。
「これがの経験不足の発現のうちの一つですね。もっと大規模チームを編成しないとなりません」
彼女が見ていた中小企業の総務部のイメージのままで編成してしまっているということですか?
「概ねそういうことだと思います。これについて彼女と話をしたことはありますか?」
無いですね。なるほど、完全に私の落ち度です。
JSH バックオフィスを作ってそちらに投げているので、なんとかはなっているようですが。
「はい。そうです。でも地域の工事会社ならともかく、本社、ホールディングスでは画一的な対応では困ることも多いはずで、その度にバックオフィスではなく、清水さんが一人で対応している状況です」
確かに・・・面白いことも起きますが、私か彼女、または布施などの部長連中で対応していますね。
「この会社は開発部が力を持ち過ぎています。そういう技術会社ですからそれ自体は問題ありませんが、この会社の総務は人事や経理も含めて裏方、事務方を全てやる部署ですので、役職者の比率ももう少し多くないと回りません」
新垣さんだけでは不足か?
「いえ、私が雑務を引き受けますので、社長と清水さんがそちらに回ることができる形になります。それで、当面は足ります」
ああ、そういう。なるほど。他に総務での問題はあるかな?
「神崎課長をうまく使えてないです。先日の面接員は適切だったと思いますが、それだけではなく、もっとやるべき仕事もあるかと思います。将来的には部長代理⇒部長へ昇進させるための研修等も受けさせるべきかと思います」
それは考えています。彼本人にもキャリアパスを考えてもらういい機会だと思いますので、新垣さんからもご指導願います。
「指導はいいんですが、最近だとちょっとやりすぎるとパワハラ扱いですからなかなか手加減が難しいところはあります」
ちょっと使い勝手はいいけど、応用力が無い感じではあるんですよ。彼。
「そうでもないですよ?私が今日最初に言った、段取り付きの指示の話です。大項目と重要な中項目まで決めてあげれば、その他の中項目や小項目は彼のほうで考えたり決めたりできますし、上に相談することもできるんですよ」
ああ・・・そう言われれば、現場では結構臨機応変にやっていましたね。
「社長は重要な大項目の指示だけですから・・・それですと、ここまで自分が決めていいのか?などの迷いだって出ます。相談するにしてもこんなに自分で勝手に決定するのか?ここまで聞いていいものか?というように逡巡してしまうんですよ」
そういうものですか・・・
「そういうものです。社長はご自分の思い付きがだいたい上手くいってしまう人なので、失敗を恐れる心理がよくわからないんだと思います。先に言ってしまうと、開発部の皆さんも思い付きが上手くいく人達ですから、社長と同類で今まで上手く会社を拡大できているんです! 普通の人にはそれはできないんですよ」
まあ、そうかもしれないですね。
「大体なんですか。あの軍艦みたいな輸送船は!そして二番艦も引渡し間近ですが、あっちはさらに大きな軍艦じゃないですか・・・」
ああ、あれは軍艦になる予定だった船を廃船にさせるのも忍び無いんで、ニコイチで引き取ったものですから。あくまで輸送船ですけど。まだ船体だけで、エンジンすら載ってない状態で引き取ったわけですし。
「艤装計画もおかしいですが、まあ、それはこの会社の技術ということでヨシとしましょう。海自も家のラインで採用したんですよね」
まあ、そうだね。利用できるものは利用しないと。
そう言えば総務の人数は増やす方向性だと思うんだけど、前の会社の部下とか、そういう人を採用するのか?
「自分の子飼いを連れてくるなんてしません。JSH バックオフィスから常駐人員を増やしてもらいます。必要に応じて予定紹介派遣のほうがよいかもしれません。育てる時間はいただきますが」
意外だな・・・叔父の紹介だし、僕の中ではあっちのラインかな、と思っていたんだけど?
「あのですね。私だって、前の会社で定年まで勤め上げる選択肢だってあったんですよ。大して出世はできないでしょうけど、普通のサラリーマンとしてはまあまあの給料や退職金はもらえたはずです。しかし、ここを調べれば調べるほど魅力的に感じてしまったんです!」
それは・・・ありがとう?でいいのかな?
「はい。そして、調べれば調べるほど、ここに来たら一生足抜け不可だな、と思えてしまったわけです。なので、私のことを議員の紐付きと思われることは最初から覚悟していますが、私の中では違います。これは信用してもらわなくてもいいです。何年後かには信用してもらえるように行動を続けるだけです」
それはこちらこそ、そう予断してしまっていることをお詫びしたほうがよいかもしれませんね。あの叔父とはやっぱり確執が無いわけではないので。
「それはそうでしょう・・・自分のような凡人でもしがらみだらけですし・・・分家の分家に過ぎないんですがね・・・本家の方は本当に大変だと思いますよ」
まあ、多少はあります。今は自由に使えるお金が増えたので・・・軍艦モドキを買える程度にはですけど・・・家督とかは無関係なのでそれほど大変でもないですよ?
「それは・・・社長の投資の天才度が桁外れなだけですよ!個人資産ですか? それとも、会社資産ですか?」
船は会社資産ですね。再投資しないと税金でまるっと持ってかれちゃいますから。
「昔の土地バブルのようなやり方ですよ?大丈夫ですか?」
いや、土地のように、同じ品目のものに延々と投資してるわけじゃないですからね。それに船殻だけですし、元々の発注元が国家ごと無くなっているからかなり割安でした。
「それでも何十億円じゃないですか・・・軍艦とすれば激安なんでしょうけど」
ガワだけですから。




