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できちゃった……

「できちゃった……? そんなバカな……」


 彼はそうつぶやくのが精一杯であった。


 そんな彼に、私は声を掛ける。


「なにがバカなの?」


「できちゃったんだよ。ファンタジーなんだ。」


「何がだよ。」


「わかるだろ。北関東の某所。なぜあそこかというと――雷だ。」


「雷がどうした。」


「某バック・トゥ・ザ・なんとかでもあるだろ? 雷起動はロマンだよ。」


「ロマンか。」


「ロマンであり、実質的に核融合炉でも作れない限り、雷起動しかない。夢っぽいけど論理的にそれしかない起動方式なんだ。」


「核融合炉は……エネルギー収支がまだ難しいかもな。」


「そうだな。雷起動が今後も予想されるから、某所の実験場は残しておいてほしい。次の実験機もたぶん雷起動になる。」


「そうか、わかった。で、どこに行くんだ?」


「俺は逃げる。隠れる。連絡は取れるようにしておくから、探さないでくれ。」


 突然、あわてた様子で彼は立ち上がった。


 私は慌てる彼にこう声を掛けるしかなかった。


「いや、いくらなんでも説明不足だ。いままで何をやっていたかは知ってる。なにができて、何がバカなのかを五分でいいから説明してくれないと、俺も困るんだよ!」


「そりゃそうだな……。じゃあ、今まで研究していたのが重力波に関することだというのを踏まえて――今北産業で。」


 微妙に古いな、と思いつつも、私は顔の動きだけで続きを促す。


 彼曰く――


・重力波エンジンっぽいのが作れないかと思っていたら、偶然作れた。

・なんと、電場を介して重力波が作れるっぽい。まだ研究は必要なので資金は引き続きよろしく。

・理論については正直わかっていないが、大統一理論に修正を加えるような大発見かもしれない。


「……なんだ、研究始めて十年ちょいだろう? 異常な短期間とも言える大発見じゃないか。逃げることなどないだろう? どちらかというと俺から言うべきは――おめでとう、じゃないのか?」


 そう言うと、彼はひどく引きつった笑いを浮かべながらこう返してきた。


「軍事転用だよ。たぶん俺の命が危ない。あるいは拉致されて研究させられるとか、そういうのが怖すぎる。」


 そう言いながら、彼は荷物をまとめはじめた。


 この事務所は東京郊外にあり、実験場は北関東。おおよそ百キロほど離れている。ここでは大規模な実験などできないから、リモートで実験場の機器を操作したのだろう。


「うーん、軍事転用か……しかし、拉致監禁まで考えるのは、さすがに考えすぎじゃないか?」


 私がそう問うと、彼は首を横に振った。


「いや、何年か前だけど、いくつかはarXivにも投稿しているし、重力波界隈も盛り上がってる……とは言えないが、過疎っているわけでもないし。第一、業界が狭い。とりあえず実験場に行って、いくつかセットアップしておくけど、そのあとは例のチャネルだけで連絡してくれ。電話も危険だ。」


 彼は愛用の二画面ラップトップとキーボードをしまい、こちらを振り返ることもなく事務所を後にした。


「まったく……」


 そうつぶやきながら、私は事務所――と自称しているが、実際には賃貸マンションの一室にすぎないこの部屋――を見渡す。ここで会社を続けるにしても五、六人が精一杯だろう。社名と定款の変更、そして事務員を募集しなくてはな――そう思う反面、それだけでは足りないのかもしれない、という気持ちも同時に湧き上がってくる。


 どうしようかな――。


 今後、彼が表に出てくることがあるのかどうかはわからない。多分、「彼」という表現を使い続けるのも面倒だ。今後は「あいつ」と呼ぶしかなさそうだ。


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